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第13話

「あ、そうかぁ。今日花火大会か」 隣でレジ対応を終えた先輩が呟いた。 「そうですね。まだ昼前なのに浴衣の人いっぱいいますもんね」 明はエスプレッソマシンのミルクウォーマーを洗浄しながら応える。 「あれ、知ってた?もしかして四十万君今日行く予定な感じ?」 「あ、はい。友達と。この近くでバイトしてる友人なので、バイト終わったら待ち合わせして見に行こうかって」 「へぇ!この間も海行ったとか言ってたよね?夏満喫してるね〜」 「え、へへ・・まぁ」 明は気恥ずかしそうに笑った。 ー・・ー 木岐と海を見に行ったのは夏休みに入って二週目の先週の話だ。 「おぉー!人沢山いるなぁー!」 木岐は駅に降り立つなり周りを見渡して言った。 東京から一時間半ほどで着くそこは、ドラマやテレビ番組でもよく名前の聞く観光地だ。 駅から少し歩くと橋で渡れる島がある。 そこに向かう若者達の列が駅からゾロゾロと続いていた。 「すごい人だね。今日なんかあるのかな?」 明が目を丸くしていると、隣で木岐がスマホをいじりながら言った。 「いや、夏休みの間は毎日これくらい混んでるみたい。ほら、昨日の島の様子の写真SNSに上がってる」 「うわぁ。本当だ・・」 木岐のスマホには道いっぱいに人が並んで歩く写真が写っている。 「まぁ、とりあえず行ってみようか!名物のモノ少しでも食べれたらいいな!」 「うん!そうだね」 気を取り直して明るく返事をすると、明は木岐と並んで歩き始めた。 今日の日を楽しみにしていた。 一人でいるとどうしても昴のことを考えてしまう日が続いていたが、木岐と遊ぶ予定が決まってからは何をしようと考えられるようになった。 暇があればネットで検索し、美味しそうな食べ物や観光名所を調べる。それをしている間は心も弾み前向きな気持ちになれる。 そんなきっかけを作ってくれた木岐には本当に感謝している。 だから今日は木岐のことを思い切り楽しませてあげたい。 と・・思ったものの、こちらの夏の観光地というものを舐めていた。 どこからやってくるのか不思議なほど、いつまでも人の波が絶えない。 さらには肌にまとわりつくような湿度の高い暑さが体力をどんどんと削っていく。 かろうじて食べられたタコ煎餅とアイスでなんとか気力を保っていたが、二人とも体力の限界を感じ始めていた。 そんな時、木岐が少し視線を遠くに向けて言った。 「ねぇ、あそこに水族館の案内が出てるよ。行ってみない?」 「え、水族館?」 「うん。水族館なら涼しいだろうしちょっと休憩のつもりで行ってみようよ」 「・・そう、だな」 まさか、思いがけず水族館に行くことになるとは思わなかった。 明は歩きながら近づいてくる水族館の建物を見つめた。 小学校の遠足以来の水族館だ。 楽しめるだろうか。 いや・・友人と遊びにきているのだから、楽しもうとすることが大切なはずだ。 明は横の木岐に目を向ける。 その視線に気がつき木岐が笑顔で首を傾げた。 「うん?どうした?」 「・・いや、水族館・・俺久々だから。楽しみだなって思って」 「あ、そうなんだ。じゃぁ休むだけじゃなくて色々じっくり見て回ろうか?イルカのショーとかあるんじゃないかな」 「イルカのショー?!」 それは昔の遠足では見ていないものだ。 「いいな、それ!楽しそう!」 「よし、じゃぁ急ごう!時間が合わなかったら嫌だし!」 「うん!」 木岐が歩くスピードを速めたので、明もその後を大股で着いて行った。 水族館に着くとすぐにパンフレットでショーの時間を確認した。 「おっ!あと40分で始まるよ」 木岐がスマホで時間を確認しながら声を弾ませる。 「本当?!じゃぁ少し見て回る時間あるかな?」 「そうだなぁ。ショーのプールは一番奥みたいだから、見ながら進んでいけばいいんじゃない?」 「うん、そうだね!」 木岐と並んで歩きながら水族館の中へと進んで行く。 夏休みということもあって、館内は若者や家族連れが多い。 特に最初の方の水槽には人だかりが出来ており、明と木岐は止まることはせず歩きながら眺めて行った。 「あっ・・タカアシガニ」 照明の薄暗い水槽の前で、木岐が呟いてピタリと足を止めた。 「え、蟹?」 明は大きな水槽に目を向ける。 足の長い大きな蟹がぼんやりとした薄明かりの中じっと佇んでいた。 「うっわぁ。大きな蟹!」 初めて見るその生き物に明は目を輝かせる。 「四十万、タカアシガニ見るの初めて?」 「うん。もしかしたら昔遠足で見たのかもしれないけど覚えてないなぁ。すごい!こんな大きな蟹いるんだ」 「ちゃんと食べられるらしいよ」 「えっ、へぇぇ・・」 明はタカアシガニをまじまじと見つめる。 「食べてみたい?」 木岐に聞かれて、明は少し考えてから首を横に振った。 「・・いや。なんかこの佇まいが立派過ぎて食べるなんて申し訳ない気がする」 「えぇ?何それ?」 「俺、この蟹に勝てる気がしないもん。弱肉強食の世界なら負けるよ、多分」 「・・ふっ。そんな考えもあるんだ・・おもしろい!」 木岐は手の甲で口を押さえながら、目を細めて笑った。 「そっかぁ、確かに勝てなさそう!うんうん!」 そう笑って言う木岐の目尻にはうっすら涙が浮かんでいる。 「えー、そんな泣くほど面白いこと言った?!」 明が困ったように眉尻を下げて首を傾げた。すると木岐は笑顔のまま小さく頷いて言った。 「うん、なんか・・タカアシガニを見る目が変わった。ありがとう」 「え?う、うん。どういたしまして?」 なぜお礼を言われたんだろう? それは分からなかったが、普段よりも木岐の雰囲気が柔らかくなったような気がして明も嬉しくなった。 「じゃぁ、次行こうか」 木岐が目尻の涙を拭いながら次のコーナーを指差した。 「うん!」 明も元気に返事をして歩き始める。 しかし・・ 少し歩いたところでピタリと足を止めた。 次の部屋の大きな水槽の奥に、見慣れた横顔があったからだ。 けれど・・見間違いかとも思った。 確かに見慣れた顔なのに、そこに浮かべる表情は見たことのないものだったからだ。 神秘的に光る水槽の前で、昴が目を丸くさせなが興奮気味に頷いていた。 その昴の隣には、サラリとした綺麗な頭髪が見える。 昴の方が背が高いので顔は隠れて見えないが、雰囲気で誰かはすぐにわかった。 二人は何かを真剣に話し合っている。 それから水槽の前に書かれた説明文をまじまじと読み、何かが判明したのか二人で嬉しそうに頷き合っていた。 「四十万?どうした?」 明が止まってしまったので、木岐が不思議そうな顔で振り返った。 「あ・・ううん。あ、あのさ!俺ペンギン見たいかも!だからここスルーしてもいい?」 明は動揺を悟られないように笑いながら早口で言った。 「ペンギン?いいよ。ペンギンはどこにいるんだろう」 木岐はそう言って地図に目を落とす。 「きっとこの先だよ!!イルカショーも始まっちゃうし急ごう!」 この場所に一秒でも長く居たくない。 明は木岐の腕を取ると、急足で歩き出した。 昴と彩葉は水槽を真剣に見つめているのでこちらには気づいていない。 通り過ぎるなら今だ・・ 明は息を殺すようにして、そっと二人の後ろを歩いていく。 室内は薄暗く他にも沢山の人がいるので、昴達に気づかれることなく通り過ぎることができた。 明は隣の部屋に入るとホッと小さく息を吐く。 しかし・・これからどうしようか。 出来るなら二人を避けてこのまま水族館を出たい。 けれどまだ入ったばかりだし、木岐にも迷惑をかけてしまう。 考え込みながら歩いていると「あっ、四十万!」と何かに驚いたような木岐の声が聞こえた。 「ペンギンこの奥じゃないっぽい!さっきの部屋の横にペンギンプールに出る所があるって」 「えっ!あ、そうなんだ。通り過ぎちゃったのか」 木岐の言葉に慌てて踵を返す。 その一瞬の焦りが油断を生んでしまった。 振り返った瞬間、眼鏡越しの綺麗な瞳と視線が重なった。 「あれ?明君だよね?」 彩葉が驚いた顔で声をかけてきた。 明は動揺を悟られないように、一度ゴクリと唾を飲み込む。 それからさも今気づいたような雰囲気で頭を下げた。 「・・こんにちわ、ビックリしました」 演技は上手くない。それでも嬉しそうに近づいてきてくれる彩葉に変に思われないように、明はなんとか笑顔を作った。 彩葉はそんな明の様子に気づくことなく笑顔で色々な質問をしてくる。明は視界の端にチラチラと映る昴に気を取られながらも、なんとか取り繕うように答えた。 昴は無表情のまま、こちらをじっと見つめている。 戸惑っているのか、驚いているのか、その内面はわからない。もともと昴は感情があまり表にはでないタイプだ。 だからこそ、先ほどのような傍から見てもわかる嬉しそうに興奮している様子を見て驚いた。 自分では絶対に引き出すことは出来ない表情だからだ。 だから・・ やっぱり・・俺と、一緒に水族館には行かなくてよかった。 「さっきの人さぁ。あの本屋の店員さんだよな」 彩葉達と別れ、イルカプールの最前席に腰を下ろしながら木岐が言った。 「あ、うん。そう。こんなとこで会うなんてビックリした」 明はヘラっと笑いながらも答える。 「あの一緒にいた人彼氏かなぁ」 「えっ!?」 何気ない口調で言った木岐の言葉に思わず大きな反応をしてしまう。 「だってあの人絶対αって感じだったじゃん。Ωとαが一緒にいるってことはそうかなって」 「・・・そう、だよなぁ。やっぱりそう思うよなぁ」 明は笑いながら手元に目をやった。 ゼミの人達みんなとではなく、二人で来てると言っていた。 それくらい親しくなっているということだろう。 覚悟していたこととはいえ、胸がチクリと痛い。 それでも・・ 昴が昴らしく居られる人と一緒になったのなら、それを喜んであげるべきなのだ。 「まぁ、幸せそうな人達はそれでいいとして。俺達独り身同士だって楽しくやってるからいいじゃん!」 明が俯いているのを気に掛けたのか、木岐が明るい声で言った。 「ほら!ここ絶対濡れるって!俺イルカ来たら四十万の陰に隠れようかなぁ〜」 「えぇ!なんでだよ!木岐が濡れようって言ったんじゃん!」 木岐のふざけた口ぶりに明は笑いながら応える。 「じゃあさぁ、イルカショー終わったら海行こう!そこで自然乾燥させようよ」 「・・うん!そうだね!」 「あ、ほら!イルカ出てきた!ショー始まるよ」 木岐がそう言ったので、明はプールに目を向けた。 それからショーは二十分ほど行われた。 予想していたよりもかなり大胆に濡れてしまったが、逆にそのおかげでショーの間は昴達のことは考えないで済んだ。 終演のアナウンスが流れて席を立ち後ろを振り返る。 沢山のお客さん達がプールの出口の方へ向かって歩き始めていた。 その中に昴達の姿は見当たらない。 ショーはみなかったのかもしれない。 彼らの目的は楽しむためでなく学ぶためなのだからそれも納得できる。 「よし、じゃあ水族館出ようか?四十万もう少し見たいところあったりする?」 木岐に聞かれ明は首を横に振った。 「ううん。もう満足した!出よう」 水族館。思っていたよりもずっと楽しめたよ。 いつか、昴にそう伝えられたら嬉しい。 「今日、楽しかった。ありがとう、木岐」 東京に戻ると、駅の改札前で明は言った。 ここからは木岐とは別の路線になる。 「俺も楽しかったよ。四十万といるとなんか洗われる気がするよ」 「あらわれる?何が?」 不思議そうに首を捻ると、木岐は「はは、ごめん。気にしないで!」と口元を抑えて笑った。 「・・それより、また夏休み中遊ぼう!暇人の独り身同士!」 「もー!そればっか強調しすぎ!」 明は木岐の腕に優しくパンチをする。 「じゃ、また連絡するわ!バイバイ」 「うん、本当にありがとう」 木岐は軽く手を振ると改札の中へと入って行った。 明はその背中をしばし見つめる。 木岐が、誘ってくれ嬉しかった。 ちゃんと、こっちでの夏を楽しむことが出来た。 昴がいなくても・・ お互いに、別の道を歩き始めることが出来ている。 だから、大丈夫・・ —— 「四十万〜、お待たせ〜」 バイトが終わり、駅の改札で待っていると木岐がニコニコと笑いながらやってきた。 「俺もさっき着いたとこ」 明は手に持っていたスマホをしまいながら言った。 木岐から『花火見に行かない?』と連絡が来たのは一昨日のことだった。 明は大喜びですぐさまOKの返事を打った。 花火は大好きだ。地元が海沿いの町なので毎年花火が上がる。 家から見えるものだから今まで気張って見に行ったことはなかったが、東京の花火大会ならば規模も大きくきっと盛り上がるのだろう。 想像するだけでワクワクした。 「・・・え、人やばい」 そんな弾んだ胸も人の多さに怖気付き、あっという間に萎んでしまった。 「四十万!大丈夫?」 ギュウギュウに詰められて少し前を歩く木岐がこちらを振り返る。 「うーん!大丈夫〜」 花火大会の会場にあたる河川敷までの道を人が隙間なく歩いていく。 もう六時は過ぎているが、まだ日差しは強く蒸し暑さと人の多さで少し眩暈がしそうだ。 それでも木岐に気を遣わせては悪いと、明はなんとか顔を上げて笑顔を作って見せた。 「もう少ししたら広い道出そうだから!」 「うん!」 明は木岐の後ろ姿を見ながらゆっくり歩いていく。 しかし後ろから押される圧力で、木岐の姿が他の人影に隠れてきてしまった。 このままでははぐれてしまうかもしれない。 そう思った時だった。 「四十万!」 強い力で手首を引かれ、明は勢いよく前に引っ張られた。 「わっ!」 飛び出した先で木岐の肩にトンと頭がぶつかる。 「四十万が潰れるかと思った〜!ほら!ここ抜けるまではぐれないように引っ張ってくよ」 木岐はニコリと笑って掴まれた明の手首を持ち上げた。 「え・・」 「ちゃんとついてきてね」 そう言うと木岐は人の流れにそって歩き始めた。 明もその後を歩いていく。それからチラリと掴まれた自身の手首に目をやった。 先ほど引っ張られた時は強い力だったが、今は優しい力加減で握られている。 もちろん木岐は何も意識していないだろう。 明だってこのことに意味があるとは思っていない。 ただ、思い出してしまっただけだ。 こうやって、手を引っ張ってくれる相手が以前は当たり前にいたことを・・・ 「おぉ〜!ここよく見えるな〜」 人混みを抜けた後河川敷の下の方で座って待っていると、大きな音と共に花火が打ち上がりだした。 木岐は楽しそうに体育座りの姿勢で空を見上げる。 お腹に響く音を聞きながら明も夜空に散りゆく花火の跡を見つめた。 チリチリに散っていくすぐその後に新しい花火が上がる。 次から次に。 終わった花火の存在はすぐに消えていく。 「・・気持ちも、こんな感じならよかったのに・・」 空を見上げたままボソッと呟いた。 「え?」 隣で見ていた木岐がこちらに目を向ける。 「四十万、今なんて言った?」 「あ・・いや。別に・・」 誤魔化すように笑って手を横に振ったが、木岐は真剣な顔で明を見つめる。 「言ってよ。吐き出した方が楽になることもあるから」 「・・・でも」 「俺は聞き役うまいよ。多分」 そう言って木岐は目元を緩めた。 そんな木岐を見て明もフッと小さく笑う。 それから再び花火を見上げて言った。 「早く、新しい気持ちになりたいなぁって。花火みたいにすぐ新しいのが打ちあがるの、いいなぁって思ったんだ」 「・・新しい気持ち?」 「うん。俺、友達に戻ろうって言って別れたから。だから、もう恋人じゃなくて友達としてこれからは仲良くしたいんだけど。気持ちがなかなか変わらない。それが、嫌だなぁって」 「・・・恋人のままじゃダメだったんだ?」 「・・うん。ダメかなって思った・・・ごめん、言ってなかったけど・・」 明はそこで一旦言葉を区切ると木岐の瞳を見つめる。 それから小さく息を吸うと再び口を開いた。 「俺、αと付き合ってたんだ。でも・・相性の良さそうなΩの人が彼の前に現れて・・いつかその人の方を選ぶ日がくるんじゃないかって思った。だから向こうから別れを言われる前に恋人じゃなくて友達に戻っていれば、これからも仲良くできると思って。自分から別れようって言ったんだ」 「・・・」 「ごめん、黙ってて」 木岐が口を一文字にして黙っているので、明は申し訳なさそうに頭を下げた。 すると、木岐がゆっくりと口を開きポツリと言った。 「・・・やっぱり」 「え・・?」 「やっぱり、βはβ同士。それが正解なんだよ」 そう言って木岐はニコリと微笑んだ。 「・・・そう、かな・・」 迷うことを断ち切らせるようなその表情に明は少し戸惑う。 「そうだよ。αとΩの世界にはβは入れないんだ。自分の方が好きだと思ったって・・想いなんて不安定なものじゃ何の証明にも保証にもならない。あの人達の番っていう繋がりには勝てない」 「・・・」 「でもさ、恋愛って本来は想いで成り立つものじゃない?β同士の恋愛の方が正しいんだよ。そっちの方がずっといい。絶対に」 木岐はそう言い切ると空に目を向けた。 「・・・」 明はその横顔を見つめる。 それから手のひらをギュッと握りしめると恐る恐る口を開いた。 「・・なんで、そう考えるようになったの?木岐も・・何か辛い思いをしたから?」 ついに、避けていたことを聞いてしまった。 木岐の・・言い聞かせるようなその言葉に、まだ捨て切れていない想いを感じたから。 もし出来るなら、話して欲しい。 この夏、仲良くなれたのだから。 ・・少しだけでもその壁の向こうを見せてもらえたら・・ 木岐の瞳に花火の光が反射した。 口元も目元も動かさないまま、ジッと空を見上げている。 しかし一つの花火が終わりを迎え下の方へパラパラと散り出したと同時に、木岐は明の方に視線を戻した。 「・・俺も、付き合ってたから。Ωと。そんで、四十万と一緒。あいつの前にαが現れた。それで、別れた」 「・・・え」 「βはαとΩの繋がりには勝てない。だからβはβと恋愛した方がいいって思うようになったんだ」 「・・そう、だったんだ・・」 自分と同じ経験をサラッと話し、木岐は再び笑みを浮かべた。 「俺達の共通事項が一個増えたな!」 「え?」 「同じ大学、同じ学部、西日本出身、上京して一人暮らし、バイト先の最寄駅一緒。そんでαやΩとの恋愛に敗れた者」 木岐は指を折って数えるように話し、最後は歯を見せて悪戯っ子のように笑った。 「えぇー、なんだよそれぇ」 明は脱力しながら笑う。 「はは!いいじゃん!敗れたもの同士、傷の舐め合いしあってこうよ」 「ふっ・・そう、だなぁ。それもいいかも」 「だろ?夏休みはまだたっぷりあるし、また遊びに行こう」 「・・・うん。そうだね。ありがとう」 明がそう応えたタイミングで、一際大きな音が響いた。お腹の中にどんとその振動が伝わってくる。 顔を上げると今までで一番大きな花火が真っ暗な夜空に広がり辺りを照らした。 「ぉぉ・・」 明は大きな口を開けたまま、夜空に消えて散っていく花火を見つめる。 「ふっ。四十万、花火に対しての反応薄いの面白い」 木岐が口元を手で押さえて吹き出した。 「えっ!いや、綺麗だなって思ってるよ!めっちゃ思ってる!」 「わかってるわかってる!目は輝いてるから、そうなんだろうなとは思ってるよ」 「えぇえ〜。俺、目輝いてる?」 「うん。言葉がなくても伝わってくる」 木岐は笑顔で言うと、空を見上げた。 そんな木岐の瞳も輝いて見える。 ホッとしたような、何かに開放されたようなそんな穏やかな瞳だ。 話を聞いたことで、木岐の溜めていた何かが少しでも減っていたなら嬉しい。 俺も・・同じ経験をした彼になら、言いやすいことが沢山ある。 木岐はふざけて言っていたけれど、傷の舐め合いは悪いことじゃない。 そうしているうちに、花火みたいに新しいモノが生まれるかもしれないから・・

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