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第144話

「どうしたんだよ、ここには来るなって‥ていうか、来ないって言ってただろ?今、ハリスのことで色々と取り込んでるからさ‥」 そう早口で言いかけたアニスの身体を、ロザイはぐっとまた引き寄せ、自分のたくましい身体でアニスをすっぽりと覆ってしまった。 その頃には、何事が起きたのかとスルジャ、ジュセル、サイリの三人もそーっと二階の階段の上から覗きに来ていた。そこで目にしたロザイの身体に抱き込まれて驚いているアニスの顔。 「きゃ~~♡」 しんとした玄関ホールに、不似合いなスルジャの叫び声が響く。慌ててジュセルがスルジャの口を塞ぐが、スルジャはもごもごと反抗した。 「ひゅせる、らって、あのあにしゅが、あんにゃかんじに、ふぐ」 サイリの加勢もあって、スルジャは完全に押さえ込まれた。 驚いて声も出せなくなっているアニスの頭に、ロザイはそっと唇を落とした。それはすぐ近くにいたヤーレとケイレンにしか見えない仕草で、二人は何度も瞬きをして自分が見たものを確かめていた。 ロザイはしばらくアニスを抱きしめてから、少し自分の身体から離しじっとその顔を見つめてくる。アニスはそんなロザイにどう対処していいかわからず、ただ見つめ返すだけだ。 「行くぞ」 ロザイはそう言うなり、アニスの腕を掴んだままずんずんと玄関扉の方へ向かっていった。 途中で呆けているケイレンを押しのけ、苦虫をかみつぶしたような顔のままこれまたずんずんと屋敷からアニスと共に出て行ってしまった。 その鬼気迫る様子に、屋敷にいた誰もが何も言えずただ見送ることしかできなかった。 バタン、と閉まった玄関扉を眺めつつ、ジュセルとサイリの腕から解放されたスルジャが、ぼそりと言った、 「あー‥ハリスの件で色々忙しかったし、本当ならひょっとして一緒に住む話とか出てたのかな‥?それなのに、会う約束とかしててすっ飛ばされたのかもしれないし‥‥ロザイに限界が来たのかも‥?」 と呟き、それを聞いた一同も何となくロザイの気持ちを察して頷いたのだった。 ケイレンの屋敷の前には小型機工車がつけられており、アニスはその後ろの座席に押し込まれた。続いてロザイも乗り込んでくる。 「ロザイ、お前‥」 抗議しようとしたアニスの唇は、すぐさまロザイに塞がれた。座席にアニスを押し倒すようにロザイがのしかかってきて、その咥内を蹂躙する。その間にスーッと機工車が動き出したことで運転手がいることもわかったアニスは、余計に抵抗しようとした。だが、ロザイはその身体全体を使ってアニスを押さえ込み、柔らかな唇と舌を味わっていく。 「ふぁ、ンンッ、ん、」 咥内をロザイの厚い舌で撫で擦られ、しゃぶられる。食いつくすようなその愛撫に、アニスは身体がかっと熱くなっていくのを感じた。自分でも知らぬうちに腰が揺れ、腕をロザイの首に回していた。 歯列を辿って上顎をくすぐられる。上下の唇をそれぞれちゅっちゅっと挟まれ吸われた。最後にきつく舌をぢゅうっと吸われ、ようやくロザイは離れてくれた。 はっはっと息が上がり下半身に熱がこもったまま離されて、アニスは濡れた瞳でロザイを見上げた。その顔を見て、またロザイは舌打ちをする。 「ロザイ‥?」 「そんな顔するぐらいなら、俺から離れるんじゃねえよ」 ロザイはそう言って座席に寝転がったまま、アニスをぎゅうっと抱きしめた。股間のあたりに硬く昂ったロザイの陰茎が当たる。無論、アニスのそれも熱く昂って下衣の布を押し上げていた。 「い、今は、非常事態、だから‥しばらく会えないって言っただろ‥」 「限度がある。お前が悪いんだアニス、俺に‥俺にもう、希望を持たせちまったんだからな」 運転手がいる、という事実はアニスの脳裏から薄くなっていき、再び降りてきたロザイの唇を受け止めるので精いっぱいだった。 アニスは出ていって(攫われて?)しまったが、その代わりとでも言うように折よくティルガが戻ってきた。アニスはロザイに連れて行かれた、とスルジャが面白そうに語ってみせれば、ティルガは声をあげて笑っていた。 その後、夜を徹してスルジャとジュセルが話し合ったのだが、なかなかサングラスの形がうまく決まらなかった。元々の眼鏡の枠を使って作ればいいだけでは、とジュセルは簡単に考えていたのだが、スルジャは首を振った。 「耳にかけるだけじゃあ戦闘中に外れて飛んでっちゃうよ。とにかく、相手に目を見せないことが重要なんだから‥なんか、紐とかで括って後ろで結んでおいた方がいいね」 「隙間からも見えないようにしなきゃいけないんだったら‥ゴーグルみたいにした方がいいのか‥」 「ごーぐるって何?」 ジュセルがまたしまった、という顔をしたが、スルジャはそれに構わず言った。 「もう、何も事情は訊かないから、とりあえず説明してよ」 ジュセルはごめんと一つ謝ってから、ゴーグルの説明をした。スルジャは書きかけていた設計図をぐしゃっと握りしめて放り投げた。 「輝石を曲面に加工する技術なんてないよ!‥まあ、この世界(トワ)のどこかの大陸にはあるかもしれないけど、今の十二部族国にはない!あ~~~もう!」 「どこにその技術があるかさえわかれば、俺が行ってくるんだけどなあ」 うんうん唸っているジュセルとスルジャの横で、ティルガがそう言った。スルジャはじろっとティルガを見上げた。 「ええ、所縁(ゆかり)のないところには転移できないんじゃなかったっけ?」 「ああ、だが色々と経由していけば、何とかなるかもだろ」 しかしスルジャはそのままバタンと机に突っ伏した。 「‥‥結局その技術がどこにあるかわかんないんだから、どうしようもないよ‥とりあえず眼鏡型で行くしかないかあ‥あの形になら加工できるからねえ‥」 「でも、隙間をどうやって塞ぐ?輝石以外の素材だと視界が無くなるし‥レー‥網目模様の布だと何かの拍子で目が合っちゃうかもしれないし‥」 「ううう‥‥」 ずっとスルジャとジュセルがこのような感じにうんうん唸っているので、ケイレンとティルガが食事を買いに行き、サイリは書類の整理などしてヤーレを手伝ってやっていた。 屋台で買ってきた昼食を食べ終え、ほっと一息入れているとビーッとまた呼び出し音が鳴った。 「アニスが帰ってきた‥ってことはないと思うけど‥」 そう言いながらスルジャが立ち上がると、ティルガが自分が出ようと言ってそれを押しとどめた。 ティルガが玄関で誰何すると「請負人協会(カッスラーレ)から荷物のお届けにあがりました」という声がする。細く扉を開けてみてみれば、やや小柄なレイリキシャが大きな荷物を持って立っているのが見えた。その後ろにも人影がないことを確認して扉を開ける。 「こんにちは、今アニスさんはこちらにいるとうかがってお届けに上がったのですが‥いらっしゃいますか?私はクゼレ連合国でショレルダ隊商会を運営しております、トッテンと申します」 玄関ホールに引き入れてもらったトッテンは一度荷物を床に置くと、額の汗をぬぐった。随分急いできてくれたようだ。玄関ホールの奥で様子を窺っていたスルジャが、トッテンの声を聞いて飛び出してきた。 「あの、灰輝石を届けに来てくださったんですか?早っ!早いですね、ありがとうございます!」 「はあ、あの、お急ぎとうかがったもので‥それで、アニスさんは‥」 スルジャはそれを聞いて、ティルガと目を合わせ眉尻を下げた。 「えっと‥アニスは今ここにはいなくて‥どこにいるかわからないんですよね‥」 トッテンは「ええ?!」と声を上げた。アニスに急ぎだと聞いたから、諸々の手配をしてサッカン大陸まで、文字通り機工飛艇を借りて飛んできたのだ。それなのに、当のアニスが不在だと聞いてわかりやすくトッテンは困惑していた。 そこにヤーレが団欒室から出てきた。トッテンは一度だけ協会でヤーレの顔を見たことがあった。ヤーレの方は忘れていたが、トッテンは思わずその前に駆け寄った。 「ご無沙汰をしております副会長。ショレルダ隊商会のトッテンでございます。アニスさんに頼まれた品をお持ちしたのですが‥」 ヤーレはその言葉を聞いて目を輝かせた。トッテンの両手を取ってぶんぶんと上下に振る。 「本当か!?いや早いな!非常に助かる、ありがとう!」 「あの、アニスさんがいらっしゃらないということなんですが‥副会長の方にご説明申し上げてもよろしいですか?」 「勿論だ!スルジャ、ジュセル、一緒に応接室に来い。あと、誰かすまないがお茶を用意してやってくれないか」 ヤーレの呼びかけにジュセルが応えた。 「俺がお茶を用意するよ。ほかの人も色々聞きたいだろうし、先に応接室に行ってて。‥ケイレンだけ、こっちに来てくれる‥?」

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