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日本での常識しか知らない俺には、異世界の普通がわからない 第105話 | 天知カナイの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
日本での常識しか知らない俺...
第105話
作者:
天知カナイ
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第105話
請負人協会
(
カッスラーレ
)
が各所に通達を出して販売を開始した『力素回復薬』は、
高能力者
(
コウリキシャ
)
達の間に、大きな驚きと歓喜を呼び起こした。 これまで、ヒトの怪我や病については様々な薬剤が開発され、売られてきたが、力素そのものを回復するものは皆無といってよかったのだ。 そんな中、ちからを多く使う
高能力者
(
コウリキシャ
)
達の悩みは共通して、仕事中の力素枯渇であった。 売り出される前に通達された、各役所や隊商会、退異師会などでは、『
請負人協会
(
カッスラーレ
)
がとうとう怪しい商売に手を染め出したのではないか』などと言い出すものもあったほどである。 それもそのはず力素回復薬の値段は、一回分で共金貨一枚という強気の値段設定だ。万能薬の半額という途方もない値段に、首をかしげるものは多かった。 しかもその販売方法も、売られるのは十日に一度、一日の販売数は三十個、一人につき二個までしか買えず、また買うのには身分証明書が必要で、基本的には
高能力者
(
コウリキシャ
)
にしか売らない、というかなり特殊な方法を取っている。 今までこのような特殊な方法で売られた薬剤などはない。そもそも、
請負人協会
(
カッスラーレ
)
で、このようなものが売られること自体が珍しいのだ。通常、
請負人協会
(
カッスラーレ
)
で売られているのは、道具類や安価な回復薬、
請負人
(
カッスル
)
に必要な道具などでしかなかった。 発売前に開示されたこの力素回復薬の情報は、
高能力者
(
コウリキシャ
)
達の興味をそそるには十分すぎるほどの理由があった。 そして、発売日当日。
請負人協会
(
カッスラーレ
)
本部の建物には、数多くの
高能力者
(
コウリキシャ
)
達が詰めかける事態となった。 「は?」 ジュセルは今聞かされた事実を受け止めきれずに、何度も目を瞬かせた。 目の前のヤーレは特に驚いている様子も見せず、淡々と繰り返す。 「発売と同時に売り切れたんだよ」 二度目の言葉を聞いても、それを自分の中で処理できない。 ‥‥共金貨一枚!共金貨一枚の代物だぞ?それが、三十個全部すぐに売れた、って? 茫然としているジュセルの横で、スルジャがきゃっきゃと小躍りしている。 「やっぱりねえ!これは生産体制を早く整えないと暴動が起きるよね!」 「まあ、そうだろうな。三十個は少なすぎるって随分文句を言われたよ」 ヤーレもスルジャの言葉に頷きながら新たな情報を出してくる。それに驚いてようやく言語機能が復活してきたジュセルが再び声を上げた。 「はっ?あのくそ高いやつをもっと買いたかったやつとかいんの?!」 ヤーレの顔は至極真面目だった。何なら少し眉間に皺を寄せて思案する様子さえ見せている。 「一人二個までとは殺生だ、とも言われたな。購入者を
高能力者
(
コウリキシャ
)
に絞ってたからそれについても随分苦情が出た。ま~色々しんどかったわ。だからジュセルの菓子を食わせてくれ」 そう言うとヤーレは団欒室の長椅子にどっかりと腰を据えた。その斜め向かいにスルジャもいそいそと腰かけて、瞳をきらきらさせながらジュセルの顔を見上げてきた。 「ジュセル昨夜何か作ってたよね?おやつだって言ってたよね?あれ食べたいな~~!」 「いいけど‥」 昨夜は試行錯誤しながらスポンジケーキを焼いてみたのだ。一回目に焼いたものは焦げ臭く決してうまいといえる代物ではなかったが、二度目に焼いたものはやや固いとはいえスポンジケーキの体裁を保っていた。 とはいえ生クリームを泡立てられるほどの力もないので、夜のうちにラッカ蜜を少し希釈したものを塗り込んでおいた。朝見たときには随分としっとりしていていい感じになっていたのでおやつに出そうと思っていたものだ。 「わかった、準備するからアニスも呼んできて。明後日にはアニスいなくなっちゃうし」 アニスは、元々受けていた隊商会の護衛旅の仕事が少し前倒しになったので、明後日にはここを発つことになっていた。そのため、今日は荷物の整理をしていたのだ。 アニスを呼びに行くスルジャの背中を見てから、ジュセルは大きく息を吐いた。そしてヤーレの方に向き直る。 「‥回復薬の製造者は、まだ洩れていないんですか?」 ヤーレは笑みを浮かべながら優しく頷いてみせた。 「うちの解析師には全員、シンリキ誓書を書かせたが、そもそもジュセルの名前を知らないやつも多かったし‥すぐに洩れることはないと踏んでる。少なくとも半年くらいは秘匿できる見込みだ。その間に、ジュセルの警護体制を整えるつもりだからあまり心配しなくていい」 「ありがとうございます」 これまでジュセルの身柄を守ってくれていたのは、これまでケイレンの好意と罪悪感から来ているものだった。だからこそ、ケイレンの人脈や資産を使っていることに一抹の後ろめたさを感じずにはいられなかった。 しかし、ジュセルの身を護るための理由がほかにできたことと、回復薬の売れ行きが予想以上だったことで、どうにかその後ろめたさを解消できそうな気がしていた。 「あの、その護衛してくれるヒトの費用とかって‥」 と言いかけたジュセルを、ヤーレはひらひらと片手を振って制した。 「
請負人協会
(
カッスラーレ
)
としても利のある案件だからな。将来的にも大きな利益を生み出しそうだし、その辺の費用は全額ウチでもつ予定だ」 「え?いいんでしょうか‥?」 不安げにヤーレを見てくるジュセルを見て、ヤーレは苦笑した。 「ジュセル、あんまりわかってないようだがお前は今や
請負人協会
(
カッスラーレ
)
の重要人物の一人になってるからな?そのうち、カズリエも面会に来るから心しとけよ。あいつは見た目に反して相当に口が悪いからなあ」 噂に聞く
請負人協会
(
カッスラーレ
)
の協会長、カズリエにはジュセルは会ったことがない。百歳を超えているのに未だに
若者
(
ワクシャ
)
に見えるという噂のあるヒトだ。しかし協会本部に行ったのは四、五回ほどしかないジュセルは、見かけたことすらなかった。 ヤーレは立ち上がってジュセルの肩をぽんぽんと叩くと、扉の方に向かって押し出すようにした。 「ほい、とにかくなんか食わしてくれよ。ジュセルの菓子楽しみにここまで来たんだからな?」 催促されるがままに厨房に向かった。食糧庫にしまっておいたケーキを取り出し、作業台に置く。そしてお茶を沸かそうと茶葉の入れ物に目をやったとき、もう空になってしまっている自作の茶葉入れが目に留まった。 何となくそれを取り上げ、蓋を開ける。まだ微かに茶葉‥薬草類の香りが残っていた。ジュセルにとっては実家で飲んでいた懐かしい香りだ。 (‥‥エライことになってきたな‥) 力素回復薬自体は、茶葉ではなく濃縮した成分の水薬になっている。茶葉にするのよりも数段手間と時間がかかる代物だ。しかも要所要所でジュセルが必ず作業をしなくては、その効能は得られない。 そういった性質のものが一瞬で売れるほどに需要がある、という事実は、ジュセルの心に喜びよりも先に得体の知れぬ怖ろしさを感じさせていた。 「‥気にしても、仕方ない!」 自分に言い聞かせるようにそう言うと、別の茶葉の入れ物を取り出し湯を沸かし始めた。 ケイレン。 会いたいな。 俺のこんな気持ちを聞いてほしい。 大丈夫だよってあの笑顔を見せてほしい。 忙しいんだよな。‥手紙、送ったけど返事来てないし。 ちゃんと食べてるのかな。怪我してないかな。 ケイレン。俺、怖いよ。 会いたい。 ジュセルは茶菓の用意をしながら、ぐすっと洟をすすり腕で顔を雑に拭った。
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