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第5話

「何か見てるの?昴」 昴が一点を見つめたままボーっとしていたので、明は横から声をかけた。 「え・・あ、ごめん!」 昴は慌てた様子で明の方に目を向ける。 「ううん。むしろこっちが待たせてごめんな。何分待った?」 「いや、俺はそんなに待ってないよ。ちょうどいい電車の時間がなくて少し早く着いただけだから」 そう言って笑う様はいつも通りの昴だ。 先ほどの心ここに在らずといった雰囲気はもうない。 今日はゴールデンウィークの最終日で、待ち合わせた繁華街の駅も人でごった返している。 簡単に『改札を出たところで待ち合わせよう』なんて言ってしまったが、見つけるのに時間がかかってしまった。 「明は昨日までバイト連勤だったんだよね?お疲れ様」 「へへ。ありがとう〜。めっちゃ忙しかったけどかなり稼げたよ。来月の給料期待してて。なんか美味しい物食べに行こう!」 「明が頑張って稼いだお金なんだから、それは明のために使うべきだよ」 「俺が昴と一緒に美味しいご飯を食べたくて使うんだからいいんだよ!」 明は楽しそうに笑って言った。 二人でゆっくり会えるのは久しぶりだ。 早くバイトに慣れたいと、明はこの数週間シフトを沢山入れてしまった。 それに加え昴のゼミが始まったこともあり、お互いのスケジュールが合わなくなってしまっていたのだ。 「けど、まだ入学したばかりなのにゼミって忙しいんだなぁ」 明が言うと昴は「え・・」と一瞬表情が固まる。 それから遠くに視線を向けて言った。 「あぁ、うん。結構やることが沢山あって・・」 「うーん、そっかぁ。今日、誘って大丈夫だったか?」 「大丈夫だよ。今日は久々に頭もスッキリしてるし」 「え・・?頭が?」 明が不思議そうに聞き返すと、昴はハッとした顔をして誤魔化すように笑った。 「あ、最近本当寝不足でさ。でも昨日はよく眠れたみたいだから・・」 「そんなに大変なのか・・」 明は心配そうに昴を見つめる。 最近昴からの連絡が減っていたが、思っていた以上に忙しいようだ。 慣れない一人暮らしで無理をしていなければいいのだが・・ 「それより、二人はもうお店で待っててくれてるんだよね?」 昴が話題を変えるようにスマホに目を向けて言った。 「そうみたい。天谷君オススメのお店だって」 明はスマホに表示されたマップを見つめる。 「もうお気に入りの店を見つけてるなんて、さすが天谷だね」 「本当にな!あっ、あそこ曲がったところみたい!」 そう言いながら地図に沿って歩いて行くと、角を曲がって現れたビルの看板の一つに『串揚げ屋』の文字を見つけた。 狭い入り口に設置されたエレベーターに乗り込み三階へ上がる。 扉が開くとすぐ店員に声をかけられたので『待ち合わせです』と言うと、奥の個室の席を案内された。 「おう!来たか!」 明と昴が席に近づくと、天谷創が手を上げた。 その隣で彼の恋人の迎良杜が嬉しそうに顔を輝かせる。 「ごめん、お待たせしました!」 明は謝りながら二人の正面の席に座った。 昴も明の隣へ着席しながら頭を下げる。 「二人とも元気そうじゃん!」 創は明と昴が席に着くのを見ると、体を乗り出して言った。 「そっちこそ!良杜君も久しぶり!」 明が良杜の方に目を向けると、良杜はニコリと笑った。 「うん、久しぶり。とは言っても卒業式以来だからまだ1か月ちょっとぶりだけどね」 「えー、そっかぁ。東京来てからバタバタしてたからすごい久しぶりな気がしてた!」 明は楽しそうに笑いながら二人の顔を交互に見つめた。 天谷創と迎良杜は地元の同級生だ。 明は良杜と、昴は創と同じ高校に通っていた。 彼らは恋人同士で『運命の番』でもある。 そんな二人は今、学部は違うが同じ東京の大学に通いさらに同棲もしている。 明は二人の『運命の番』たるエピソードを聞くのが好きだった。 『運命の番』は都市伝説だと言われるほど出会う事が難しい。 そもそもβである明には『番』になるということ自体縁のない話だ。 そんな自分とは全く違う世界の『運命の番』の話は、まるで夢物語を聞くようで心が躍った。 「どう?二人暮らしは。楽しい?」 運ばれてきた揚げたての串カツに齧り付きながら明が聞いた。 「うん。天谷が家事でもなんでも完璧にこなしてくれるから助かってる。俺も手伝わなきゃとは思ってるんだけど」 良杜が眉尻を下げながら答えた。 「いいんだよ。俺がやりたいようにやってるだけだから。むしろ不満に思ってることがあれば遠慮なく言えよ」 「えっ!ないよ!全然ない!毎日快適すぎるくらい」 慌てて手を振りながら良杜は隣の創に顔を向ける。 「天谷こそ不満があったら言ってね」 「うーん、今のところ特にないな」 そんな二人のやり取りを見ながら明が可笑しそうに笑った。 「あはは。二人は相変わらず仲良しだよね」 「そう言うお前らこそどうなんだよ?せっかく二人で上京してきたのに一緒に暮らしてないんだろ?」 「俺達は別の大学だし結構距離も離れてるからさぁ。な、昴?」 明がそう言って隣の昴に目配せすると、それまで黙って聞いていた昴がハッとした顔をして頷いた。 「あぁ、うん。お互いの大学の位置を考えると一緒に住むのは大変かなって・・」 「ふーん、そうか。まぁ、これからどうなるか分かんないしな」 「え・・」 創の言葉に昴が眉を顰める。 「うん?だってそうだろ?大学の後には就職が待ってるんだし、まだこれから住む場所も状況も色々変わるだろうからな」 「・・あぁ、そういうこと・・」 昴は小さく息を吐いて呟いた。 そんな昴を明は横目で見つめる。 今日の昴はどこかおかしい。 やはり疲れているのだろうか。 「昴、大丈夫か?」 明は心配そうな顔で昴の腕を指先でトントンと叩いた。 「えっ・・うん、大丈夫だよ。ごめん」 「・・本当にか?なんか怠そうに見えるけど・・」 明の言葉に昴は一瞬黙り込む。しかしすぐにニコリと笑うと明の肩をポンと叩いた。 「本当に大丈夫。ごめんね、俺ちょっとトイレ行ってくる」 「え・・あ、うん・・」 明は席を立つ昴の背中を目で追った。 その後ろ姿が店の奥の方へと消えていく。 姿が見えなくなったのと同時に、良杜が小さな声で言った。 「なんか昴君、雰囲気変わった?」 「え・・いや、そんなことはないと思うけど・・なんか違う?」 「うーん。前はもっと穏やかっていうか・・特に明君の隣にいる時はいつも嬉しそうな空気が出てたんだけど・・」 「だけど・・?」 「でも今日は、なんか緊張してる感じがする」 「・・緊張・・・」 明は今日会ってからの昴の様子を思い返した。 ゼミが大変なのだろうと思っていたが、確かにいつもなら疲れていても会った瞬間はパッと嬉しそうな顔をしてくれる。 しかし今日は、心ここに在らずといった雰囲気だった。 疲れているというよりも、何か別のことがずっと頭に引っかかっているような・・ 「あんまり明を不安にさせること言うなよ、良杜」 隣で聞いていた創が串からカツを引き抜きながら言った。 「新しい環境になれば誰だって多少変わるもんだろ。良杜だってこっちきて少し変わったし」 「えっ?!どこが?!」 驚いた顔をして良杜が創に詰め寄る。 「地元にいた頃より明るくなったよ。人見知りも減ったみたいだし。そっちの学部でずいぶん楽しそうにしてるじゃん。一昨日飲み会にも行ってたしな」 「うちの学部はグループワークが多いから自然とみんな仲良くなるんだよ。天谷だってこの間女子に囲まれて楽しそうに学食で話してるのみかけたよ」 「別に女子だけじゃなかっただろ。変な誤解するなよな」 「変な誤解って何?楽しそうに話してたのは本当じゃん」 「友達と話すのが楽しいのは当たり前だろ。昔から何も変わってないよ、俺は」 「・・・」 創が冷静に言うので良杜はぷくりと頬を膨らませて黙り込む。 そんな二人の様子を見て、明はクスリと笑った。 「はは、本当に二人は仲良しだなぁ」 「え、今の会話でそう思う?」 良杜が怪訝な顔で明に目を向けた。 「だって一緒に住んで同じ大学にも通ってるのに、お互いちょっとしたことで嫉妬しあってるからさ。本当に大好きなんだなぁって」 「・・・それは、だって・・やっぱり不安になるから」 良杜が恥ずかしそうに口籠もりながら言った。 「不安?」 「天谷はかっこいいし、いつも色んな人に囲まれてるから・・他の人にとられちゃうんじゃないかって・・」 「はぁ?何言ってるんだよ」 顰めっ面をした創が良杜の方に目を向ける。 「そんなことあるわけないだろ。俺達は番なんだぜ。俺がお前以外を選ぶなんてことがあるかよ」 「で、でも・・」 「どうしたの?」 頭上で声がして明が顔をあげる。 トイレから戻ってきた昴が不穏な空気を察したのか、心配そうな顔で立っていた。 「あ、いや。あの・・」 明は説明しようとしながら、奥の方へ席を詰める。 空いたところに昴が座り直すと、正面の創が改めて説明するように言った。 「良杜が変なこと不安がってるんだよ。俺が他のやつにとられるんじゃないかって。そんなことあるわけないのに」 「そんなの分からないじゃん。地元にいた頃より交友関係もすごい広がってるしさ・・同じ大学でも学部が違うから、天谷が新しい友達と楽しそうにしてるところ見ると遠い存在な気がするんだよ」 良杜は今まで溜めていたものを吐き出すように言って俯いた。 「あのな、だからってそれで不安になる必要なんかない。俺とお前は番なんだよ。それも運命の番なんだ。俺にとってお前は唯一無二の存在なんだよ。そんな俺とお前の間に入ってこれる奴がいると思うか?」 「・・・それは・・」 「何があっても俺は良杜を選ぶし良杜しか必要じゃない。良杜も俺がいなきゃダメだろ?」 「・・・うん」 良杜はコクンと頷くと創を潤んだ瞳で見つめる。 「・・絶対に、裏切らない?俺のこと忘れない?」 「お前がいない人生なんか考えられない。良杜は俺の半身だからな」 「・・・ぅん。俺も」 安心したように言うと良杜は隣の創の腕にもたれかかった。 「はは!やっぱり『運命の番』の絆はすごいな」 正面で二人の様子を見守っていた明は嬉しそうに笑った。 「唯一無二って本当にそうだよな。運命の番にしか使えない言葉だもん!」 「そんなことないよ」 「え?」 明の言葉を断ち切るように鋭い声が聞こえた。 声のした方に目を向けると、昴が真顔で正面を見つめている。 「昴?」 「・・そんなことないよ。俺にとっては明が唯一無二の存在だから。運命の番なんかじゃなくても」 「・・・え、と・・そ、それは嬉しいけど・・」 突然ストレートな言葉をぶつけられ明は戸惑いの表情を浮かべる。 「どうしたの昴?」 「・・別に・・ただ、運命の番をそこまで特別視しなくてもいいんじゃないかって、思って・・」 正面を見つめていた瞳が気まずそうに下にずれた。 昴は落ち着かない様子で水の入ったグラスをギュッと握る。 昴の前に座っていた天谷は、そんな空気を変えるように大きな声で言った。 「はは!確かにそうだよな。運命の番じゃなくたって世の中の恋人達にとってはお互いが唯一無二の相手だよ」 「うん、そうだね」 良杜も大きく頷く。 「ふふ。やっぱり二人も変わらず仲がいいね。昴君の愛情の深さを感じたよ」 「あ・・うん。ありがとう・・」 明はお礼を言ったが、昴はまだどこか気まずそうな顔をしていた。 それからは主に創が話題を回しながら何気ないことで盛り上がった。 明は久々に気が置けない友人との会話で心が軽くなる。 上京して一か月、楽しくやっているつもりでも気が張っていたようだ。 しかしそんな明とは対照的に昴の表情はずっと硬いままだった。 「あー!結構食ったなぁ!」 お店を出ると、創がお腹をおさえて言った。 「良杜君達はこの後どこか行くの?デート?」 明が前を歩く良杜に問いかける。 「うん、デートって訳ではないけど、足りてない物を買い足しに行こうかなって」 「別にデートにしてもいいぜ。良杜が欲しい物見に行くか?」 「えっ!いいよ、俺は!」 良杜は赤い顔で両手を振る。それから明と昴に目を向けて言った。 「それより、今日は楽しかった。昴君も、少し疲れてるみたいだけど来てくれてありがとう」 「え・・・」 昴は言葉に詰まったがすぐに申し訳なさそうに眉尻を下げた。 「いや、ごめん。せっかく声かけてくれたのに・・俺・・」 「・・・まぁ、環境が変われば色々あるよな。落ち着いたら今度はどっか遊びに行こうぜ」 創がフォローするように昴の肩を叩く。 「・・・うん、ありがとう」 そうお礼は言ったものの、昴はまだ申し訳なさそうに肩を落としていた。 二人と店の前で別れると、明と昴は駅の方へと歩き出した。 行き交う人の波に押され、時々肩がぶつかる。 この人の多さにはまだ慣れそうにない。 その間も昴は暗い表情のまま無言で歩いていく。 何か話さなくては・・ そう思ったが昴の重い空気に戸惑ってなかなか声が出せない。 そうこうしているうちに駅の改札まで辿り着いてしまった。 お互いの家に帰るにはこの駅で別れなくてはならない。 この後どうするかはまだ特に決まってはいなかった。 しかし今日の昴の様子を見る限り、これからまだ遊ぼうという風にはならなそうだ。 ここで解散するべきか・・ そう思っていると昴の掌がそっと明の手に触れた。 「・・明」 「うん?」 名前を呼ばれ明は昴を見つめる。 「今日、これからうちに来ない?」 「え・・・」 「ここからなら俺の家の方が近いし・・明日一限からだよね?あんまり遅くならないようにするから」 「・・あ、うん・・」 明は戸惑いながらも嬉しさを隠すようにはにかみながら頷いた。 まだ一緒にいても大丈夫なようだ。 久々に会えたのにこのまま別れるのはやはり寂しい。 昴が誘ってくれてよかった。 昴の家は最寄り駅から徒歩で五分ほどだ。 明の家に比べると都心近くに位置する。 「昴の家、久しぶり!」 明は昴が開いた扉の隙間を覗き込むようにしながら言った。 五階建ての学生マンションで、昴は三階にある1Kの部屋に住んでいる。 「どうぞ、入って」 「うん、お邪魔します」 明はそう言うと、玄関で立ったまま靴を脱いだ。 その時、ふと玄関の下駄箱上の空きスペースに目がいった。 そこにはいつも鍵を置いておく小さなお皿がある。しかし今日はそれだけではなかった。 白い紙の封筒のようなものが置かれている。 その形状には見覚えがあった。 「・・・これ、薬?」 明がポツリと言う。 それは薬局でもらう処方薬が入っている袋に見えた。 「昴、病院行ってるの?」 明が後ろを振り返りながら聞くと、昴はぎくりとした顔をしてその袋を慌てて取りあげた。 「あ・・うん。その・・風邪ひいちゃったから薬だけもらったんだ」 「え、大丈夫か?病院行くほどって」 「もう大丈夫だよ。鼻詰まりが酷かっただけだから」 昴はニコリと微笑む。 それから右手を部屋の方へ指し示して言った。 「心配しないで。ほら、中どうぞ」 「・・うん」 明は昴の顔をじっと見つめながら頷く。 今はもう鼻が詰まっているような感じはない。本当に元気になったということだろうか。 明は促されるまま、部屋の奥へと進んでいった。 彼の実家の部屋と同様に、中はきちんと整理整頓されている。 「相変わらず綺麗だなぁ。やっぱり昴は一人暮らしでも心配ないな」 洋服が部屋の隅に積み上がっている明の部屋とは大違いだ。 「物が少ないだけだよ」 明に続いて昴が部屋の中に入りながら言った。 「えー、でもちゃんと本棚もあるし勉強用の机もあるじゃん!俺なんていまだにローテーブルの・・」 そう言いながら後方の昴に目を向けた時だった。 言い掛けていた言葉を遮るように、昴の唇が明の口を塞いだ。 「・・ぅ・・ぅむ・・」 突然のことで明は驚いて後ずさる。 昴は押し付けるように舌を絡めながら口づけを続け、そのままベッドまで明を追い詰めた。 ガクンと膝がベッドの端に当たり明はそのまま座り込む。 その間も唇が離れることはない。 「ふっ・・ぅん。す、すば・・る」 呼吸をするタイミングが難しく、一度離れようと明は昴の名前を呼んだ。 しかしその声は届いていないのか、昴の動きは止まらない。 口づけをしたまま少しずつ明の服の中に昴の手が入り込んでくる。 脇の辺りをなぞられビクッと肩が揺れた。 「あっ・・まっ、まって・・ぅう」 いつもとは違う雰囲気の昴に明は戸惑い抵抗を試みる。 部屋に入るなりすぐ求めてくるのは初めてだ。 やはり今日の昴はどこかおかしい。 「す、昴・・!」 明は渾身の力を込めて昴の身体を押しのけた。 昴は少しよろけた後、肩で息をしながら明を見下ろした。 どこかショックを受けたような顔をしている。明は申し訳なくなり「あ、ごめん・・」と小さな声で言った。 「・・ううん。俺こそごめん・・」 昴は俯きながら首を振った。 「・・昴、やっぱり今日変だよ。疲れてるとかじゃなくてなんか悩みとかあるの?」 「・・・」 「・・ゼミ、思ってたより大変なのか?」 「・・・違うよ。大丈夫」 昴は力無く笑うと明の横に腰掛けた。 「俺、今日ひどい態度だったよね。天谷や良杜君にも悪いことしちゃったな・・後で謝っておくよ」 「・・その理由は?そうなっちゃった理由は教えてくれないの?」 「・・・」 「昴?」 明がジッと昴を見つめると、昴はその瞳を見返してそっと明の頬に触れた。 「明が・・近くにいなくて不安、なのかな」 「え・・・」 思わず明の瞳が揺れる。 「昴、やっぱり一緒に暮らしたかった?」 「・・・」 「俺が・・一人暮らしがいいって言ったから・・言い出せなかったの?」 「・・確かに一緒に住めたらいいなとは思ったけど。でも大学の距離を考えたら厳しいし今の選択は間違いじゃないと思ってるよ」 「じゃあ、なんで?」 「・・新しい環境で新しい人に囲まれて、明と自分の世界が別になったような気がして・・でも、俺には明だけだから・・俺の恋人は明だから、それを実感したくて・・」 「そんなの、普通に連絡したり会えなくてもお互いのこと思い合ってれば実感できるだろ?」 明は首を傾げて言った。 「昴が不安がる必要なんかないよ。少し距離が離れたとしても俺達は今までと何も変わってない。俺達の関係に変化なんかおきないよ」 「・・・」 明の言葉を聞いて何か言いたいのを堪えるように昴は口元をキツく結んだ。 それから小さく頷く。 その様子を見て、明は自ら昴の唇に口づけをした。 小さなリップ音をたてそっと離れる。 「・・明」 「大丈夫だから。さっきの続き、しよ」 明は恥ずかしさを誤魔化すように口を尖らせて言った。 昴は、新しい環境でナイーブになっているのかもしれない。 だから安心させてあげなくては・・ そう考えてすぐに思いつくのは、単純だがやはり身体を重ねることだ。 触れ合う体温の暖かさから得られるものは大きい。 普段自分から積極的に誘うことはないけれど、昴のために今日は頑張りたい。 いつも昴が与えてくれるものだから・・ 昴のベッドはいつも綺麗に整えられている。 それをなるべく汚さないようにと、明は気をつけながら口先を動かした。 「・・っつ・・めい・・」 声を出さないように我慢しているのか、昴が眉間に皺を寄せて言った。 「だい、じょうぶ?」 「・・ふっ・・ぅん」 明は昴のそこを咥えたまま返事をする。 初めて挑戦してみたが、想像していたより抵抗はなかった。 今まで何回か昴がしてくれたのもある。 いつかは自分もやってあげたいと思っていた。 最初それを提案した時昴は拒否した。 しかし嫌だったからではない。 『明にはさせらない』という考えからだったようだ。 昴はいつだって、そうやって気遣ってくれる。 もう少し我儘や要望を言ってくれてもいいのに・・ そんな思いで今回は半ば強引にフェラをし始めた。 慣れない動きで最初こそ二人とも戸惑いの色を浮かべていたが、だいぶ馴染んできたようだ。 昴は頬を紅潮させて、声を漏らさないように身体をよじらせて耐えている。 「・・ぅっ・・めい・・もう・・」 そろそろ限界が近づいてきたのか、昴が明の肩を叩いて言った。 「・・・めいに、挿れたい・・」 「ふぇ・・」 明は咥えていた口を離し昴を見上げる。 「このまま・・口に出してもいいよ?」 「それは、ダメ・・というより、明の中に出したいから・・」 「え・・あ、わかった・・」 明は口周りを拭きながら一度昴から離れる。 すると、すぐに昴が明の身体を両手で抱きしめそのままベッドへと押し倒した。 まだ下半身に衣服を身につけていたが、昴はそれをすばやく下ろし明の秘部を露わにする。 「・・えっ・・ちょっ、待って・・あっ」 あまりの勢いに驚いていると、昴の指がそこに入り込み思わず喘声を上げた。 「やぁ・・すばる・・・あっ、まっ・・ててば・・」 身体をくねらせ快感から逃れようとするが、昴の指の動きはどんどん激しくなっていく。 何度も体を重ねもうすっかり慣れたそこは、さほど時間はかからず簡単にほぐされてしまった。 「・・明・・挿れるね」 昴はそう言いながら熱い視線をこちらに向けた。 先ほどまで口の中で愛撫していた昴のものが目に入る。それを見て明はハッとして身体を少し起き上がらせた。 「あっ、ゴム・・」 そう言って手を伸ばそうとしたが、すぐに手首を掴まれ再びベッドへ押し倒される。 「わっ!ま、まって、昴・・ぁ・・」 身体をうつ伏せの体勢にされ腰を持ち上げられると、秘部に熱いものがあてがわれる気配を感じた。 「す、すばる・・」 明が名前を呼んだ瞬間、ズブりと身体の中に欲の塊が挿入される。 「あっ・・ぁあ・・」 それは一気に明の奥まで入ると、ゆっくり動きだした。 「すばる・・あっ、やぁ・・」 ずくんとお腹の中が反応する。 直接感じる熱に、明の身体はすぐ快感を拾い始めた。 「ふぁ・・あぁあ・・あっ・・あっ!」 「・・明・・め、い・・・」 後ろから昴の吐息混じりの声が聞こえる。 あまりバックから攻められることがないので、表情がわからないのが少し不安だ。 「うぅん・・す、すばる・・」 「めい・・すき・・だいすき・・・」 「・・ふっ・・ぅん、おれも・・」 呼吸が途切れ途切れになりながら明は応える。 すると腕を強く後ろに引っ張られ上半身がベッドから浮いた。 腰を反らせたような形で後ろにいる昴の胸に背中があたる。 「昴?」 体勢を変えてる間一瞬動きが止まったが、再び下から突き上げるようにそれは動き出した。 しかも先ほどとは違い激しく明の中に打ちつけてくる。 「あっ!あぁっっ!」 突然の刺激に目の前をチカチカとさせながら、大きな喘声を上げた。 「っぅ・・めい。めい・・」 昴は両腕を明の身体の前に回すと強く抱き締める。腰から下は激しく動いているが、抱きしめられた身体はびくともしない。 まるで逃げないようにと捕まえられたみたいだ。 「ぅぅ・・ぅん!あっ、あぁっ!」 「はぁ・・ぁっ・・めい、めい」 昴は明の名前を呼びながら、腰の動きを速めていく。 「・・めい、めい・・・で、る・・」 「・・ぁっ・・うん・・あぁ!」 お腹の中に温かいものが広がった瞬間、昴の両腕がさらにきつく明を抱きしめた。 そして首筋に痛みが走る。 「あっ・・」 歯を立てられ噛まれた痛みで明は眉間に皺を寄せた。 しかし不思議なもので、その痛みが熱に変わると平気になってしまう。 明は身動きが取れないまま、昴のものが注がれていくのをぼんやりとした頭で待った。 熱くドロリとした欲望を出し切ると、昴は噛んでいた口を離し抱き締めていた両腕も緩めた。 それからゆっくりと自身のものを明から引き抜く。 「んぅ、ぁっ・・」 その刺激で明は小さな声を上げた。 閉じられていた蓋が開き、中から白い液が溢れてくる。 昴の、シーツ汚しちゃう・・ そんなことをボゥと考えていると、昴の小さな声が聞こえた。 「・・・明、ごめん・・」 「え・・」 明は後方へ目を向ける。 すると、昴が申し訳なさそうな顔で俯いていた。 「その・・ゴムしないままで・・それに、首筋も。痛いよね・・大丈夫?」 「・・・」 明は身体も昴の方へ向けると、そっと彼の手に自身の手のひらをかぶせた。 「俺は・・大丈夫。首の痛みはもう全然気にならないよ。ゴムも・・いつもすぐに昴が綺麗にしてくれるから、お腹壊したことないし」 「・・・でも、ゴムしてって明は言おうとしたのに・・俺・・」 「あー、それはさ。だからいつも昴に洗ってもらうのはその・・恥ずかしいし悪いなって思ってさ。綺麗なベッドも汚れちゃうし」 深刻な顔の昴を元気づけるように、明は軽い口調で言う。 「だから、なるべくした方がいいかなって思っただけ。俺はβだから、Ωのような心配はしなくていいしそんなに深い意味はないから」 「っ・・・」 明のその言葉に昴がパッと顔を上げた。 「俺・・俺は・・・」 そこまで言って口を噤む。 しかしもう一度俯いて首を横に振り再び顔を上げると、何かを切り替えたように薄く微笑んだ。 「・・ごめん、明。次からは絶対に気をつける」 「・・・うん、わかった」 明は喉の奥に引っ掛かりを感じながらも笑って頷いた。 一体昴は何を言いかけたのだろう。 気になったが、そのことを追求するのはやめておいた。 今日の目的は昴を少しでも安心させることなのだから・・ 「じゃぁ・・また」 駅の改札の前で昴が名残惜しそうに言った。 「うん。あ、あのさ」 明は昴の腕をギュッと掴むと、明るい声で言った。 「来週、バイトの後会えそうな時は連絡するから!もうだいぶ慣れてきて余裕も出てきたし。俺、会いに行くよ」 「・・・明」 「だから昴も頑張って!でも無理はするなよ。ちゃんと寝ないと体壊すからな」 「・・うん、ありがとう」 昴は目元を緩めて笑う。 その顔を見て明はほっと小さく息を吐いた。 今日、少しは彼のことを安心させることは出来ただろうか。 明は電車に揺られながら流れていく夜景に目を向けた。 たくさんの小さな光が集まり、夜の綺麗な風景を作っている。 この一つ一つの光が誰かの生活の光なのだと思うと、改めて東京の人口の多さには驚かされる。 こんなに人がいるのに、自分のことを知っている人は全然いない。 同じアパートに住む人も、同じ大学で学ぶ人も、まだ知らない人ばかりだ。 心細くないわけがない。 それは昴も一緒なのだろう。 昴は普段、自分の意思をほとんど言わない。 だから勝手に大丈夫なのだろうと思っていた。 けれどそんなことはないのだ。 言わないだけで、飲み込んでいるだけで、我慢していることが沢山あるのかもしれない。 もっと自分が、彼を支えられる人間になれたら。 頼ってもらって、安心させられる人間になれたら。 上京してからバイトや大学生活に慣れるのに必死で、あまり昴を気にかけてやれていなかった。 これからはもう少し時間を作って会えるようにしよう。 彼からもらう沢山の愛情を返せるような、そんな人間になりたい。

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