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第21話
「‥そんなたいそうなものには思えないけど‥」
「ジュセルはどうやってこれを作ったんだ?ええと、どういう知識から作ったんだ、ってことだけど」
立て続けにケイレンに言われて、ジュセルは考え込んだ。‥自分は薬師ではないからそこまで詳しい薬草の知識はない。それぞれ単品での薬効は知っているが、薬師が持つ薬草の組み合わせによって発現する薬効の知識までは持っていないのだ。
「知識としては一般的な薬草の知識しか持ってない。‥からそこから作ってるのと‥後はえ~と、香草とか木の実を自分なりに組みあわせてるかな」
前世で少しハープを育てていた関係で、ハーブっぽいな、と思った香草は摘んできて色々試したりしてみていた。だがそれを馬鹿正直に言うわけにもいかない。
ジュセルのふわっとした説明を聞いたケイレンは少し眉をよせ難しい顔をしていたが、ジュセルの不安そうな顔を見るとふっと微笑みを返した。
「そうか。とりあえず預かって今日にでも請負人協会 のヨーリキシャに見てもらうよ。どうせ、請負人協会 にも行くんだろ?」
「あ、うん。依頼を受けたいから‥」
「俺も一緒に行くから」
真顔でそういうケイレンに、うんと頷いて受け取ったカップに残っていたお茶を飲み干した。ひょっとしたらふつうはお茶に使わないものが混じっていたのかもしれない。‥それを調べてもらえるならかえってよかった、とジュセルは前向きにとらえることにした。
朝食の後片付けをして、出かける準備を整える。おそらくは薬草採取の仕事を受けることになるだろうから、先日購入した靴を履き、森歩き用のマントを羽織ってビルクがくれたルンガンの袋を背負った。
そこへケイレンも支度を済ませて降りてきた。いつもの片手剣を腰に提げ、厚めのショートブーツに黒いズボン、上に来ているのは若草色の上着に黒い外套だった。筋肉がのりながらもすらりとした長身のその姿はいかにも恰好よく、ジュセルはひと時目を奪われた。
指抜きのグローブをはめながら、ケイレンはジュセルの姿を見るとにこりと笑った。
「ジュセル、そういう恰好も似合うな、かわいい」
「かわ‥」
全くこのマリキシャの目に自分はどう映っているのだろうか。しかし、本人は大真面目に言っているつもりらしいので、人前でない限りはもう受け流すことにしよう、とジュセルは思った。
「じゃ、行こう」
そして二人で、請負人協会 へ向かった。
途中、機工車に乗る乗らないでまた揉めたが、「早く行った方がいい依頼が残ってる」というケイレンの言葉に負けて、また循環機工車に乗ることになった。ジュセルはいつかケイレンに返すべき金額に、しっかり今回分の機工車賃も頭の中で計上した。
ケイレンは、ジュセルが渡したいくつかの茶葉を持って解析師のところへ行くと言い奥に向かった。一方、ジュセルは依頼の受付カウンターに向かう。
依頼受付カウンターは、仕切りのついた台と椅子で構成されており、請負人協会 一階の多くの場所を占めている。カウンターは級位ごとに色分けされており、そこで自分の級位に合った依頼を受けられるようになっている。逆に言えば、実力以上の依頼を無理に受けさせない仕組みになっているのだ。
人数が多い初級、四級のカウンターが最も数が多い。もういくつかのカウンターが埋まっているようだったので、ジュセルは急いで初級のカウンターに向かった。カウンターに座っていたのは、かなり小柄なキリキシャの協会員だった。
「こんにちは、依頼をお探しですか?」
「はい、初級です」
「ではこちらの台に証石を置いてください」
言われるがままに、おちょこくらいのカップのような器具に証石をのせる。するとリュン、という綺麗な音が鳴った。カップの下にある台に映し出された文字を読み取って協会員が読み上げる。
「はい、先日合格されたばかりのジュセルさんですね。初仕事ということで間違いないですか?」
「はい」
協会員は手元にある依頼書の束を取り出した。
「どのような依頼が希望ですか?」
「えっと、荒事は苦手です。今までやったことがあるのは薬草や木の実の採取、配達と家業の手伝いです」
「わかりました~‥少々お待ちくださいね。‥」
協会員はしばらく依頼書を何枚もめくりながら見ていた。その中から目当てのものを幾つか引き抜いてジュセルに見せてきた。
「ここの薬局が、これだけの薬草を欲しいということで依頼があるんですが‥締め切りが五日後ですけど、大丈夫ですか?」
依頼書を見てみると、複数の薬草の名前が記されていた。そのうち一つは少々珍しいものではあったが、ジュセルには生息地の当てがある。
「大丈夫です」
「了解しました、では依頼を受領‥ですね」
証石が置かれた台を何やら操作してから、協会員は証石を取り上げジュセルに返す。
「では、依頼書に書いてある通り、納品してください。納品の際に必ず受領印をもらってくださいね」
「わかりました、ありがとうございます」
これでジュセルの証石には、今受けている依頼が入力されたことになる。達成されれば達成一とカウントされて、それが二百に達すれば四級の受験資格が得られるのだ。
協会員は「あ、」と何かに気づいたように慌てて言ってきた。
「今日だけで完了する日払いの依頼もまだありますが、受けますか?今ご紹介した依頼は、薬草納品ごとに少額、全品完遂後に依頼金の支払いという形ですが」
初級に合格した者は、生活費に困っている場合が多い。そういう者は日払いの短期依頼を受けることが多いのだ、というのもビルクに聞いて知っていた。
「大丈夫です、今はまだ少し余裕があるので」
「そうですか、よかったです」
小柄なキリキシャの協会員はほっとしたようにそう言って笑った。いい人だな‥とジュセルも思わず笑顔になる。するとキリキシャはジュセルに身を寄せるようにして少し声を落とし、話し出した。
「ジュセルさん、先日ケイレンさんと‥あの、色々あった方ですよね?」
「‥はあ、そう、ですね」
色々っていうか、あちらが勝手に抱きしめてきてキスしてきただけなのだが。しかし、キリキシャの協会員は茶化すようなことはせず、真面目な声で囁いた。
「ケイレンさんを信奉する人たちがいまして、先日のことがすでに周知されているようです。‥可能であれば、森など人けのないところに行く際には同行者があった方がいいかもしれません」
そう言われてジュセルは目を見開いた。靴屋に続き、協会でもそのように言われるとは。これは真面目に対策を考えねばと思い、ジュセルは尋ねた。
「‥ちなみに、どんな感じにやばいんですかね?」
そう問われたキリキシャは、ジュセルの顔を見て口に手を当て言い淀んだが、意を決したように言った。
「‥ケイレンさんに親しくしようとつきまとっていたヒトが、‥腕の骨を折られた、というのは聞いたことがあります」
がた、と椅子が鳴った。ジュセルが身を引いて出た音だった。耳のあたりが熱くなり、心臓がきゅっと痛んだ。その顔を見たキリキシャが、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「無論、その時は怪我をさせた方に級位降格などの処分はされましたし、問題にもなりましたが‥できれば用心していただいた方がいいかと‥すみません、怖がらせちゃいましたね‥」
申し訳なさそうにそう言うキリキシャに、ジュセルはぶんぶんと首を振った。
「いえ、教えていただいてよかったです!あの、名前を聞いてもいいですか?」
キリキシャはにこっと笑った。
「コトルです。依頼授受をやって十年になります。よろしくお願いします」
「コトルさん、ありがとうございました」
ジュセルはコトルにそう礼を言ってから、依頼書を鞄に詰め込んで立ち上がった。
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