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第29話
「起きて。時間なくなるよ。」
そう言いながらシマさんのほっぺをつつく。
白くて柔らかい触り心地がおもちみたいだ。
さっきからアラームはスマホと時計の両方から鳴っている。
止めたくてもシマさんが俺をがっちり抱き込んでいるから動けない。
脇腹をくすぐるとシマさんがみじろいで、聞き取れない小声で何か言った。
そろそろ起きるかもしれないと、さらに脇腹をくすぐると
「ミツルさん、おはようございます。」
少し掠れた声が聞こえてきて、まだ開ききってない目が細められる。
敬語が抜けてないのが逆に無防備さを醸し出していた。
俺もつられて敬語で返す。
「おはようございます。シマさん。」
その返事を聞くとシマさんは愛おしいそうに俺の髪をなでる。
そのまま瞼を閉じてしまいそうだったから俺はシマさんのほっぺを優しめに伸ばした。
「もう、また寝ないでくださいよ。デート行くんでしょ?」
俺が少し拗ねたふうに言うとシマさんは目を大きく開く。
たぶん目が二倍くらいになった。
「ごめんなひゃい。しゅぐ行きましゅ。」
俺がほっぺを摘んでるから舌足らずな返事でシマさんは焦ってるのにどこか気がぬけて聞こえる。
その様子が可愛らしくて俺は摘んでたシマさんのほっぺを撫でる。
「いいですよ。一緒に起きましょう。」
俺が微笑むとシマさんは顔が赤くなって強く抱きしめてれた。
目の前がシマさんのパジャマだけになる。
「ミツルさん、あんまり可愛い顔しないでください。僕、おうちから出たくなくなっちゃいます。」
かわいいのはおうちとか使うシマさんだと思う。
本当に幸せな朝だななんて考えた。
ヒロならそもそも朝は俺の隣にいない。
朝には消えてしまう温もりに必死に縋っていた自分よりもきっと今のほうがいい、これが正解だ。
白い部屋での暖かな朝を体に覚えさせる。
「ふふ、それは困っちゃいます。デート楽しみなんで。」
俺がそう言うとシマさんは俺を離す、けど指先が名残おしそうに俺の肩を撫でた。
それに負けないように俺は足早に布団から這い出る。
遅れてシマさんもついてきて洗面台に向かった。
その後は朝食を2人で用意して食べる。
シマさんはやっぱりモソモソ食べてて、ハムスターみたいだった。
デートとは言ったものの俺はいきなり泊まることになったから服なんてないから、シマさんの服を借りる。
いつもはパーカーとかTシャツとか楽なのを着るからシャツを着るのは新鮮だ。
鏡で変じゃないか確認すると見慣れない自分が写っていた。
シマさんの服を借りたから2人でリンクコーデしてるみたいになってまるでバカップルだ。
俺がだんだんとシマさんに塗り替えられていく。
そんな自分が気恥ずかしくてシマさんに尋ねる。
「変じゃない?」
「似合ってるよ。香水もつける?」
シマさんから香水を受け取って手首に振りかける。
ヒロからはバニラぽっい匂いがしたけどシマさんからは柑橘系の匂いがした。
それだけで前とは自分は違うんだって思える。
シマさんと少し遠くのアウトレットを歩く。
人が多いから手は繋いでないけど、肩がぶつかりそうなほど近い。
マグカップを探すために来たのに結局、俺達は関係ないものばかり見ていた。
「あれ可愛くない?」
シマさんが指さしたぬいぐるみをみるとなんとも言えない表情をしている。
ブサカワとかいう感じのウサギだ。
正直よくわからない。
「確かにかわいい。」
俺がそう言うとシマさんは満面の笑みで答える。
「なんかミツルに似てるよね。」
シマさんには俺があんな風に見えているのかと思うと少し複雑だ。
でも悪気はなさそうだし褒めたつもりなんだろう。
それに俺を可愛いって思ってくれてると言うことでもある。
シマさんはその雑貨屋を気に入ったみたいだから店に入った。
動物をモチーフにした商品が店に並べられていてメルヘンな世界観だ。
あの日のカフェみたいに女の子がいっぱいの店内で俺達は浮いている。
気まずくて万引きでもしたみたいにビクビクしている俺の裾をシマさんがひく。
食器とかが置いてある棚は詰めて置かれて自然と距離が近くなった。
首筋に息がかかって少しくすぐったい。
そんなことを考えながらマグカップを眺めてると黒と白のペアのマグカップが目にとまった。
犬がかかれてるけど他のかわいらしい雑貨とは少し違うテイストだ。
これなら使えそうだしシマさんは白い食器を使っていたから部屋にもあうだろう。
「「あれ、、」」
俺達は同時に指を指していた。
「ふふ、あのマグカップいいよね。」
シマさんがそう言って目尻にくしゃりとシワがよる。
同じことを思ってたのが嬉しくて、
「うん。俺それにするよ。」
俺がそう言って白いマグカップを取るとシマさんも黒いマグカップをとった。
家にもうマグカップがあるのになんでだろう。
「お揃いにしたくなった。いい?」
そうな言いながらシマさんは俺を覗きこむ。
こういうところが狡いと思うけど計算してやってないのがわかる。
ヒロと俺がお揃いだったのは吸ってた煙草の銘柄ぐらいだった。
消耗品じゃないお揃いなんてはじめてだ。
「うん。嬉しい。」
俺達はお互いのマグカップを別々で会計して渡し合う。
必要もないのにプレゼント用のラッピングまでしてもらって少し浮かれてるのかもしれない。
俺がシマさんにはマグカップを手渡すと
「ずっと大事に使うね。」
なんてシマさんは大切そうに両手で抱えてくれた。
ずっとだなんてヒロから言われたことはない。
俺がヒロの生活に入り込めたことなんてなかった。
誰かの一番になるってこういうことなんだろうと思う。
もうヒロには合わない、俺にヒロは必要ない。
帰り道俺はヒロの連絡先と一緒に長くて苦しい恋心を消去した。
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