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第151話
*すみません、また重複投稿してしまいました‥!申し訳ないです‥15:57投稿し直しました。
「じゃあ、ここで争うのなんて無駄じゃん!その、龍人 が来るのを待って、ジュセルの状態を見てもらうしかないんじゃない?‥‥万が一、その龍人 がジュセルに何かしようとしたら、あたしらが全力で守ればいいだけの話でしょ?そんなに話の通じない相手なの?龍人 って」
あっけらかんとそう言い放つスルジャに、サイリは少し口ごもった。
「‥龍人 様は‥‥正直、ヒトの道理や感情があまり理解できているかわからない。龍人 様が感情を露わにするのは、番いであるマヒロの前だけだから‥」
「でも、そのマヒロってヒト‥ヒトなんだよね」
「あ、うん、多分‥」
自信なさげに言うサイリに、あくまでスルジャは明るい態度を崩さなかった。
「じゃあ、マヒロってヒトに頼めばいいじゃん!ジュセルに危害を加えないでね、って!マヒロってヒトとは、サイリも親しいんでしょ?」
「‥うんまあ‥そう、言ってもいいのかな‥」
「じゃあ問題ないじゃん!ハイ、この話は終わり!」
スルジャは雑にまとめると自分の分の菓子だけを摘み上げ、応接室を出ていった。バタン、という扉の閉まる音がやけに響いた。
静まり返った応接室で、ケイレンがぽつりと言った。
「すまん」
その言葉に、ナジェルとサイリが顔を上げ、ケイレンの方を向いた。ケイレンは茶器を手の中に握り込んだまま俯いていた。
「サイリ、ナジェル‥すまん。俺の‥俺が、しっかりしてなかっただけだ」
「ケイレン」
ナジェルが声をかけたが、ケイレンはそのまま立ち上がり、茶器を置くと部屋を出ていった。
残されたナジェルとアニスは目を見合わせる。サイリはケイレンが出ていった扉をじっと見つめている。
アニスは長い息を吐きながら茶器を手に取った。
「‥‥なかなかすごい時に帰ってきちゃったなあ‥」
スルジャは自分の部屋に閉じこもり、枕の顔を突っ伏して声を殺し一人涙を流していた。ジュセルの身体のことを思うとすぐ涙が出てくる。どう考えても、ジュセルの身体の不調は力素回復薬の生成の影響だとしか考えられない。自分が中途半端な好奇心や興味で作るに至ってしまったことで、あの明るくかわいらしい若者 の健康と命が危ぶまれている。そう考えるだけで、スルジャは胸が潰れそうな気持ちになるのだった。
しかし、それをここにいる面々に悟られるわけにはいかない。自分は、いつだって「明るいスルジャ」でいなくてはならない。そういう自分に周りが期待していることを、スルジャはいつも感じていたのだ。
協会が何だ。
ハリスが何だ。
龍人 が何だ。
あたしは、あたしのしでかしたことにはきっちりと自分の手で始末をつけてやるんだ。
スルジャは声を洩らすまいとぐっと枕を噛んだ。
「あ~‥結構面倒くさいなこれは」
ぶつぶつと何か呟きながら解読していたヤーレが、皺のよった紙片から顔を上げた。ティルガは荷物を届けたというのに帰る気配もなく、座ったままでヤーレの言葉に「ん?」と返事をしている。ザイダはなんとなく口を挟むことが憚られて、黙っていた。
ヤーレは紙片をひらひらと振りかざしながら、小さな机の上に置かれた『力素神鐘 』を眺めた。
「え〜とだな、鳴らすのはさっきティルガが言った通り、『シンリキ操作からヒトを解放したい』と願っているシンリキシャでないとだめだ。しかも高能力者 でないと、力素の放出に耐えられんらしい。‥‥そこはまあ、俺たちの隊にはシンリキの高能力者 はいるからいいとして‥」
ヤーレは椅子から立ち上がって、うろうろと歩き回る。そうしながら話しているのは、自分でも考えをまとめるためなのだろう、とザイダには思えた。
「完全にシンリキ操作から解放するためには、八分以上鳴らし続ける必要があるようだ。‥そしてこの鐘の有効範囲は、鐘を中心として半径2カート(=約18m)‥だと。つまり直径4カート(=約36m)の中に、操られているやつらを入れて、かつ八分間これを鳴らし続けなきゃならねえ、ってことか‥」
便利なものが手に入った、と思っていたが、そうそう簡単にことは運ばないようだ。また、隊の者達と作戦を練らなければならないな、とザイダは考えた。
「‥じゃ、俺は帰るわ。また回復薬とか届けるときには来るかもしれねえけど。そんときには、またお前の気配を探って転移するから、どこかに潜伏するときにはできるだけ広いところに頼むな」
ティルガがそう言って立ち上がる。そしてヤーレの肩にぽんと手を置いた。
「俺は、ヒトの争いには首を突っ込めねえ決まりだ。キツイだろうが、踏ん張れよ。何かあったらまた鳥でも飛ばせ」
そしてまたごろりと重い扉を開けて機工車を出ていった。‥転移は、外でないとできないのだろうか、とザイダは閉められた扉を見つめた、
ヤーレは、そこで初めて、先ほどからあまり喋りもせず、じっとしたままのザイダに気づいた。
「おう、ザイダ、どうかしたか?大人しいな」
「あ、いや‥」
ザイダは、ハッとしてヤーレの顔を見た。そして、なんだか恥ずかしい気持ちになった。
知らず知らずのうちに、自分はあの伝説のようなティルガという人物に嫉妬したのかもしれない、と思いついたからだ。
‥‥何だ俺、ヤーレにほだされてんのか‥?
いきなりぶんぶんと頭を振ったザイダに、その髪の毛が当たったヤーレは「うわ」と声をあげて、不審そうにまたザイダを見た。
「‥大丈夫か?お前‥色々あったし、疲れてんじゃねえか?」
「大丈夫だ。疲れてるのは他の面々も同じだから。大丈夫」
両手でパシン、と頬を打つザイダの姿を横目に見ながら、ヤーレは首をかしげながら
「ならいいけどよ‥」
と、まだ訝しげにしていた。
予定していた二日が過ぎたが、先に様子を探りに行った者がまだ戻ってこない。仕方なく、機工車の出発を遅らせて探索者の戻りを待つ。
その間に、残っている者たちと力素神鐘 についての説明と、情報共有をした。力素神鐘 は、普通に振っても叩いても音が鳴らない。これでは事前に音が鳴っているか、確かめることができないな、と一同はみな同じように渋い顔をした。
「鳴らしてる、ってことが、鳴らしてる当人以外にもわからないと時間とかわかりづれえよな」
「どのくらい、踏ん張って戦ってりゃいいのかわかりませんからね‥もともとの村人を殺傷するわけにもいきませんし」
「ま、それがハリスの狙いでもあるんだろうな‥つくづく性根の腐ったやつだよ」
「‥だから、ああいう色々な悪事も、平気で働けるんだろう」
そこで、なんとなく空気が重くなる。これから自分たちが対峙する相手の異常性と、それを相手に戦うことの難しさを改めて感じたのかもしれない。
ザイダは、少し声の調子をあげて言った。
「しかし、このような便利な道具があるというだけでも、随分と気が楽だ。村人をできるだけ傷つけたくないしな!」
ザイダのその声に、一人のシンリキシャがハッとして笑顔を作った。
「そうですね。できうる限り、被害は少なくしたいですし‥」
しかし、もう一人がまた別なことを言う。
「村人は全員、シンリキ操作されてるんでしょうか?」
「それも含め、探りに行ってもらったんだが‥」
すでに、探索者が戻ってくるはずの日から、丸一日以上が過ぎている。やはり何かがあったのでは‥という気持ちが全員の心の中に沈んだ。
その時、ごろり、と重い音がして扉が開いた。
「すみません、遅れました!」
「エンダ!」
「よかった、無事だったんだな!」
エンダ、と呼ばれた小柄なシンリキシャは息を切らせて膝に手をつき、頭を下げている。慌てて誰かが水の入った木筒 の栓を開けて渡してやると、エンダはそれを受け取り、一気に飲み干した。
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