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番外編 ドノバンの休暇 1 ※

 朝、俺は体の悲鳴で目を覚ました。 「ぐ……っ、ぁ……」  ベッドから起き上がろうとした瞬間、腰から背骨にかけて走る激痛に、思わず情けない声が漏れる。  自宅の寝室だ。慣れ親しんだはずの場所だが、今は嵐が去った後の廃墟のようになっている。  ギリギリ俺の体にかけてあるブランケットは、得体の知れない汚れがこびりついており、シーツに至っては無残なシミと皺だらけで見るも無惨な状態だ。  だが、そんなボロボロの体とは対照的に、俺の心は不思議と晴れやかだった。  なぜなら、この寝室と俺自身を徹底的に乱しきった犯人――『蒼き流星』のリーダーことセルウィンが、今朝方ギルドの緊急任務で他国へ遠征に向かったからだ。 (……やっと、いなくなったか)  俺は安堵のため息をつきながら、数時間前の悪夢のような光景を思い出した。  遠征の出発時間が迫っているというのに、しつこく俺を貪り続けていたセルウィン。  そこへ、しびれを切らした『蒼き流星』のパーティメンバーたちがやって来て、激しく玄関の扉を叩いたのだ。 『リーダー! いますよね!? 出発の時間過ぎてますよ!』 『いい加減、ドノバンさんを貪るのやめて出てきてください!』  外からの叫び声に、俺は血の気が引いた。  だが、セルウィンは動じるどころか、むしろ聞かせるように激しく腰を打ち付けてきたのだ。 「っ、あ゛……! ぅ、うぁ……ッ!」 「……聞こえてますか? 彼らが呼んでますよ」 「ば、馬鹿野郎……ッ! さっさと……行けッ!!」  俺は必死に声を絞り出し、ここから出ていけと訴えた。  だが、この性欲の化け物は、俺の言葉を都合よく解釈しやがった。 「行け? ……ええ、喜んで。あんたの中でイきます」 「ちが、うッ……! もう中に、出すな……ッ!!」  俺の拒絶も虚しく、奴は一番深いところへ熱いものを注ぎ込みやがった。 『リーダー! 外まで丸聞こえですよ!!』  外からの悲鳴じみたツッコミに、俺の心は死んだ。  その後、満足したセルウィンがようやく身支度を整え、玄関を開けた時だ。  この家は古い造りで、奥の寝室には扉がなく、玄関からリビングを抜けて、直線的に見通せる構造になっている。  当然、入ってきたメンバーたちの視線は、玄関先のセルウィンを通り越し――奥のベッドで事後のまま、ぐったりと横たわる俺へと突き刺さった。 『……あっ!』 『う、わぁ……』  ブランケットから覗く、赤黒い鬱血痕だらけの肌。白濁にまみれ、放心状態で天井を見上げる俺の姿。  彼らが凍りついたあの瞬間。  俺の羞恥心は、音を立てて消滅した。  聞かせたくないに決まってるが、どうせ最中だと分かっていて踏み込んできたあいつらも悪いのだ。……そう責任転嫁でもしないと、やってられない。 「……ふぅ。とりあえず、久々に一人の空気だ」  ともあれ、あの湿度と温度の高すぎる粘着質な視線に晒されないだけで、部屋の空気が美味く感じる。  このまま体の痛みを治すためだけに貴重な休みを使い切るのはもったいない。  散らかり放題の部屋を片付けたいし、どうしても一人で外の空気を吸いたいし、何より街外れの店の激甘パンケーキを食べに行きたい。  重い体を起こし、ふとサイドボードに目をやる。  そこには、友人のギルドマスター・コバムが、先日申し訳なさそうに寄越した『最高級腰痛用コルセット』と『精力増強剤(受け身用)』が置かれていた。 「……まったく、余計なお世話だっつーの」  友人に情事の腰の心配をされるなんて、情けないにも程がある。  それに、「受け身用」とは何だ。状況が物語っていたとはいえ、当然俺が下だと決めつけられているようで、なんとも微妙な気持ちになる。  男同士のことなんて俺にはよく分からないが、上と下が決まっているとは限らないのではないか?  まあ、現に俺は完全にセルウィンのいいように抱かれ、転がされているわけだが。事実として突きつけられると、いたたまれない。  それどころか、俺が恋愛下手なのに同情してセルウィンをけしかけたのが、他ならぬコバムらしい。  腹を空かせた猛獣に食われる肉の気分を、俺はここ数日で嫌というほど味わった。  これが「恋愛」なんだとしたら、もう勘弁してほしい。  俺だって、恋愛経験がないわけではない。  数少ない女性との付き合いもあった。だが、どれも長く続いた試しがなく、一ヶ月もしないうちに相手から理由も告げられず、ただひたすら謝られながら振られるのが常だった。  あの女性たちからすれば、俺は今のセルウィンのような猛獣に見えたのだろうか。 (実際は、俺を溺愛する元パーティメンバーの姉御たちが裏で手を回していたせいだと、最近コバムから聞かされたが)  姉さんたちから教わったように、優しく振る舞っていたつもりなのだが……見た目は傷だらけの獣みたいなものだから、怖がられても仕方ないのかもしれない。  確かにガタイの良い俺でも、寝込みを襲われて、性的な意図であちこち触れられるのは恐怖を感じた。  男に抱かれるのも初めてなのに、「卑猥だ」の「男を誘う体だ」だのと言われた挙句、透明な瓶で中まで覗かれたのだ。  体に侵入してきたブツも、あまりにデカすぎて中が壊れやしないかと本気で恐ろしかった。  セルウィンの強引さとテクニックで有耶無耶になっていたが、もし女性の立場だとしたら、処女であんな目にあったらトラウマものだろう。  好きでたまらないと告白はされたが、あいつは過去の好きな女にも同じことをしてきたのだろうか。  だとしたら、相当な悪い噂になっていてもおかしくないはずだが……。 (まさか、セルウィンがあそこまで理性のタガを外して体に溺れた相手が、俺が初めてだとは夢にも思わない) 「……掃除、するか」  そんなことを悶々と考えているうちに、部屋の掃除が終わっていた。  汚れきったシーツやブランケットは、風呂場に放り込んでつけ置き洗いをしている。  ふと、棚に並べていた趣味の手芸品に目をやる。  手慰みに作ったサシェや、編み込んだ装身具が、いくつか見当たらないのだ。  ……まさか、あいつ。  昨晩のどさくさに紛れて、勝手に持ち出して行ったんじゃないだろうな。  あの執着心の強さだ。俺の作ったものなら何でも欲しがり、また変なことに使っている可能性が高い。  想像した瞬間、芋づる式に己の痴態が脳裏に蘇る。 「やめよう、考えるのは!」  俺は頭を振って思考を追い払った。  今日は、うまい空気を吸って、パンケーキを食べるんだ!

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