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第28話
シマさんの部屋は白が基調とされていて、本人そのものを表しているみたいだった。
掃除も俺の部屋よりもいきとどいて不可抗力とはいえ自分の家にあげたのが恥ずかしい。
今まで清いお付き合いをしていたからか1回目よりも2回目のほうが変に緊張する。
そわそわしながら突っ立っていると、シマさんに座るように促された。
大学生の一人暮らしだから広くはなくてベットの前にちゃぶ台という配置だ。
何も考えず座ったせいで背中がベットを向いている。
いや、別にそのつもりで来たからいいんだけども。
背筋を伸ばしてなるべくベットとの隙間を開ける。
するのシマさんがこちらに近づいてきて息がかかる。
ベットのスプリングが軋む音がした。
俺はぎゅっと瞼をとじる。
「暖房つけますね。」
そう言いながらシマさんは離れていった。
見てみると彼の手にはリモコンが握られている。
「はい、、、。」
なんて気の抜けた返事をしてしまった俺をシマさんはキョトン見つめる。
俺ばかりが意識してしまったみたいで恥ずかしくなり、聞かれてもいないのに誤魔化す。
「なんか花粉きついですよね。ははは」
「ミツルさん、花粉症だったんですか?上着はらわなくてすみません。」
俺は花粉症であってもスギ花粉だからまだ飛散していない。
それに外で咳もでてないからバレるだろうにシマさんは心配してくれる。
しょうもないプライドで謝らせてしまった。
「いや、大丈夫です。」
「よかったです。あの、コーヒーと紅茶どっちがいいですか。」
「コーヒーで。」
シマさんは返事を聞いて台所に向かう。
ヒロならせいぜい出されてペットボトルの水くらいだった。
数秒ぼーっとしていたが何もいないのはよくないと立ち上がって手伝う。
俺がヤカンを借りて湯を沸かしているとシマさんが「しまった。」と小さく呟いた。
何事かと思って顔を向けると苦笑いした彼がいる。
「あの、うちコップ一つしかなくて。僕は茶碗使いますね。」
その様子から見るにあまりこの家に人は来ていなかったのだろう。
元カノも家には入っていなかったのか。
シマさんのこういう少し抜けたところがあるのが可愛いと思う。
俺はくすりと笑うとシマさんはしょんぼりした。
慰めようと頭を撫でると、
「かっこ悪いとこ見られちゃいました。」
なんて頬を染めながら言うからたまらない。
さっきまでの緊張がほぐれていく。
シマさんの行動のお陰で何も意識せずに談笑することができた。
気づくと外は暗くなっていて、そろそろ電車に乗らないとやばい。
ただヒロとの思い出がたくさんあるあの部屋には帰りたくない。
急に足が鉛のように重くなった。
それでもお世話になるのは申し訳ないとノロノロと上着を着だしたら、
「今日、泊まっていきませんか。」
シマさんが袖口をきゅっと摘んで俺を見上げる。
顔は真っ赤でも俺から目は逸らさなくて、指先が震えていた。
「はい。」
つられて俺も顔が赤くなりながら答える。
今日何回目かわからない沈黙が流れた。
シマさんがすくっと立ち上がってそれを破る。
「ご飯、作りますね。」
泊まるのに作ってもらうのを待つだけなんできない。
急いで立ち上がってシマさんを追いかける。
「俺も手伝います。何作るんですか。」
袖をまくりながら向かうとシマさんは大きめな鍋を取り出していた。
「ありがとうございます。ミルフィーユ鍋すよ。」
俺は白菜を切ってシマさんはつゆをつくる。
包丁とまな板がぶつかる音が小刻みに響く。
今まで料理は1人でやってきたから新鮮な感覚だ。
煮込み時間がいるメニューだから鍋の番を順番にして風呂に入る。
いつもシマさんから香るシトラスの匂いが俺の頭からもした。
先に風呂に入ったシマさんは器とか箸を準備しててくれて、部屋にはいい匂いが漂っている。
「「いただきます。」」
手を合わせてシマさんがよそってくれたのを口に入れる。
白菜はトロトロで豚肉の旨みを吸っていてる。
風呂と鍋で体の芯がぽかぽかしてきて、冬の布団の中みたいな空気が心地いい。
シマさんに料理の感想を伝えて食べ進める。
そういえば俺達はいつまで敬語なんだろうか。
付き合ってるのに少し距離を感じてしまうから、もうやめてもいいと思う。
シマさんもはじめよりも俺に心を許してくれている気がするし、敬語をやめれないか聞いてみよう。
「あの、そろそろ敬語やめませんか。」
俺がそう言うとシマさんの箸がとまった。
どうしよう、いきなり距離を詰めすぎたのかもしれない。
なんて言われるか身構えていると弾んだ声がかえってきた。
「いいですね。僕も思ってました。」
シマさんはにっこり笑って言ってくれる。
安心して胸をなでおろすと、
「練習しませんか。」
なんてことを言われた。
確かに今でずっと敬語で喋っていたから、シマさんとタメ口で話してるのなんて想像できない。
自分から言ったのに変に緊張してきた。
「やってみましょう。」
2人して大真面目な顔で見つめ合う。
どっちから話すんだろうか、やっぱり言い出しっぺの俺からだろうと意を決して口を開く。
ただ意識するとさっきまでたわいのない話ができていたのに俺は展開文を言う。
「今日は寒いね。」
「そうだね。気温は3℃くらいらしよ。」
英語の教科書の例文みたいな会話だ。
それに2人とも棒読みで幼稚園のお遊戯会のほうがまだ感情がこもっているだろう。
なんだか可笑しくなって2人とも笑い出す。
「ふ、変な会話。」
「あはは、緊張しすぎたね。」
今のもぎこちないけどさっきよりはましだ。
ただ敬語をやめただけなのにそれがとっても特別なことに感じる。
その後も俺達は練習を続けて寝る前にははじめよりは上手く喋れるようになった。
ついでに呼び方もさん付けを外した。
でもまだ慣れなくてお互いたまにさんをつけてしまう。
それでもいっきに距離が縮まった気がする。
きちんとした恋人になれていると思って嬉しい。
俺達は恋人同士だから同じベットで眠ることにした。
男2人だからやっぱり狭くて肩があたる。
触れた肌からシマを感じて安心していると、後から腕を回された。
シマの少し高めな体温が俺を包み込んで心臓が跳ねた。
「ミツル、明日さミツルのマグカップ買いにいこ。それでデートしよ。」
眠たいからかいつもより少し低めの声。
ゆっくりとした話し方。
その全てがシマさんも男性なんだと意識させる。
「うん。」
自分でもびっくりするくらい甘えた声を出して返事していた。
するもシマさんはすぐに寝息をたてる。
シマさんの鼓動の音を聞きながら、明日のデート楽しみだなんて考えながら俺も瞼をとじた。
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