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第9話魂魔石の記憶
受付へと戻ると、受付嬢がカイとスノウを、ギルドの奥にある別室へと案内してくれた。
「こちらです。お入り下さい」
部屋に入ると、そこには二人の男がソファーに腰掛けていた。
三角に尖った立ち耳と銀色の髪が目を引く壮年の男と、面立ちの良く似た若い男。
(狼獣人の親子か?)
男達はカイとスノウの姿を見て、静かに立ち上がる。
「私は受付の方におりますので、何かありましたらお呼びください」
受付嬢はそう言うと部屋のドアを閉め、退出してしまった。
部屋に残されたのは、カイとスノウとララ。そして二人の依頼人だった。
「はるばる王都よりお越し下さり、ありがとうございます」
壮年の男は恭しく頭を下げる。
「私はソーンと申します。こちらは息子のセリアン」
息子のセリアンが丁寧にお辞儀をした。
「指名して頂いた魔術師のカイです」
カイが名乗ると、すかさずスノウが口を開く。
「護衛のスノウです。お見知りおきを」
スノウが名乗った途端、ソーンが驚いたように目を大きく見開き、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
だがその指先が僅かに震えている。
(何だ?)
ソーンの様子に違和感を感じたが、カイは気が付かないふりをした。
息子のセリアンからも、かすかな異臭が漂っている。
(この獣のような臭い……あの妙な噂話が流れた頃に感じた臭いだ……)
カイは横目でスノウを確認すると、スノウも臭いに気付いているのか、表情が硬かった。
「カイさんにお願いしたいのは、この町から少し離れた所にある墓地の封印を解いて欲しいのです」
ソーンは早速本題を切り出してきた。
だがカイは話を遮る。
「最初に確認させてください。俺は魔術師です。封印を解く事は出来ると思います。でも本当に封印を解くだけですか? 封印される程の墓地だ。封印を解くだけで済むとは思えませんが……」
暗にその先にも何かあるのかと尋ねると、ソーンは重苦しい表情を浮かべた。
「封印を解いた後どうなるのか……正直なところ……私にも分かりません。ですが……封印を解かなければ、私は主の墓に近付けない。私はどうしても主に会わせたい人がいるのです」
「……それは墓参りがしたいと、そう言う意味?」
スノウが問うと、ソーンは頷く。
「お願いします。墓地の封印を解いてください」
ソーンとセリアンは必死に頭を下げた。
カイは思わずスノウと顔を見合わせる。
「これだけは言っておきます。封印が解ければ、あなた方が墓地の中に立ち入る事は可能です。でもおそらく封印されていた何かも、表に出て来ます」
「それは……存じております」
「それがアンデットだった場合、俺の手に余る事もあるかもしれません」
カイは、はっきりと言い切った。
中途半端に期待を抱かせるのは、良くないからだ。
カイ程の魔術師であっても、万能ではない。
「アンデットの討伐を専門としているのは、聖職者か死霊術師 です。俺の魔術では、完全に討伐出来ないかもしれません。最悪の場合、身を守る為に墓地を再封印して、退却する事も考えておいてください。その場合、依頼は未達成であっても報酬は頂きます。それが納得出来ないならば、改めて聖職者か死霊術師 に依頼して下さい。ギルドに金さえ積めば、封印を解ける聖職者や死霊術師 を紹介してくれる筈です」
カイの話を聞き、ソーンとセリアンは口をつぐんでしまった。
「カイ……そこまではっきり言わなくても……」
スノウは困ったように微笑む。
「駄目だ。中途半端は良くない。納得してもらわないと」
カイはスノウを睨みつけた。
「カイさん……あなたにお願いします!」
ソーンは思い詰めた顔をして、カイに頭を下げた。
「あなたにお願いしたいんです!! 結果がどうであっても、カイさんに頼みたいんです!!」
縋るように必死に頭を下げられると、カイも無碍に出来なくなる。
「……分かりました」
「では、封印を解いて頂けるのですね⁉」
ソーンの表情が明るくなる。
だが……もう一つ、カイには確認しなければならない事があった。
「返事をする前に……王都のギルドから、ヴェルグラスのギルドに確認が入ったと思いますが……あなた方が提示した報酬の魔石ですが、品物によっては依頼を断る可能性もあると聞いてますか?」
「聞いています」
ソーンは持っていた荷袋の中から、アレキサンドライトに良く似た魔石を取り出した。
「これは我が一族が代々所有する、宵闇の精霊狐の魂魔石 です」
その名を聞いた途端、カイの顔色が変わる。
「その姿は九つの尾を持つ狐の魔物で、幻獣とも神獣とも言われています。今となっては姿を見かける事もなく、乱獲され滅んだとも言われています。カイさんなら、この魂魔石 の価値を御存知ではありませんか?」
「……知っています」
「では依頼を受けて頂けますか?」
「依頼を受ける前に……その魂魔石 が本物かどうか確かめさせてくれませんか? あなた方を疑っているわけではないが……」
「分かりました」
ソーンが差し出した魂魔石 を受け取った途端、カイの中に大量の記憶がなだれ込んできた。
◆◆◆◆◆
『怖いっ! 怖いよぉ! 誰か助けて!』
逃げる九つの尾を持つ仲間が、迫りくる銀髪の狼獣人達から逃げ惑う姿が見えた。
『矢を放て!! 絶対に逃がすな! 一匹残らず殺せ!!』
スノウに似た容姿の男達が、剣を振りかざし仲間達を手に掛ける姿が見える。
『いやぁー! 殺さないで! 私達が何をしたというの⁉』
泣き叫ぶ女の声が、断末魔の叫びを上げて消えていく。
血飛沫があがり、目の前が赤く染まった。
『止まっちゃっ駄目! 振り向いちゃ駄目! 逃げて!』
ドスッ、ドスッという音を立てて、母の黒い背に矢が突き刺さった。
『ううっ!!』
うめき声を上げて倒れた母を置いて、泣きながら走り続ける。
『死にたくない! 死にたくないよ!』
母を、仲間を見捨てて逃げる苦しみに、胸が張り裂けそうだ。
その背にも無情な矢が放たれ、痛みに地に転がった。
『痛い! 痛いよぉ!!』
むせ返るような血の匂いがして、それでも地面を這いつくばり必死に逃げようとした。
『手間かけさせやがって』
銀髪の狼獣人達に囲まれて、逃げ場を失った時。
赤く染まった視界に、銀色に輝く刃が見えた。
獲物を見る目で、銀色の狼獣人の男が刃を振りかざす。
『やめてぇー!』
きり裂かれた痛みに、女の悲鳴が響き渡った。
◆◆◆◆◆
「キューッ‼」
突然ララの威嚇する声が耳元で聞こえて、カイは現実に連れ戻された。
全身の毛を逆立て、額の宝石から光を放ったララは、カイの手に飛びかかる。
その勢いで魂魔石 が転がり落ちた。
「おっと! 危ない!」
慌ててスノウが魂魔石 を受け止める。
その瞬間、スノウは大きく目を見開く。
「キュー!」
ララがスノウにも飛び付いた。
スノウの手から魂魔石 を奪い取ったララが、「シャーッ!」と聞いたことのない声で鳴いた。
カイは我に返ると、震える手で魂魔石 をララから受け取る。
蒼白な顔で、カイはやっとの思いでソーンに魂魔石 を渡した。
「確かに本物です」
「では依頼は?」
「受けます……」
「ありがとうございます。早速ですが、墓地に案内致します」
ソーンはカイにそう言ったが、スノウが待ったをかける。
「悪いが明日にして貰えないかな? ここまで長旅で疲れてるんだ。少しカイを休ませたい」
ふらつきそうになったカイの体を、スノウが慌てて受け止める。
「分かりました。では私共の家までご案内します」
「いや、この町に宿を取っているんだ。俺達今夜はそこで休むから、申し訳ないけど、明日出直しさせて?」
「では明日」
去って行くソーンとセリアンを見送ると、カイはスノウと共にギルドを出て宿へ移動した。
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