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第8話

スタジオに着くと、既に晴彦さんは真矢さんに引きづられてスタジオ入りしていた。 前に見た時よりも、痩せてる晴彦さんがいて、その弱り具合をありありと表していた。 でも、そこで立ち止まる俺ではない。 俺は黙々とベースのチューニングをし始める。それを見て、察した真也さんもドラムを叩くための準備をする。 ついでに、真矢さんは晴彦さんのギターも持ってきていてチューニングしていた。 いつもは、晴彦さんのカウントで始める曲を、俺がカウントをとって始める。 「1.2.3」 それに、合わせて真也さんもドラムを叩く。 俺は真也さんの音を聞こうとせず、晴彦さんに伝えることだけを目一杯考えて掻き鳴らす。 いつもはミスらないとこで、ミスったりめちゃくちゃだ。 兄の言っていたベースがバンドを締めるというのとは真逆の演奏をしている。 それでも、聞けるものになっているのは、真矢さんがバランスを取ってくれているからだろう。 伝われ、伝われ。 俺は晴彦さんに感謝してるんだ。 俺はあんたの歌声にギターに救われた、あんたはもっと強くてカッコいい奴だろ。 弾きながら涙が滲んできたが、堪えた。 ここで泣いたらカッコ悪い。 俺たちの演奏を聴いていた晴彦さんがいきなりギターをかき鳴らして俺たちの演奏に入ってきた。 俺を救ってくれたみたいな音。 いやそれよりも、もっと自由で力強い音が鳴ってる。 主旋律も歌詞もなかった曲が晴彦さんの演奏で、塗り変わってく。 負けじと、俺も応戦する。 真矢さんも、珍しく応戦してきた。 ほとんど殴り合いみたいな音楽で聴けたもんじゃない。 でも、俺はこの音よりいい音をこのバンドで聴いたことがなかった。 一曲、演奏した後には、俺たちは汗まみれだった。 それぞれの息遣いだけがスタジオにひびく。 不意に、晴彦さんが口を開く。 「お前ら、最高だわ。お前らとやる音楽が一番好きだ。」 「俺、間違ってた。お前らの音は俺のもんだと思ってた。でも違う。お前らを俺のものにするより、殴り合うほうが楽しいわ。これからも俺と喧嘩してくれよ。」 晴彦さんは、まっすぐな目で俺らをみた。 その目には、あの弱っていた晴彦さんの影はもうなかった。 伝わったんだ。 俺の音が。 俺はまた尊敬する人を失わずにすんだ。 俺達は笑いながら 「臨むところだ。です。」 と返す。 晴彦さんはニヤリと笑ってギターを弾きはじめる。 その後は、馬鹿みたいに演奏して明け方スタジオをでた。

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