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番外編 ギルドマスター・コバムの誤算 3

「……ほどほどにしておけよ。ドノバンもおっさんだ。体力には限度が……」  私が暴走する怪物をなだめるように諭すと、セルウィンはきょとんとした顔をした後、事も無げに即答した。 「限度? 問題ありませんよ」  セルウィンは私の言葉を遮り、身を乗り出した。その瞳が、怪しくギラつく。 「マスター。貴方は知らないでしょう? ……あの人の身体能力の高さが、夜の営みにおいてどれほどの武器になるか」 「聞きたくもないわ!」 「いえ、聞いてください。……頑丈なんです。いくら突いても、どれだけ広げても、壊れない。むしろ、私の激しさを受け止め、内壁が生き物のように吸い付いてくる」  セルウィンは、空中の何かを揉むように、指をワキワキと動かし始めた。 「それに、あの分厚い胸板……筋肉質に見えて、掴むと驚くほど柔らかくて吸い付くような手触りなんです。特に先端の感度が良くて、少し弄るだけでビクビクと可愛らしく跳ねるんですよ」 「やめろ! 友人の乳首の話なんか聞きたくない!」 「声もいい。普段はあんなに野太い声なのに、奥のイイ所を抉ってやると、裏返った高い声で泣くんです。『やめてくれ』なんて言いながら、中はよだれを垂らすように絡みついてくる……」  セルウィンは、恍惚とした表情で自身の股間あたりに視線を落とした。 「……私のコレは、少しばかりサイズが大きいもので。女性相手では最後まで挿入できた試しがなかったのですが……ドノバンさんのあの大きな体は、根元までずっぽりと、余すことなく全てを受け止めてくれるんです」  言いながら、セルウィンは自身の股間――下腹部のあたりに、そっと手を添えた。  無意識なのだろうが、その手が象る「大きさ」と、スラックスの上からでも分かる充実した重量感に、私は思わず視線を吸い寄せられてしまった。  ……デカい。  想像したくないのに、脳が勝手にシミュレーションしてしまう。  あの規格外の質量が、ドノバンの尻を無慈悲に割り開き、内臓を押し上げるほど深く杭を打ち込んでいる光景を。  あの強気なドノバンが、物理的な暴力に近いそれに貫かれ、涙目で喘ぎながら翻弄されている姿を。 (……待てよ。あいつ、生きてるのか?)  私は一瞬、真剣に悩んだ。  あのヤリチンクズ野郎ことBランクの男と、この規格外の化け物・セルウィン。  ドノバンの貞操と身体にとって、果たしてどっちがマシだったんだ?  ……いや、どっちも地獄だ。選択肢が極端すぎる。 「最高の相性だと思いませんか? 私の全てを飲み込んでくれるのは、世界で彼だけだ」 「…………」  私は答えられず、ただ遠い目をした。 「昨日は、ドノバンさんの自宅に押しかけ……いえ、招待されましてね。一日中、彼のナカを堪能していたんです。気づいたら朝でした」 「……貴様、あいつの家でもやったのか」 「ええ。キッチンに、リビングのソファに、浴室でも。……家中を私の匂いと液でマーキングしてきました。もう、彼がどこにいても、私の所有物(モノ)だと分かるでしょう」  セルウィンは、うっとりと息を吐いた。 「最初は抵抗するんですがね……一度スイッチが入ると、あんな強面(こわもて)が、涙を流して『もっと奥に』とねだるんですよ? ……たまらないでしょう?」 「やめろ! 友人のそんな話、聞きたくない!」  私は耳を塞ぎたくなった。  あのドノバンが、そんな姿にされているとは。  しかも、この男の口ぶりからすると、合意の上とはいえ、かなり強引にねじ伏せているのは明白だ。 「……ドノバンも、少しは拒絶しねえのか」 「拒絶? ……ああ、最初は嫌がりますよ。でも」  セルウィンは、嗜虐的な笑みを浮かべた。 「私が強引に押し入ると……彼の身体のほうが、喜びで震えてしまうんです。それを指摘してやると、恥ずかしさでさらに締まる。……拒めないようにしているのは私ですが、結局、彼も私のモノが好きでたまらないんですよ」  責任転嫁も甚だしい。  だが、セルウィンの自信に満ちた表情を見るに、ドノバンの方も完全に(ほだ)されてしまっているのだろう。あの面倒見の良さが、ここでは完全に仇となっている。 「……で、だ。監視小屋の弁償の件だが」  私は話題を実務的な方向へ戻し、確定事項として告げた。  すると、セルウィンは即座に答えた。 「もちろん、弁償します。最高級のベッドを入れましょう。……それと、相談なんですが」 「なんだ」 「いっそ、仮眠室をリフォームしませんか? 防音性を高めて、もっと広いベッドが入るように拡張したい。費用は全額私が持ちます」 「却下だ!!」  私は机をバン! と叩いた。 「あそこは職場だ! 公共の施設だ! お前のヤリ部屋じゃねえんだよ!」 「ですが、ドノバンは仕事熱心ですから。……休憩時間の短い合間にも、愛し合いたい時があるでしょう?」 「ねえよ! 我慢しろ!」  セルウィンは不満げに肩をすくめた。 「……仕方ありませんね。では、現状のままで我慢します。……多少狭い方が、密着できて興奮しますし」 「…………」  私は頭痛が再発するのを感じた。  こいつは、何を言っても無駄だ。ドノバンを食うことしか考えていない。 「……監視小屋での不法侵入と器物破損については、今回は不問にする」  私は渋い顔で、本来ならありえない決定を伝えた。 「本来なら騎士団に突き出して然るべき案件だ。だが、そうすれば……被害者であるドノバンが、お前と『同意の上で』行為に及んでいた事実まで明るみに出る。勤務中に職務を放棄し、侵入者と交尾していたとなれば、あいつの立場がない」 「おや。騎士に私たちの愛の営みを詳細に説明するのは、興奮しそうで悪くないですが」 「貴様はよくてもドノバンが死ぬわ! 友人の尊厳を守るためだ、感謝しろ!」  ドノバンが尋問で「どこをどうされたか」などと説明させられる地獄絵図を想像し、私は友を不憫に思った。  だがな、セルウィン。  私は、ギルドマスターとしての威厳を込めて、指を突きつけた。 「仮眠室のドアは、修理ついでに撤去する。カーテン一枚にしてやるからな」 「は?」 「密室になるから盛るんだ。さすがに布で仕切られてるだけならお前も自重するだろう」  これぞ妙案。  そう思った私に対し、セルウィンはきょとんとした顔をした後――ニヤリと、凶悪な笑みを深めた。 「……なるほど。音や声が外に漏れる状況、ですか」 「あ?」 「見られているかもしれない、聞かれているかもしれない。……そんな状況で、必死に声を殺して喘ぐドノバン。……想像しただけで、ゾクゾクしますね」 「貴様ァ!!」 「構いませんよ、マスター。私は、彼が私のモノだと周囲に知らしめることに、何の躊躇もありませんから」  ダメだ。  この男の変態性は、私の想像を遥かに超えていた。  逆効果だ。むしろ、新たなプレイを提供してしまっただけかもしれない。 「……もういい。帰れ。顔も見たくない」  私は力なく手を振った。  セルウィンは「では、失礼します」と優雅に一礼し、足取り軽く退室していった。  その背中は、これからドノバンの見舞い(という名の襲撃)に行く喜びに満ち溢れていた。  パタン、と扉が閉まる。  静寂が戻った部屋で、私は天井を仰ぎ、重い溜息をついた。 「……すまん、ドノバン」  友よ。  私が紹介したのは、誠実な好青年などではなく、お前を骨までしゃぶり尽くす飢えた魔獣だったようだ。  だが、お前も満更ではなさそうなのが、唯一の救いか……いや、救いなのか、それは?  ふと、背筋に嫌な汗が流れた。  まてよ。……あの「ガーディアン」たちが、この事態を知ったらどうなる?  ドノバンを溺愛していた三人の元パーティメンバー。  彼女たちはすでに六十代になり引退しているが、未だにその実力は衰えていない。怒らせれば、素手で上級の魔物を屠り、夫たちを土下座させるほどの覇気を纏っている。  もし、大事な「弟分」が、どこの馬の骨とも知れぬ若造に食い散らかされ、腰が立たなくなるまで犯されたと知ったら……? 「……血の雨が降るな」  想像してしまった。  鬼の形相でギルドに乗り込んでくる歴戦の女傑たちと、ドノバンを独占するためにそれを迎え撃つであろう、恋に狂ったセルウィン。  ……間違いなく、災害級の衝突になる。  私は震える手で引き出しを開け、カタログを取り出した。  今はただ、せめてもの償いをしよう。  私は、最高級の『腰痛用コルセット』と、『精力増強剤(受け身用)』を注文票に書き込んだ。  これからの彼の波乱万丈な――そして濃厚すぎるセカンドライフに、幸多からんことを祈って。 (了)

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