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第6話瞳の色の腕輪
目的地である国境地帯北部の町ヴェルグラスに近づくにつれ、立ち寄る宿場町には獣人の姿が多く見られるようになって来た。
「せっかくだからさ、キキちゃんへのお土産ここで買ってこうよ」
土産物が多いネーヴェの町で、スノウはカイを町中に連れ出す。
ネーヴェの町は雪国の入り口とも呼ばれる町で、ここから先は寒さがいっそう厳しくなる。
「お土産なら帰り道で買った方良いんじゃないか? 荷物になるだろう?」
カイは観光で来たわけではないのだからと、お土産には興味がなかったのだが……
「一期一会ってやつでさ、今買わないと次はないって事もあるから」
どこか含みのある言い方が気になったけど、カイはスノウの意向を尊重する事にした。
(スノウは楽しそうだし……まぁ、良いかな)
数ある土産物屋の中から、カイとスノウはキラキラとしたアクセサリー
が並ぶ店に足を止めた。
「キキちゃんには、これなんか似合いそうだよね」
人間の少女の姿をしている時のキキの為に、スノウは花の形をした可愛いらしい髪飾りを選んでいた。
カイはケット・シー本来のモフモフ猫の姿をしたキキが喜びそうな、綺麗な刺繍の施されたリボンを選ぶ。
会計をしようと、カイが獣人の店員に声をかけた時だった。
「ちょっと待ってて」
「スノウ?」
先に会計を済ませたカイが待っていると、スノウが何かを手にして戻って来た。
「会計をお願いします」
キキへのお土産の他にも気に入った物があったようで、スノウは上機嫌で買い物を済ませる。
「何を買ったんだ?」
スノウが買った物に興味を示したカイに、スノウは突然買ったばかりの腕輪を手渡してきた。
「カイにあげるよ」
「え?」
「お揃いの腕輪。俺はアメジストの腕輪付けるから、カイはこっちね」
カイが渡された腕輪には、ラピスラズリがあしらわれていた。
銀色のリングに嵌められたアメジストとラピスラズリは、カイとスノウの瞳の色だ。
恋人の瞳と同じ色の宝石を身に着ける。
その意味にこそばゆい気持ちになる。
だが同時にカイの脳裏には、忘れられない記憶が蘇った。
(隷従の腕輪……)
『俺と付き合ってみない? 恋人として』
『は?』
『カイのことが忘れられなくて、会いに来ちゃったんだよね。カイって綺麗だし、腕っぷしも強いし、すごく優しいし』
『それだけじゃないだろう?』
『……参ったな……さすが魂喰い の魔術師。二つ名は伊達じゃないな。そんな所も気に入ってるんだよね。カイのこともっと知りたいって思っちゃったんだ。これは本当』
『目的は何だ?』
『……隷従の首輪を、外す手伝いをして欲しい。カイの実力を見込んでのお願いだ。コカトリスをソロで倒せる程の魔術師なら、解術も出来るよね? ……隷従の首輪を外してくれれば、俺の愛をあげる。一生かけて尽くすから』
『大した自信だな。俺があんたの恋人になるわけないだろ』
『絶対、カイは俺のことが好きになるよ』
『隷従の首輪を外して欲しいなら、愛はいらない。金を寄越せ』
『やっぱり金か……カイは優しいから、恋人のお願いは聞いてくれると思ってたのに』
『タダで出来るわけないだろう? 俺だって金がいるからな』
『俺の全財産。両足の隷従の足輪外すのにお金使っちゃったから、まだこれしかないんだ。あと両腕に二つ、首に二つ。四つ残ってるから、全部外す頃には、おじいちゃんになっちゃいそうなんだよね』
『四つって……』
『ご主人様は金も女遊びも、好きにして良いって言ってるんだけどね。あ……これじゃ話にならない? 頑張ってカイの為に稼ぐから、前金として受け取って欲しいな』
『その隷従の腕輪は解除した。もう自由に外せる筈だ』
『え?』
『それはもうただの腕輪だから、ご主人様に外したことがバレないように、取り敢えず付けて置いた方が良い』
『カイ……ありがとう!』
『一つ外してやったんだ。オークションに次いつアレキサンドライトが出品されるか、分かる度情報を教えろ』
『分かった。愛するカイの為だから、俺、頑張っちゃうよ』
『あんた……調子いいな。自分の為だろうが……』
腕輪を見てカイが思い出してしまったのは、スノウの自由を奪っていた魔道具の腕輪だ。
出会ったばかりの頃、スノウは奴隷である証の隷従の首輪を外して欲しいと、カイに頼んできた事があった。
スノウの首には二本の隷従の首輪が嵌められていて、両腕にもそれぞれ隷従の腕輪が嵌められていた。
飼い主のスノウへの執着心の強さに、驚いたのを覚えている。
スノウにとって腕輪は、忌まわしい物であった筈なのに……
「カイに貰って欲しいな」
スノウは屈託なく微笑む。
(……スノウ……)
スノウの気持ちを思うと、カイは複雑な気持ちだった。
(スノウは……上書きしたいのかもしれない……)
忌まわしい記憶を。
カイとの旅の思い出にすれば、自由を取り戻した証になる。
「……ありがとう」
カイは素直に受け取ると、腕に嵌めようとした。
だが冷えて悴んだカイの指先では、上手く嵌まらない。
「嵌めてあげるよ」
スノウはそっとカイの手を掴む。
カイに腕輪を嵌めたスノウは、カイの手の冷たさに、一瞬だけ表情を変えた。
カイは常時目眩ましの魔法を使用して、狐の耳と尾を隠しているので、体温が低い。
死人のようだと言われる程、肌が冷えているのは、魔力を常に消費しているからだった。
スノウはカイが体温を気にしていると知っている。
元々低い体温が北に近づくにつれ寒さが増してきたせいで、いつもよりもさらに冷たく、氷のように冷えてしまった。
「この先もっと寒くなるから、手袋も買っていこうか」
「え? スノウっ」
スノウに腕を掴まれ、カイは衣料品店に連れて行かれてしまった。
「毛糸の手袋。これなんかどう?」
スノウは有無を言わさず、さっさと会計を済ませてしまう。
「それじゃ、俺はマフラーを買ってやる」
一方的に貰いっぱなしなのも、男がすたる気がして、カイはスノウにも毛糸のマフラーを買った。
今夜はこのままこの町に滞在すると決めたカイは、スノウと共に宿屋に部屋を取った。
ちょうど二人部屋が空いていたので、今夜はゆっくり休めそうだ。
夜食を取り、眠くなってきたカイは、備え付けのベッドに潜り込む。
ララはちょこんとカイの頭の上で丸くなった。
「ねぇ、カイ。もう寝ちゃうの?」
「うん……スノウも寝てくれ」
「そんなつれないこと言わないでさ〜。エッチな事しようよ」
「……しない」
「え〜。何で? 王都出てから一回もしてないよね?」
甘えた声で食い下がるスノウに、カイはガバリと起き上がる。
驚いて目が覚めたララも立ち上がった。
「この先何があるかわからないのに、余計な体力使ってどうするんだ? もう寝ろ!」
ビシッと言い放って、カイは再びベッドに潜り込む。ララもモゾモゾとカイの胸元に潜り込んだ。
諦めたかと思ったスノウだったが、諦めきれなかったようで、カイの隣に潜り込んできた。
途端に狭くなったベッドに、カイは文句を言った。
「スノウのベッドはそっちだろ!」
「カイの隣がいい」
抵抗する間もなく、カイはスノウに抱き込まれてしまう。
「何があるかわからないからさ、くっついていたいんだよね……」
スノウも不安を抱えているのだと分かって、カイはスノウをベッドから追い出すのは止めた。
カイを抱き込むスノウの体温は温かい。
(もしかして……温めてくれてるのか?)
カイの冷えた体を抱き込んでいたら、寒いだろうに。
スノウなりの優しさを感じて、カイはおとなしく眠りについた。
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