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愛賀の目の前に来た時、しゃがみこんだ客がこちらに手を伸ばし、咄嗟に目を閉じた。 「持ってこようとしたことは認めてやるか」 「⋯⋯う⋯っ?」 口枷のベルト部分を掴み、左右に揺らした。 恐らく頬を撫でているつもりなのだろうか。 思ってもみなかった反応に目を瞬かせることになった。 苦肉の策だったが、あれで良かったのだろうか。 と、その時。ぐぅうう⋯⋯と低く唸るような声がした。 無意識に発したのかと思ったそれは自身の腹からだった。 「急になんだ。腹でも減ったのか? さっき食べたばかりだろう」 呆れたような声で言う客に違うと首を横に振り、仰向けとなり、貞装具を見せつけるように足を大きく開いて前足で掻いた。 「トイレの方か。仕方ない。来い」 立ち上がり、トイレの方へ向かう客の後を遅れて追いかけた。 「ああ、そういえばさっきしたやつ始末してなかったな」 ドアを開けるなりそうぼやく客の後ろから顔を覗かせるように見た。 視線の先にあった汚れたペットシートを見た時、出した後風呂場に連れて行かれ、そのままにしていたことを思い出した。 いつもならば自分で後始末をしておくのだが、そうしている隙さえなかった。 今度こそ怒られると腹痛を感じながらも、客が行こうとするのを気にも止めず、我先にと出て行っては前足と口枷を使ってシートを畳もうとしていた。 「何をやってんだ。もしかして片付けようとしているのか?」 「わ、わふ⋯⋯」 「そうか。自分でしたものはきちんと片付けないといけないもんな」 恐る恐るながらもそう返事した。すると意外にもあっさりとした言葉が返ってきた。 怒られると思っていたものだから、拍子抜けしてしまった。

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