9 / 18

第9話魂魔石の記憶

 受付へと戻ると、受付嬢がカイとスノウを、ギルドの奥にある別室へと案内してくれた。 「こちらです。お入り下さい」  部屋に入ると、そこには二人の男がソファーに腰掛けていた。  三角に尖った立ち耳と銀色の髪が目を引く壮年の男と、面立ちの良く似た若い男。 (狼獣人の親子か?)  男達はカイとスノウの姿を見て、静かに立ち上がる。 「私は受付の方におりますので、何かありましたらお呼びください」  受付嬢はそう言うと部屋のドアを閉め、退出してしまった。  部屋に残されたのは、カイとスノウとララ。そして二人の依頼人だった。 「はるばる王都よりお越し下さり、ありがとうございます」  壮年の男は恭しく頭を下げる。 「私はソーンと申します。こちらは息子のセリアン」  息子のセリアンが丁寧にお辞儀をした。 「指名して頂いた魔術師のカイです」  カイが名乗ると、すかさずスノウが口を開く。 「護衛のスノウです。お見知りおきを」  スノウが名乗った途端、ソーンが驚いたように目を大きく見開き、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。  だがその指先が僅かに震えている。 (何だ?)  ソーンの様子に違和感を感じたが、カイは気が付かないふりをした。  息子のセリアンからも、かすかな異臭が漂っている。 (この獣のような臭い……あの妙な噂話が流れた頃に感じた臭いだ……)  カイは横目でスノウを確認すると、スノウも臭いに気付いているのか、表情が硬かった。 「カイさんにお願いしたいのは、この町から少し離れた所にある墓地の封印を解いて欲しいのです」  ソーンは早速本題を切り出してきた。  だがカイは話を遮る。 「最初に確認させてください。俺は魔術師です。封印を解く事は出来ると思います。でも本当に封印を解くだけですか? 封印される程の墓地だ。封印を解くだけで済むとは思えませんが……」  暗にその先にも何かあるのかと尋ねると、ソーンは重苦しい表情を浮かべた。 「封印を解いた後どうなるのか……正直なところ……私にも分かりません。ですが……封印を解かなければ、私は主の墓に近付けない。私はどうしても主に会わせたい人がいるのです」 「……それは墓参りがしたいと、そう言う意味?」  スノウが問うと、ソーンは頷く。 「お願いします。墓地の封印を解いてください」  ソーンとセリアンは必死に頭を下げた。  カイは思わずスノウと顔を見合わせる。 「これだけは言っておきます。封印が解ければ、あなた方が墓地の中に立ち入る事は可能です。でもおそらく封印されていた何かも、表に出て来ます」 「それは……存じております」 「それがアンデットだった場合、俺の手に余る事もあるかもしれません」  カイは、はっきりと言い切った。  中途半端に期待を抱かせるのは、良くないからだ。  カイ程の魔術師であっても、万能ではない。 「アンデットの討伐を専門としているのは、聖職者か死霊術師(ネクロマンサー)です。俺の魔術では、完全に討伐出来ないかもしれません。最悪の場合、身を守る為に墓地を再封印して、退却する事も考えておいてください。その場合、依頼は未達成であっても報酬は頂きます。それが納得出来ないならば、改めて聖職者か死霊術師(ネクロマンサー)に依頼して下さい。ギルドに金さえ積めば、封印を解ける聖職者や死霊術師(ネクロマンサー)を紹介してくれる筈です」  カイの話を聞き、ソーンとセリアンは口をつぐんでしまった。 「カイ……そこまではっきり言わなくても……」  スノウは困ったように微笑む。 「駄目だ。中途半端は良くない。納得してもらわないと」  カイはスノウを睨みつけた。 「カイさん……あなたにお願いします!」  ソーンは思い詰めた顔をして、カイに頭を下げた。 「あなたにお願いしたいんです!! 結果がどうであっても、カイさんに頼みたいんです!!」  縋るように必死に頭を下げられると、カイも無碍に出来なくなる。 「……分かりました」 「では、封印を解いて頂けるのですね⁉」  ソーンの表情が明るくなる。  だが……もう一つ、カイには確認しなければならない事があった。 「返事をする前に……王都のギルドから、ヴェルグラスのギルドに確認が入ったと思いますが……あなた方が提示した報酬の魔石ですが、品物によっては依頼を断る可能性もあると聞いてますか?」 「聞いています」  ソーンは持っていた荷袋の中から、アレキサンドライトに良く似た魔石を取り出した。 「これは我が一族が代々所有する、宵闇の精霊狐の魂魔石(ソウルイーター)です」  その名を聞いた途端、カイの顔色が変わる。 「その姿は九つの尾を持つ狐の魔物で、幻獣とも神獣とも言われています。今となっては姿を見かける事もなく、乱獲され滅んだとも言われています。カイさんなら、この魂魔石(ソウルイーター)の価値を御存知ではありませんか?」 「……知っています」 「では依頼を受けて頂けますか?」 「依頼を受ける前に……その魂魔石(ソウルイーター)が本物かどうか確かめさせてくれませんか? あなた方を疑っているわけではないが……」 「分かりました」  ソーンが差し出した魂魔石(ソウルイーター)を受け取った途端、カイの中に大量の記憶がなだれ込んできた。  ◆◆◆◆◆ 『怖いっ! 怖いよぉ! 誰か助けて!』  逃げる九つの尾を持つ仲間が、迫りくる銀髪の狼獣人達から逃げ惑う姿が見えた。 『矢を放て!! 絶対に逃がすな! 一匹残らず殺せ!!』  スノウに似た容姿の男達が、剣を振りかざし仲間達を手に掛ける姿が見える。 『いやぁー! 殺さないで! 私達が何をしたというの⁉』  泣き叫ぶ女の声が、断末魔の叫びを上げて消えていく。  血飛沫があがり、目の前が赤く染まった。 『止まっちゃっ駄目! 振り向いちゃ駄目! 逃げて!』  ドスッ、ドスッという音を立てて、母の黒い背に矢が突き刺さった。 『ううっ!!』  うめき声を上げて倒れた母を置いて、泣きながら走り続ける。 『死にたくない! 死にたくないよ!』  母を、仲間を見捨てて逃げる苦しみに、胸が張り裂けそうだ。  その背にも無情な矢が放たれ、痛みに地に転がった。 『痛い! 痛いよぉ!!』  むせ返るような血の匂いがして、それでも地面を這いつくばり必死に逃げようとした。 『手間かけさせやがって』  銀髪の狼獣人達に囲まれて、逃げ場を失った時。  赤く染まった視界に、銀色に輝く刃が見えた。  獲物を見る目で、銀色の狼獣人の男が刃を振りかざす。 『やめてぇー!』  きり裂かれた痛みに、女の悲鳴が響き渡った。  ◆◆◆◆◆ 「キューッ‼」  突然ララの威嚇する声が耳元で聞こえて、カイは現実に連れ戻された。  全身の毛を逆立て、額の宝石から光を放ったララは、カイの手に飛びかかる。  その勢いで魂魔石(ソウルイーター)が転がり落ちた。 「おっと! 危ない!」  慌ててスノウが魂魔石(ソウルイーター)を受け止める。  その瞬間、スノウは大きく目を見開く。 「キュー!」  ララがスノウにも飛び付いた。  スノウの手から魂魔石(ソウルイーター)を奪い取ったララが、「シャーッ!」と聞いたことのない声で鳴いた。  カイは我に返ると、震える手で魂魔石(ソウルイーター)をララから受け取る。  蒼白な顔で、カイはやっとの思いでソーンに魂魔石(ソウルイーター)を渡した。 「確かに本物です」 「では依頼は?」 「受けます……」 「ありがとうございます。早速ですが、墓地に案内致します」  ソーンはカイにそう言ったが、スノウが待ったをかける。 「悪いが明日にして貰えないかな? ここまで長旅で疲れてるんだ。少しカイを休ませたい」  ふらつきそうになったカイの体を、スノウが慌てて受け止める。 「分かりました。では私共の家までご案内します」 「いや、この町に宿を取っているんだ。俺達今夜はそこで休むから、申し訳ないけど、明日出直しさせて?」 「では明日」  去って行くソーンとセリアンを見送ると、カイはスノウと共にギルドを出て宿へ移動した。                            

ともだちにシェアしよう!