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第13話あんたはバカだ……
フロストが光の粒子となって消えた墓地から、湧き出していたアンデット達の手も消えてしまった。
残されたのは静寂のみ。
(スノウの父さんは……逝ってしまった……)
スノウは呆然と父の消えた虚空を見つている。
(スノウ……)
カイが口を開きかけた時だった。
墓地を取り囲んでいた狼達の体が、突然輝き始める。
「いったい何がっ」
驚くソーンとセリアンが慌てて狼達に駆け寄った時だった。
光に包まれていた狼達が、人の姿へと変わっていく。
光が消えた時そこに居たのは、本来の姿を取り戻した白狼の一族達だった。
「呪いが……解けたんだ……」
ほっとした途端カイは力が抜け、崩れ落ちそうになる。
その体をスノウが慌てて抱き支えた。
人の姿を取り戻した白狼の一族達は、口々に感謝の言葉と新しい王を迎える言葉を口にした。
「ありがとうございます。我等を助けてくれて!」
「スノウ様、カイ様、感謝致します!」
「スノウ様! 白狼の王がお戻りになった!」
「我等が王よ!!」
スノウに抱き支えられながら、カイは歓喜する白狼の一族を見つめた。
『俺も……父親の残した最後の願いを、叶えたいと思っているよ。自分だけの群れを持ちなさい……それが父の遺言なんだ』
頬を上気させ、興奮と喜びにあふれた白狼の一族達の姿に、カイは出会ったばかりの頃、スノウが口にした言葉を思い出す。
(スノウは……群れを取り戻したんだな……)
『俺は白狼の一族だから……狼は群れを無くすと、孤独に耐えられない。弱い生き物だから……』
(スノウはもう孤独な狼じゃない……)
自分だけの群れを持つ。そんな父王の願いを叶えた今、スノウは戻る場所を見つけたのだとカイは思った。
(潮時だ。俺にはスノウから群れを奪えない……)
最上級の価値を持つ魂魔石 目当てに、宵闇の精霊狐であるカイは、正体がバレれば格好の獲物になってしまう。
(俺の側は安全だなんて……嘘を付いてしまった。俺の側にいる方が、スノウを危険に晒してしまう)
スノウなら、カイを救う為体を張って守ろうとしてくれるだろう。
それが分かるだけに、カイはこれ以上スノウを縛り付けてはいけないのだ。
(スノウを……解放してあげなきゃ……)
「スノウ、俺はもう大丈夫だから」
カイはそっとスノウの腕を解くと、自分の両足でしっかりと立ち上がる。
(俺は上手く言えるだろうか?)
「群れのみんなが呼んでいる。スノウは白狼の王なんだ。仲間の所へ行かなきゃ駄目だ」
震えそうになる声で平静を装って。
スノウの背を押し、カイは群れの仲間の輪に加わるよう、スノウを促す。
「カイ?」
カイが必死に隠そうとしている思いが伝わったのか、スノウは顔色を変えた。
(出会った時はこんな気持ちになるなんて、知らなかった……)
いつでもスノウを手放す覚悟はしていた筈なのに。
こんなにも突然終わりが来るなんて、カイは思いもしなかった。
(俺は上手く騙せているだろうか?)
微笑もうとしているのに、どうしてもぎこちなくなってしまう。
「俺は王都に戻るから……ここで別れよう」
「えっ? 何言ってるの?」
「俺は……ずっと……スノウの幸せを祈ってる……」
(振り向くな。前だけを見るんだ)
気を抜けば震えだしそうになる体を押さえながら、踵を返し歩き出したカイの腕を、慌ててスノウは掴んだ。
「カイ?」
「自分だけの群れを持ちなさいって、父さんの遺言。スノウは……叶えなきゃ駄目だ」
「俺は……俺の群れはカイだよ。魔石店のみんなが俺の群れなんだ。父さんの遺言なら、とっくに叶えてる!」
「……スノウ……」
怖いくらい真剣な眼差しをうかべたスノウの腕を、カイにはどうしても振り払えなかった。
「スノウ様」
二人のやり取りを見つめていたソーンが、声をかけてきた。
「我々はスノウ様がどこに居ても、王の配下として仕え続けます」
ソーンの言葉を聞いたセリアンが口を開いた。
「父さん。スノウ様は白狼の一族の王。やっと取り戻した王を、手放すのですか?」
「番が居る場所がスノウ様の群れなんだ。本能には逆らえない。それは王であっても同じだ。お前も番を得れば分かる」
「でも……」
「王とは群れを導く者。縛られる者ではない」
「しかし……」
「たとえ何処に居ようと、我等が王を思う気持ちに変わりはない。今はただ……お見送りしよう」
そっと頭を下げる二人を見て、スノウが強張っていた表情を緩めた。
「カイ。そういう事だから、俺を置いて行こうとしても無理だよ」
穏やかに微笑むスノウは、カイを抱き寄せる。
愛おしそうにスノウの温かい手が、カイの髪を優しく撫でた。
「あんたはバカだ……」
スノウの胸にポスっと頭を押し付けると、カイは小さく呟いた。
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