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64.決まっている勝負の結果

 封筒から中身を取り出して俺に差し出して来るタイガー。 「ん?」  中身は勿論金だった。  俺は普通に受け取るけど、妙に分厚い気がした。  あん時は三万円ぐらい使って、半分返せって話だったから、一万五千円とかでいいんだけど……  俺はいくらあるのか数えてみる事にした。 「……はぁ!?五万!?」 「今回のバイト代全部と、仕送り少し足した!」 「いやいや、払い過ぎだろ!こんなにいらないって!」 「受け取ってくれ!俺にもカッコつけさせてくれよ。今はこれだけしか渡せないけど、来月になったら俺も一日伊吹を買うから!」 「お前、もしかして……尚輝くんと張り合ってんの?」 「そりゃそうだろ!だって土曜丸ごと貸し切るとか羨まし過ぎるだろ!てかズルいだろ!俺だって金さえあれば伊吹を独占できるのにっ!」 「タイガー……」 「もっと稼いで俺も伊吹と長い時間過ごしてぇんだ!ちと時間掛かるけどよ、待っててくれよ伊吹」  これがタイガーの本音か。  いつものヘラヘラした笑顔はどこへやら。  今は眉間に皺を寄せて悔しそうに唇を噛み締めていた。  確かに金を持ってる尚輝くんの方が長い時間俺と過ごせて有利な気もするよ?  でも金さえあればって言うけどさ、それ以前にタイガーは性格や素行がアウトだろ。根は悪い奴じゃないんだろうけど、尚輝くんとは違って安心感がない。  こんな風に数回会っただけの俺に大金を出してしまうのもどうかと思うしな。  俺は受け取った金をタイガーに返そうと、そのまま全部渡した。 「伊吹、何で……?」 「お前が俺にホテル代をたかった訳じゃないって分かったし、約束守ってもう危ないバイトはしてないみたいだから今回は俺の奢りにしてやるよ。あん時は寝ちゃった俺も悪かったしな」 「いや!受け取ってくれ!俺、伊吹の事本気なんだよ!本気で好きなんだ!」 「だったら尚更受け取れねぇよ。俺はお前の気持ちに応えてやる事は出来ない。諦めな」 「やだ!諦められねぇ!伊吹がいい!」 「タイガー、お前はまだ若いんだから、フラれた恋なんかさっさと忘れて次行けよ次~。お前なら人脈広そうだしすぐ見つかるだろ」 「伊吹は今ここにいる伊吹しかいないっ」 「……そうだけど」  適当にあしらい過ぎた?  タイガーはデカい体を丸めて落ち込んでるようだった。  寝癖だらけの青い髪にヨレヨレのTシャツ。  まぁこいつなりに本気なのは伝わったよ。  でもさ、俺はもう尚輝くんの事を好きになっちゃったんだ。元々男を好きになるなんて有り得なかったのに、好きになっちゃったんだ。  だからタイガーの気持ちに応えられないのは本当だ。  今は仕事絡んでないし、タイガーには次の予約入れて欲しいとか思ってないし、むしろタイガーには無駄に金を使って欲しいと思わない。このまま普通のバイト頑張って、学業にも力を入れてもらいたい所だ。  これ以上変に期待させるのも酷かと思い始めているんだ。 「俺はナオキングに誓ったんだ。同じ人を好きな者同士頑張ろうって、正々堂々どっちが伊吹を落とせるか勝負しようって!」 「正々堂々って、まぁ二人で好きにやればいいじゃん。とにかくお前はもう俺に予約入れんな。入れたらNG出すからな」 「何でだよ!それじゃあ正々堂々勝負出来ねぇじゃん!」 「する必要ねぇだろ」 「はぁ?どう言う事だよ?」  その勝負の結果は決まってるからだよ。  ほんの少しだけ尚輝くんが早く俺を見付けて、一途に毎週土曜日にデートしてくれた。  予約以外でも高価な物をプレゼントしてくれたり、一緒にいて楽しいなって思えるようなデートをしてくれた。  だから俺は尚輝くんを好きになったんだ。  真っ直ぐで真面目な20歳の男を好きになったんだ。  この勝負はもう尚輝くんの勝ちなんだよ。  そこまでは言えずに俺は目線をタイガーから外して黙っていた。

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