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第2話指名依頼
カイがスノウに匂い封鎖の魔法を掛けてから間もなくして、獣の臭いと不穏な気配は消え去っていた。
(やっぱりあれは、スノウを狙っていたんだろうか?)
商店街で囁かれていた噂話も聞こえなくなり、周囲は日常を取り戻している。
カイは何となく引っかかる物は感じていたけれど……
普段通りの生活が戻ったお陰で、いつしか忘れていた。
「あら〜、やっぱりスノウじゃない? この店で働いてるって聞いたから来てみたら、本当に店員やってるのね」
カランコロンとドアが開く音が鳴り、涼やかな声を上げながら店に入ってきた客は、冒険者ギルドの常連で剣の腕が立つと有名な女性だ。
露出度の多い刺激的な衣装を身に纏っていて、周囲の視線を惹きつけている。
真っ赤な薔薇の花のような女性で、触れば鋭い棘が刺さると、ギルド内でも言われていた。
女性は何故か鳥籠を抱えていた。
「よくここがわかったね、子猫ちゃん。俺に会いに来てくれたの? 嬉しいな〜」
相変わらずチャラくてキザな物言いで、スノウは微笑んでいる。
「そうよ。スノウをデートに誘おうと思って」
デートと言う言葉に、店の奥の作業場に居たカイも、ビクリと肩を震わせる。
(デートって……まさか、行く気じゃないだろうな?)
スノウに限ってそれはない。きっとない。
そう思いたいけれど……
「……気になる」
カイは椅子から立ち上がると、こっそりと売り場を覗きに行った。
「やだなぁ~ブレンダちゃんとデートなんて。魔物退治か、迷宮探索の間違いじゃないの?」
にっこり微笑むスノウに、ブレンダは猫のように目を細めた。
「あらぁ~よく分かってるじゃない? 前衛職が足りないのよ」
「残念だけど、今はこの店で働いてるしね。俺はカイ専属の護衛だから」
「魂喰い の魔術師ね。ねぇ、私本当はあなたに会いに来たのよ。そこに居るんでしょ? カイさん」
「……うっ」
こっそり隠れて覗いていた筈が、ギルドの実力者にはお見通しだったようだ。
渋々カイは二人の前に姿を現す。
「エルンがカイさんに伝えたい事があるんですって。伝書鳩飛ばしたけど、ギルドに戻って来ちゃうって言うから、私が直接持って来たのよ」
(あ……守護結界)
守護結界のせいで、伝書鳩が迷ってカイの元に辿り着けなかったようだ。
「はい、確かに渡したわよ」
ブレンダはカイに鳥籠を手渡す。
その中には、魔石が埋め込まれた鳩が入っていた。
「メッセージは鳩の足輪に付いてるから、読んであげてね」
ブレンダはそれだけ言うと、踵を返す。
「それじゃまたね。次は二人ともデートに誘ってあげるから。逃げちゃ駄目よ?」
颯爽と店を出て行ったブレンダは、まるで嵐のようだった。
店の奥の作業場に戻り、カイは鳥籠の中から伝書鳩を出した。
鳩の足輪には紙片が結びつけられている。
冒険者ギルドの受付嬢エルンからの伝言。
「仕事の依頼か?」
カイが開いた紙片を、隣に立つスノウも覗き込んだ。
(俺宛の指名依頼……)
依頼の内容は書いてなかったが、依頼人はカイを指名しているらしい。
「カイを指名してくるなんて……よほど難易度が高い依頼なのかな?」
「……ここしばらくギルドに顔を出していなかったから。取り敢えず話だけでも聞いてくる」
出かける準備を始めたカイを、慌ててスノウが引き止める。
「俺も行くよ」
「行くって……俺宛の依頼だぞ?」
「俺の側にいる方が安全だって言ったじゃない?」
「うっ」
確かに言った。言ったけど……
「俺はカイ専属の護衛だからね。キキちゃんに店番頼んで来るから、待っててね」
スノウは売り場にいるキキに店番を頼んでいる。
(来るなって言っても、絶対ついてくるんだよな……)
カイは諦めて、スノウと一緒に冒険者ギルドに行く事にした。
冒険者ギルドに着くと、いつものように建物の中に入って行く。
カイとスノウの姿を見た途端、ギルドの中に居た者達がざわめき出した。
「魂喰い と砂塵の白狼だ」
「最近見なかったが、あいつら組んでたのか?」
やたらと衆目の視線を集めてしまうのは、ソロ専門だったカイが、スノウと一緒に現れたからだ。
カイもそうだが、スノウもギルド内では砂塵の白狼の二つ名で呼ばれる程の実力者として知られていた。
「カイさん! 来てくれたんですね!」
ギルドの受付嬢エルンが、パァッと安心したような笑みを浮かべた。
「伝書鳩が戻って来ちゃったから、連絡が取れなくて困ってたんです」
カイは伝書鳩が入った鳥籠をエルンに手渡した。
「ブレンダさんにお願いして良かったです」
エルンはほっと穏やかな表情を浮かべた。
「俺に指名依頼って?」
早速本題に入ったカイに、エルンは依頼書を取り出した。
「カイさんには北方の国境地帯にある、封鎖された墓地の封印を解いて欲しいと言う依頼が来ています」
「墓地の封印解除? アンデットの討伐依頼ですか?」
「こちらでは封印解除としか聞いていません。詳しくは依頼人が、現地で直接説明するそうです」
「依頼人から説明を受けるの?」
スノウの問いにエルンは頷く。
「アンデットの討伐なら、聖職者か死霊術師 の方が適任だと思う……」
考え込んでしまったカイに、エルンは言う。
「カイさんを指名したのは、たぶん報酬の問題かと思います」
「報酬?」
「お金ではなく、魔石で交渉したいそうです。魔石で依頼を受けてくれるのは、この広いガラハッド王国でもカイさんぐらいですからね! 普通の人には魔石の真贋は分かりませんので」
にっこり笑うエルンに、カイは渋い顔を浮かべる。
「……魔石なら何でもいいわけじゃない。品物によっては断る可能性もあると、依頼人に伝えてくれますか?」
「はい。もちろんです」
「俺も一緒に行くよ」
そう言うスノウにエルンは言う。
「カイさんへの指名依頼なので、スノウさんには報酬は出ませんよ?」
「それは良いの。俺はカイ専属の護衛だからねぇ〜」
「すっかり仲良しさんなんですね!!」
「エルンちゃんにも分かる? 俺とカイは恋人同士だから」
「きゃ~そうなんですか!」
「おい! 何言い出すんだ!」
カイは慌てて二人の会話を遮った。
聞き耳を立てていた周囲の冒険者達がざわめく。
「あの二人、恋人なの?」
「マジか?」
すっかり格好の噂のタネをばら撒いてしまって、カイは依頼書をコートのポケットに突っ込むと、スノウの腕を掴み強引にギルドの外へと引っ張って行った。
頬を赤く染めながら無言で歩くカイに、大人しく引きづられながら、スノウはついて行く。
「そんなに恥ずかしがらなくても良いのに」
「あんたは良いかもしれないが、何であんな目立つ所で言うんだっ」
「牽制に決まってるでしょ?」
「牽制?」
いったい何に牽制する必要があるのか? 理由が分からないカイは立ち止まる。
「カイを狙ってる奴らに。釘刺しておかないと、カイは鈍いから」
(鈍いって……)
ずいぶんな言われように、カイは眉間にしわを寄せ、ムッとする。
「だいたい俺を狙うって? ギルドにそんな命知らずいるわけがない」
カイの実力を知らず、狙ってくるような腑抜けは、あの場にはいない筈だ。
「あ〜あ。やっぱり分かってないね。カイは。そういう所も好きだけど」
(ますます意味が分からない)
「まぁ、いいや」
何故か自己解決してるスノウに、カイはますます眉間に皺が寄ってしまう。
「怒ってるカイも可愛いけど、綺麗な顔が台無しだよ? カイは美人なんだから」
不貞腐れてるカイにウインクして、スノウは颯爽と歩き出す。
(う……どうしてこう………キザなんだ……恥ずかしくないのか? スノウは)
結局カイはどう足掻いても、余裕しゃくしゃくのスノウに振り回されてしまうのだ。
反論するのは諦めて、スノウの後をカイは追いかけて行った。
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