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第4話野宿
出立直前。
「キキ、店をよろしく頼む」
魔石店はケット・シーのキキに留守を頼むことにして、カイは依頼人に会う為出かける事にした。
「カイ様、スノウさん、ララさん。どうかお気をつけて」
少し不安そうな顔をするキキに、スノウが言う。
「キキちゃん、看板娘頑張ってね。お土産買ってくるから、楽しみにしてて」
「もう、スノウさんったら」
「キキ、俺達は大丈夫だから」
「はい。カイ様」
依頼人が指定した町は、ガラハッド王国の北方に位置するヴェルグラスと言う町で、順調に依頼をこなしても、王都に戻って来るのは早くて半月。もしかしたら、もっと時間がかかるかもしれない。
カイがそんな長期間、店を留守にするのは久々の事だった。
「それじゃ行ってくる」
キキに見送られ、カイは首元に潜り込んだララと一緒に馬に乗る。その脇でスノウも同じように荷物をぶら下げた馬に跨った。
王都の城壁に設けられた厳つい鉄柵の門をくぐり抜け、住み慣れた王都をあとにする。
二人と一匹は北方へと馬を走らせた。
目的のヴェルグラスの町までは遠く、外道沿いには幾つも宿場町があるが、町と町は距離も遠く点在していて、どうしても野宿しなければならない夜もある。
旅人の往来がある道であっても、人里離れた場所はいつ魔物が出てきてもおかしくない。
獰猛な野生動物に遭遇する可能性もあるので、野宿をするには一晩中、獣避けに火を焚く必要があった。
カイが馬を降り荷解きをしている間に、スノウは慣れた様子で周辺から焚き木に使う枝を集めてくる。
「スノウ、火を付けるのか?」
カイが魔法で火を起こす前に、スノウはコートのポケットから小さな魔石を取り出すと、勢い良く砕いた。
魔石から溢れ出した魔力を使って、スノウは火炎魔法で焚き木に火を付ける。
「これくらいなら俺も出来るからね」
「スノウは慣れてるんだな」
パチパチと爆ぜる焚き火の炎で、スノウの長い銀髪が赤く染まった。
「仕事でね。自宅警備員だけじゃなくて、王都の外に出る事もあったの。俺は飼い主の命令なら何でもこなしてきたから」
軽い口ぶりで何でもないようにスノウは口にしたけれど……
カイは何も言えなくなってしまった。
(スノウが暗殺者として有名だった事は、俺も知っている)
人好きのする人柄で明るいスノウに、おいそれと近付く者が限られていたのは、並みの冒険者では相手に出来ないとギルドの人間は感じ取っていたからだ。
(冒険者ギルドでは砂塵の白狼と言えば、手段を選ばず何でもこなすと、怖がられていた……)
カイとはまた違った意味で、スノウは畏怖されていたのだ。
(スノウは一度も、今までどんな事をしてきたか口にしない)
スノウが言わないことは、カイは無理に聞かない。
スノウにはスノウの世界があり、踏み越えてはいけない一線があるから。
カイにも触れて欲しくない事がある。
それが分かるから、聞けない。
沈痛な面持ちで口をつぐんでしまったカイに、スノウが突然抱きついてきた。
「うわっ!」
「カイ、一緒に包まろうよ」
毛布を頭から被せられ、カイは驚く。
「二人でくっついてれば温かいからさ」
「キュー!」
「ララも一緒にね」
毛布をペシペシと叩き、自分も中に入れてと訴えるララを、スノウが手招いた。
ララはスルスルと毛布の上を登って行くと、二人の間に器用に収まった。
(温かい……)
スノウの体温と、ララのモフモフの毛が、冷たいカイの体を暖かくする。
体が温まってくると、カイの気持ちも穏やかになった。
「スノウ……もっと効率よく火を起こす方法を教えてやろうか?」
「へ?」
何を言い出すんだろうと、スノウは目を丸くしている。
「せっかく火を起こせるんだ。身を守る為にも、火炎魔法の精度を上げた方がいい。覚えておいて損はしない」
(スノウは計算しているようで、感情的になると無茶をするから……)
オークションに出品されたカイを見て、自分の立場を忘れて、カイを助けに来たように。
(スノウを守る為にも……教えておこう)
「魔法は魔石から引き出した魔力で、発動させるものじゃない。魔石はあくまで魔力を補充する為の補助だ。自分自身の持っている魔力を使って、魔法は発動させる。自分の魔力が減ってから、魔石の魔力を引き出すんだ。スノウは手順が逆」
「そうなの? でも、どうやってやればいいの?」
「魔石に頼らなくても、いつも通り火を起こせばいい」
カイはスノウの手を掴む。
「手のひらに魔力を集中させるイメージを浮かべて、火を起こす」
カイの言葉通り、スノウは目を閉じると眉間に皺を寄せ、必死に集中している。
しばらくした頃、ボウッと音を立てて、スノウの手の平から小さな炎が上がった。
「出来た!」
だが炎はすぐに小さくなってしまう。
「あ〜、消えちゃう」
しょんぼりとしたスノウに、諦めるのは早いとカイは続ける。
「大丈夫だ。ここで魔石を砕くと、減った分の魔力が体に補充されて、炎を維持する時間が長くなる」
カイの言う通り、スノウは魔石を砕いた。
「本当だ……消えない」
「この方法なら、火炎魔法を着火だけじゃなく、直接火を飛ばす事にも使えるようになる。……すぐには無理だけど」
魔力がそれ程高くないスノウは、強引に力技で火炎魔法を展開させる方法を学んだのだろう。
(きっと魔法には詳しくない人間に、教え込まれたんだ)
誰が何の為にスノウに教えたのか?
カイにはその目的が想像出来てしまって、複雑な気持ちになってしまった。
「凄いな。カイは教えるのも上手なんだね。カイ先生に教われば、本当に出来る気がする」
子供みたいにはしゃぐスノウに先生と呼ばれて、カイは苦笑する。
「先生はやめてくれ」
「良いじゃない、カイ先生。俺もベッドでいろいろ教えてあげてるじゃない?」
「うっ……」
真っ赤になって俯いてしまったカイの耳に、スノウが囁く。
キスすら知らなかったカイに、男を教えたのはスノウだ。
カイはスノウしか知らない。
「ね、カイ先生」
「もう……教えてやらない」
カイはプイッと顔を背けた。
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