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第134話

*私のミスで132話を二回投稿してしまっておりましたので、深夜の133話投稿、6月2日正午にこの134話投稿となっております。順番がややこしくなってしまってすみません‥。 全族都イェライシェン。 サッカン十二部族国の首都にして、サッカン大陸でも五指に入る規模の大都市である。 人口はおよそ百二十万人。地方の平均的な市街の人口が一万人に届かないほどだと言えば、この規模の大きさがわかろうというものだ。 いくつかの行政区に分けられ、それぞれ行政区長が様々な公務をつかさどっている。それぞれの区にはそれなりの特徴がある。例えば行政機関が集まっている東ヤルガ地区、そこに従事する者の住宅が多い西ヤルガ地区、商業関連の隊商会や店舗、市場、それに従事する住人たちが多い南北アラマサ地区、といったような具合になっている。 そのイェライシェンの中でもほぼ中心部に位置する、シュカンデ地区。 ハリスはここに身を潜めていた。 シュカンデ地区は特に暗黒街という訳でもなく、ごくありふれた住宅街がほとんどを占めるところだ。北アラマサ地区よりは少し北にあり、イルアルム地区を挟んだ東側には西ヤルガ地区がある。 北アラマサ地区に近い方には、商店が立ち並び市場も五日おきに開かれるような場所があるが、基本的には住宅街と職人工房で占められている。 ハリスは、自分の子飼いの部下の中でも特に重用している十人余りを呼び寄せていた。今、ハリスが潜伏している屋敷はなかなかの大きさだが、ここにもともと住んでいた家族には、シンリキ操作で国境近くの街まで行くように暗示をかけて追い出したのだ。 暗示が切れた頃には、また別の場所に移っているだろうからいいかと命までは取らなかった。ヒトを殺すと、その後処理が面倒くさいことをハリスは十分に知っていた。とにかく自分の行動や計画の邪魔にならなければいい、とハリスは考えていた。 解錠鍵を作らせたグンデは、いい拾い物だった。他にも使いでがありそうだから別の場所に飼ってある。この先、裏社会で生きるしかなくなったハリスにとっては必要になる人材だ。 全族長会議後、すれ違ったヒトから大きさにすれば小指ほどの解錠鍵を受け取った。すぐに口に含み歯の裏に隠したのでバレなかった。 ハリスから見てみれば、特に大きな騒ぎを経験したこともない大国議会警察の警護は、甘すぎて笑えるほどだった。さすがに、牢獄を管理している獄吏たちはみな腕利きで、ハリスもその能力を全開にしなければそこから抜け出すのは難しかったが。 獄吏たちのその後など、ハリスにとってはどうでもいいことだった。 それよりも‥‥これからやらねばならぬことが山のようにある。ヨキナとのつながりが切れ、その他の様々なつながりも露見した今となっては、裏請負会(ダスーロ)を使うことはできない。そもそも今の主頭であるロザイが、ハリスのことをよく思っていないことは知っていた。 裏街道を生きる日陰者のくせに、たまに青臭いことを言うあの|裏請負会《ダスーロ》主頭がハリスは大嫌いだった。 「さて、何から手をつけるか‥」 ハリスは琥珀色のハルミ酒が満たされたグラスをゆるりと回した。豊かな酒精の香りがふわりと辺りに漂う。その香りを十分に楽しんでからこくりと飲む。 「ん、美味い。砂のような食事ばかりだったからねえ」 ハリスはそう独り言ちてから、カタン、と机の上にグラスを置いた。組み合わせた両手の上に顎をのせ、膝の上に肘をついて空を見つめる。 「まず、は‥‥そう、あれの始末からかな」 そう呟いてから、机上にあった鐘を鳴らし、部下を呼びつけて命令をした。 ヤーレは朝一番に飛んできた速信鳥紙を捕まえてその内容を聞き、青褪めた。そしてそのままケイレンの屋敷を飛び出そうとしたところを、朝の鍛錬をしていたナジェルに声をかけられた。 「ちょっとヤーレ、血相変えてどこ行くんだ?単独行動はとらないようにしようって話しただろ?」 「‥カラッセ族のカリエが殺された」 ナジェルは眉を顰めた。 「カリエ‥?ごめん、知らないヒトだけど‥」 ヤーレは自分を落ち着かせるようにふうっと大きく息を吐いてから、ゆっくりと話した。 「‥今のカラッセ族長次代、ザイダの元婚約者の(シンシャ)だ。族長会議の時にも激しくハリスを糾弾したらしい。家の玄関で死んでいるのが昨日の夜発見された」 ナジェルが木剣を脇に置いて近づいてきた。落ち着かせるためか、ぽんぽんとヤーレの肩を叩く。ヤーレは言葉を続けた。 「族長や、ハリスについて糾弾したものには警護を厚くしたそうだ‥恨みのあるヒトを殺すのが、優先事項らしいな」 ヤーレの心の中は嵐が吹き荒れていた。恨みの線で考えるなら、一番に狙われそうなのはザイダだ。それでなくとも命を狙われていたことがあるのに、ザイダは今の警護で本当に大丈夫なのか。 まさかに報告書にそのような私信をのせるわけにもいかない。ザイダとて、ハリスの脱獄に伴う様々なことできっと忙しくしているに違いない。 自分が鳥を飛ばすことで、ザイダの現在地をハリスに探られないとも限らないのだ。 ナジェルは、やや俯いたまま拳を握りしめ唇を噛んでいるヤーレの肩を、またぽんぽんと叩いた。 「ヤーレ、‥族長会議関連の知り合いがいるのか?こないだ、ケイレンが言ってたヒトのこと?」 「‥‥まあ、そうだが‥今、俺にできることはなにもねえからな‥」 ナジェルは、ヤーレの顔を見上げるようにして言った。 「そうかもしれないけど、気になるんだろ?ティルガに頼んで、請負人協会(カッスラーレ)か大国議会議院施設に行ってもらえば?詳しい状況が聞けるかもしれないし」 ヤーレは少し考えてから頷いた。 「請負人協会(カッスラーレ)に行ってもらおう。今、ティルガを大国議会なんかに向かわせたらそのまま取り込まれちまうかもしれねえしな」 そして屋敷の中に戻ってティルガを呼びに行った。 ハリスの脱獄から五日が過ぎ、請負人協会(カッスラーレ)には様々な依頼が殺到していた。一番多いのはやはり護衛任務、次に多いのがシンリキ遮断頭環(とうかん)の材料になるものの調達だった。イェライシェンの名のある工房はどこもシンリキ遮断頭環の注文が相次ぎ、一時混乱を極めた。 結局、シンリキ遮断頭環の注文に関しては、輝石加工職人会が間に入って取りまとめることとなったが、それでも納品までは時間がかかる見通しだった。 大国議会警察、市中警備隊、それからサッカン十二部族国軍が協力して、政府の要人やハリスが狙いそうな人物を中心に警備体制もしいている。 一方、その範囲外にいる人々が不安に思うことも多いらしく、大きな隊商会や資産家からの警備依頼もどんどん増えてきており、請負人協会(カッスラーレ)はこれまでにない人手不足に陥っていた。 苛々が最高潮に達したカズリエのとった行動は、人々の度肝を抜くものだった。 なんと、宿敵、商売敵ともいえる裏請負会(ダスーロ)の主頭、ロザイを協会本部に招き入れたのだ、 よばれたロザイも呆れたが、そのロザイが素直に教会本部に姿を現した時には、ロザイの顔を知っているものが騒いで大混乱に陥った。 カズリエはさっさと会長室にロザイを引っ張り込んで用件を言った。 「どうせ”裏”の方にも警護依頼とかが殺到してるんでしょ?請負人協会(うち)で人数を確保できるかわからないからって、あんたのところにも依頼出してるやつがいると見たの。情報持ってきてくれた?」 「‥‥それが、裏請負会(おれたち)にどんな利があるんだ。言っとくが、利のないことでは俺らは動かねえぞ」 カズリエは茶も出さぬまま腰に手を当てて仁王立ちし、にっこりと笑った。しかし、カズリエもロザイもシンリキシャ同士であり、この技は効かない。それをわかった上での行動である。 「利ならあるでしょ。こっちとそっちの依頼をすり合わせてうまく人員を配置すれば、依頼を急に取り下げられることもないし、確実に取れるわ。‥ウチで受けづらい依頼をそっちに回すこともできる。言っとくけど、今は異常事態、緊急事態なのよ。がたがた言わずにさっさと情報寄こしなさいよ」 カズリエの、まるで脅迫にも取れるような物言いを聞いて、ロザイははーっと長い息を吐いて額に手を当てた。 「‥お前よくそれで十年以上も協会長やってこれたな‥」 「文句のあるやつは協会から外れてもらうだけよ。あたしが上に立っているうちはあたしのやり方に従わせるだけだわ。早く情報!まさか持ってきてないの?」 ロザイは背中の方に負っていた鞄を開けて、輝石のついた紐でくくられている紙の束を取り出した。それを見てカズリエはすっと目を細め口の端を上げた。 「あら、意外とちゃんとしてるのね。鍵をかけて持ってくるなんて」 「‥バカにするのもいい加減にしろよ。俺だって何年かは裏の頭を張ってるんだ」

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