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21話・6日目その3《フェイクの告白》

10時にミツバくんの部屋に来るよう、指示をされた。 昨日も思ったけれど、BL動画を撮影し始めてから、ポツポツと変な空き時間がある。 朝食後の今もそうだ。 僕が一度熱中症で倒れたから、ミツバくんが気を遣ってくれているのだろうか。 でも、その気遣いのせいで、満足いくものが出来上がらなかったら本当に申し訳ない。 そう考え、約束の10時より15分ほど早く、ミツバくんの部屋を訪れてみることにした。 なにしろこの企画『【BL】24時間かけて、俺の撮影スタッフを口説いてみたらどうなるか』が終わるまで、残り2時間しかないのだから。 部屋のドアをノックしようとしたとき、中から声がすることに気が付いた。 誰か来ているのだろうか? 他のメンバーは、外へ撮影に行っているはずだ。 藤原さん?とも思ったけれど、彼女だったら部屋には招き入れないだろう。 僕は辺りを見渡し、誰の目もないことを確かめて、ドアに耳をつけた。 声はミツバくんのものしか聞こえない。 もしかして、誰かと電話している? 盗み聞きの罪悪感を感じながらも、僕は耳を澄まし、彼の会話を聞き取った。 『・・・んだ。で、もうすぐ10時。アイツが部屋に来る。もしも、もしもアイツが俺に告白してくれたら、この企画は成功と言えるだろう。ここまで何度かに分けて、カメラの前で語ってきたように、俺の気持ちだって、溢れてしまいそうなんだ……。はぁ、こんな企画、始めなければよかったな』 僕は息を止め、音を立てぬようドアから離れ、一旦自分の部屋へ戻る。 そして、大きく息を吐き出す。 あれは電話ではない。 ミツバくんは、僕が空き時間だと感じていたタイミングで、カメラに向かって独白する動画を撮っていたのだ。 『俺の気持ちだって、溢れてしまいそうなんだ……』 わかってる、わかってる。 彼は、フェイクドキュメンタリーの名手だと。 自分で財宝を埋める動画を撮って、それを掘り起こす動画をエンタメとして撮れるような人なんだと。 今の僕にできることは、彼の動画を成功へと導くことだけ……。 — 僕はあることを決意し、大きく深呼吸をした。 「よし」 10時ちょうどになって、カメラを構えミツバくんの部屋をノックする。 「はい」 彼は笑顔で迎え入れてくれた。 ミツバくんの部屋は森が見える僕の部屋と違って、海が一望できる。 「このホテルさ、娯楽として用意してるのは、オセロとトランプとUNOと、ジェンガだけなんだって。オマエはどれがいい?」 「うーん、ジェンガかな」 「いいね!」 窓際のローテーブルを挟んで、僕らは向かい合わせに座る。 そして、彼がジェンガを並べている間に、僕は背後に三脚を立て、カメラを固定した。 これで僕の後頭部、ジェンガ、その向こうにミツバくんという構図が撮れるはずだ。 「じゃ、俺からね」 危なげなく、1本ずつブロックが引き抜かれていく。 進んでいくごとに、ミツバくんはわざとグラグラと揺れそうな箇所を、取ったりする。 「ミツバくん、そこはダメ、危ない!あー、もー、ドキドキする。こういうの、性格でるよね」 「なんだよ。オマエも性格出てるよ。慎重派なんだなって。もっと攻めてこいよ」 だんだんと取れる場所が無くなっていって、ミツバくんは身を乗り出し、いけそうなブロックを探す。 ジェンガの塔はグラグラと揺れていて……。 僕の恋のコップもそれに伴って揺れて、今にも溢れてしまいそうだ。 「よし、ここなら、いけるだろ」 少しずつ少しずつ、ブロックを押し出すミツバくん。 グラ、グラ、グラグラ……。 絶妙に保っていたバランスが崩れ、ジェンガの塔は「ガシャン!」と倒壊する。 その瞬間、僕はミツバくんの唇に、自分の唇を重ねた。 ほんの一瞬の出来事。 彼は驚いた顔をしている。 ジェンガが崩れたこと、僕が不意打ちにキスをしたこと、両方にびっくりしたのだろう。 背後のカメラは僕の後頭部が彼に近づいたことしか、捉えていない。 それでも、この彼の顔を見れば、僕がキスしたと視聴者は気が付くはず。 「ミ、ミツバくん……、こんな企画、残酷だよ……。好きになっちゃうに決まってるじゃん……」 ミツバくんは困ったように眉毛を八の字にしたのち、僕の腕を掴み、ぐっと引き寄せる。 「俺も、俺もオマエを好きになっちゃったよ」 足元にジェンガが散らばる中、ミツバくんは僕を抱きしめてくれた。 僕は彼の肩口に顔を埋め、フェイクだと分かっていても嬉しくて、幸せを噛みしめる。 これで、この動画企画も、無事成功したはずだ……。 だから僕は、ミツバくんが「カット」と声をかけるのを待っていた。 でも、その声はいつまで経っても、聞こえない。 ついさっきまで必死だった僕は、だんだんと自分がミツバくんにキスしたことや、告白したことを実感し始める。 キスしちゃったんだ……。 顔が熱くなり、堪らなく恥ずかしくなって、彼に問う。 「ねぇ、カットは?」 「ん?」 「ミツバくん……カットって、言ってよ……」 少しの間をおいてから、掠れた小さな声で彼がようやく口にする。 「あっ、うん。カット……」 僕はその言葉を聞くとともに、彼から離れ、距離をとった。

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