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第10話
「‥かわいいわけ、ねえだろう、俺なんか」
苦々しげにそう呟くジュセルに、ケイレンはかぶせるように言ってきた。
「かわいいよジュセルは何で気づいてないの?ジュ、ジュセルは今まで恋人とかいた?え、あっ好きな人とかいる?いない?え、ちょっと待って、いる?!」
一気にまくしたてながら後半になるにつれどんどん語気が荒くなっていくケイレンに、驚いたジュセルは座ったままの上体を少し引いた。
「‥だから怖えって‥別に、好きなやつとかいねえけど」
ケイレンは目に見えてほっとした顔をして、身体の力を抜いた。
「よかった‥決闘しなきゃいけないところだった‥」
「だから何でだよおかしいだろ」
その時店員がやってきて、目の前にいくつもの皿を置いた。魚料理が盛られたもの、サラダと思しき野菜たっぷりのもの、澄んだ色のスープに何かの揚げ物。
次々とやってくる皿にジュセルは目を丸くした。
「‥多すぎじゃね?」
「食べきれなかったら残していいから」
「そんなもったいないことできるか!」
もったいない精神の日本人気質が顔を出して、つい声を荒げてしまう。するとまたケイレンはへにゃっと笑った。
「‥どうしてもの時は持って帰れるように包んでもらうから大丈夫だよ」
そこまで言われてようやく安心したジュセルは皿に手を出した。
料理はどれも美味しかった。味付けとしては前世で言うところのアジア料理のような感じがした。この国の料理も大体そういう系統なので、味の予想がつけられるのは安心できてよかった。
味噌と醤油が恋しくなるが、ここにないものを欲しがっても仕方がない。どこかほかの国にはあるのかもしれないが、ジュセルには探しに行く手段も拠り所にする知識もないのだ。
ひとしきり食べてようやく落ち着いた。そういえば昼をあまり食べていなかった、と思った。自分にしてはかなり食べた方だ。
だが、ケイレンはジュセルの倍くらい食べた。最初にテーブルにのせられた皿にまた追加して肉料理も頼んでいた。それはほとんどケイレンが一人で食べた。
あれだけ食うからいい身体してるんだろうか、とジュセルは羨ましく思ったが、とても同じように食べられる気はしなかった。
結局、ジュセルの心配をよそに出された皿はすべて平らげられた。最後にショートケーキが出てきたときには驚いた。
「ええっ!?ショートケーキじゃん‥!」
「知ってるのか?隣国のカルカロア王国から入って来た菓子なんだ。日持ちがしないから食堂とかじゃないと食べられないんだよ。食べたことある?」
「えっ、これって名前もショートケーキなの?」
「そうだよ」
‥‥‥え?
そんな偶然、ある‥?
ジュセルは心の中で思った。この波状に絞られたクリーム、真ん中にも挟まれ上にも載っている苺っぽい果実。そして「ショートケーキ」という名前。ここまで、『前世』と重なることがあるだろうか。
「この赤い果実ってなんていう名前?」
「ルコの実だよ。最近はこの国でも栽培する農家が増えたみたいだね」
ルコの実自体は初めて聞いたが、見た目はまんま苺だ。食べてみれば味もショートケーキそのものだった。
「うまい‥」
「よかった!」
ケイレンは満面の笑みを浮かべて、自分も食べ始めた。
隣国には、自分と同じような転生者がいる、またはいたのだろうか。
だとしたら‥会ってみたい。
「ケイレン」
「何?」
話しかけるとケイレンが嬉しそうにフォークを置いてこちらを見る。気恥ずかしいのをこらえて尋ねてみた。
「ケイレンは隣国に行くことあるの?」
「あんまりないかな‥カルカロア王国は退異騎士団っていうのを持ってるから、個人で退異師が雇われることが少ないんだ。あるとしても『国王選抜』の時くらいかな?でも四十年前に終わってるし、次の選抜は二十年後だからね」
「ああ、そうなんだ‥」
「ジュセルはカルカロア王国に行ってみたいのか?」
「‥うん、少し、興味ある」
ケイレンはまじめな顔をして言った。
「一級請負人 になれば、審査なしで出入国できる。その際に一人なら連れていけるから‥ジュセルがどうしても行きたかったら、俺が一級を取るよ」
「お、俺のためだけにそんなことしなくていい!」
真顔で恐ろしいことを言ってくるケイレンに心底驚いて、慌てて断った。
一級の試験は、受験する人数も少ないことから年に一度しかないうえに、非常に危険な試験でもあると言われている。二級以上の請負人 の仕事は、どうしても荒事が多くなるので試験内容も武に寄ったものになるのだ。
単なる自分の好奇心で、人様の命を危険にさらすわけにはいかない。それにしてもなんてことを言うんだ、とジュセルは戸惑った気持ちをごまかすようにショートケーキをばくばく口に運んだ。
「ジュセルは、優しいな」
ケイレンはそんな頓珍漢なことを言いながら、ケーキを口いっぱいに頬張って食べているジュセルの顔を嬉しそうに眺めていた。
食べ終わって家に帰って、湯を浴びる。浴槽は今日は使えないので、自室の浴室を使った。ジュセルに割り当てられた部屋の浴室は、高い位置に水栓がついていて、温用石をはめ込めば湯が出る仕組みになっていた。買ってきた温用石をはめ込んで湯を出せば時間差なく適温の湯が出てきた。いい機工躯体が使われているのだろう。湯を浴びれば、随分さっぱりとした気持ちになった。
石鹸も髪用石鹼も、ケイレンがこれがいいと押し切って買ってくれたものだったが、どちらも汚れ落ちがよく、かなりいい匂いがした。代金を見せてくれなかったけど、きっと高いんだろうな‥と思いながらも、今はその香りを楽しむことにする。
ほんの少し膨らんだ胸を見る。乳輪がふっくらしていて微妙にエロい。何で自分にこんなエロいおっぱい‥ちっぱい?がついているのか、何度見てもがっくりしてしまう。もうこれがしぼむことはないのだろうが、どうにか鍛えて筋肉に変えなければ!と明日からまた筋トレをしようと心に誓った。
浴室から出て、整えた寝台に座り髪を拭く。気持ち、手の先にキリキをのせて風が少し行きわたるようにする。ジュセルが使えるキリキなんてこのくらいのものだ。肩より少し長い髪を乾かしながら、部屋を見回して明日掃除すべきところを考えていると、ふとあるものが目についた。
「ん?あれ‥」
タオルを置いて近づいてみる。ボロボロになった飾りカーテンを持ち上げてみると、扉が出てきた。
「部屋の中に、ドア‥?」
取っ手を握って回せばガチャリと回った。開けて中に入ってみる。
中は暗い。が、結構広い空間に思える。ジュセルは一度自室に戻って照用石を仕込んだランプを持ってきた。
部屋の中を照らすと、ジュセルの部屋より広い空間がある。部屋の真ん中には恐ろしい大きさの寝台が置かれていた。壁には彫刻を施した飾りがたくさんついており、寝台には大きな天蓋もついていた。
「こ‥これ‥」
この世界の常識がようやくジュセルの頭にのぼって来た。
「これ、伴侶用の寝室じゃねえか!!」
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他サイトで公開しております、NLのお話とリンクしている部分があります。同じ世界観で幾つかお話を書いているので‥ですがそちらを読んでいなくても、話はわかるようにしてあります!
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