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第160話

もう少し詳しい話を詰めるべきだ、と判断したザイダは、カジャの了解を得てヤーレたち別動隊と合流した。そして、カジャの古い知り合いが営んでいる宿屋に一行は落ち着いた。 宿屋はそこまで大きいものではなく、場所も大通りからは少し外れていて人目につきにくい場所にあるので、ザイダたちにとっても好都合だった。 大勢が集まれるような場所が食堂しかなかったのだが、たまたま今は他の客がいなかったのでそこを使うことができた。 宿屋の主にある程度の金額を包み、飲食物を少し注文してからそれぞれが席につく。その中にはカジャの伴侶であるナルグとその子であるルフカも加わっていた。 子どもがいることに始めは難色を示したザイダだったが、「子どものことは子どもが一番よく知っている」というナルグの言葉で、渋々ルフカの同席を認めた。 厳しい顔をして眉を寄せながら、ザイダは、口火を切った。 「‥ではまず、その人質を解放するところから取りかからないとだな‥。せっかく村人を正気に戻しても、人質がいたんじゃハリスに歯向かえないだろう」 「村の子どもは全部で何人いるんだ?間違いなく全員が同じ場所に監禁されているのか?」 そう尋ねた大柄なシンリキシャに応えたのは、小さなルフカだった。 「俺がいなければ、十五歳以下の子どもは多分九十六人だ。何かあったらと思って、こないだ紙に書きだしてみたから間違いないと思う」 はっきりとした口調でそう答えるルフカの頭を、ナルグが優しく撫でた。それを見てヤーレはにっと笑いながらルフカを褒めた。 「おっ、さっそく役に立ってくれたな!ありがとう!」 ルフカは、へへ、と照れくさそうに笑う。そこにナルグの言葉が続いた。 「俺は、二回ほど子どもたちが監禁されているところの様子を窺ったことがある。共通学校の建物に閉じ込められていて、出入り口にはやつらの手の者が見張っているな。だいたい三、四人くらいだ。俺が見たときは、槍使い、弓使い、双刀使いがいた。みな隙のない動きをしていたから、腕に覚えがある連中だろう」 「逆に言えば三、四人しかいない、ということだな。それは助かる」 ヤーレがそう言うと、カジャが大きく頷いた。 「あとから増援が来ていたらわからないが、あいつらはそんなに人数は多くない。俺が最初に見たときには、全部で十五人もいなかったと思う。‥とにかく、あのシンリキシャ‥ハリスと言ったか?あいつに精神操作されて、こっちは俺とナルグしかそれを跳ね除けられなかった。‥元々、操作すればいいと思って大人数で来ていないのかもしれない」 ヤーレはザイダの方をじっと見た。ザイダは顎に指をあてて少し考え込んでいるようだった。その横から、また大柄なシンリキシャが口を出した。 「‥ザイダ、ハリスは様々な人脈を持ってはいるが、子飼いの部下となるとそう数はいないと思う。‥数を増やすなら、今までなら裏請負(ダスル)を頼んでいたと思うが、あいつは今、多分久しぶりに全開で使う自分の能力にかなり信を置いていると見ていい。だから俺は、あいつの子飼いは少ないままだと思う」 ヤーレも言葉を添えた。 「俺もそう思うな。あいつは、かなり自尊心が強いし見栄っ張りだ。自分の能力がしっかり使えるところを、自分の部下に誇示する意味でもシンリキ操作を使いまくっていると思う。‥‥一日にあいつがどれだけ力素の回復ができるのか、それの見当はつかないが‥」 ザイダはヤーレの言葉に頷きながら答えた。 「今までの報告書から言って、あいつが一度に操作をした上限は、六人だと聞いている。‥しかし、‥オクロトでは随分多くの人数が操作されたのだろう?」 そう言って一同は、カジャとナルグの顔を見た。二人は厳しい顔をしていたが、ナルグがふと気づいたように言った。 「‥‥いや、あれは『操作』じゃない‥『制圧』だ。‥相手の精神状態を、とにかく虚無にするものだ。漁師たちは、獲物を持って俺達を追い立てたが‥その周囲にいたハリスの部下に総誘導されてたように思う」 「操作、ではなく誘導‥虚無にする‥」 ザイダがそう呟く。すると、先日斥候に行っていたエンダが口を開いた。 「操作、ではなくて制圧された状態であるなら、‥その支配を消すのは操作されている状態より早いかもしれませんね!」 「‥確かに。あの力素神鐘(りきそしんしょう)の効き目も、八分よりは早いかもしれん」 大型なシンリキシャがそれに応えた。 「肝心のハリスはどこにいるんだ?」 ヤーレの問いに、今度はカジャが答える。 「一度しか探れなかったが‥その時は村長の家にいたようだ。オクロトで一番大きい屋敷だからな。村長たち家族は、漁港の建屋で寝泊まりさせられている」 「強制性交幻覚剤(パルーリア)の生産作業に従事していない大人はいるのか?」 あるレイリキシャが尋ねれば、それにはルフカが答えた。 「みんなの食事を作っている人たちがいるよ!村長の家とツカラクの家で、五人ずつ!その家で作られたものを、みんな順番に食べてる。だから食事の時間もみんなバラバラなんだ、そんなにいっぺんにたくさんは作れないから」 「なるほど‥」 ザイダは色々な情報を得て、頭の中で優先順位をつけていく。そしてそれを口に出してみた。 「‥‥まずは、子どもたちの解放だな。三、四人相手なら二人くらいでも制圧できるだろう。制圧したら、子どもたちの安全のためにも、その二人は子どもたちについていた方がいいな‥ルフカ、子どもたちと俺の隊員、約百人が隠れられそうな場所はあるか?」 問われたルフカは、少し考えてすぐに顔を上げた。 「建物じゃないけど、近くの林の中に大きな木に囲まれた広場があるんだ。10カル(=約90㎝)くらいの柔草がびっしり生えているから、そこにしばらくいられると思う」 「ふむ、」 ザイダは立ち上がって周りを見回した。カジャ、ナルグ、ルフカの三人を除く十一名。シンリキシャは六人、レイリキシャはヤーレを入れて二人、キリキシャとヨーリキシャが各一人、そしてマリキシャであるザイダ。 「ではまず、子どもたちを解放するのは、レイリキシャのアズとヨーリキシャのトスカに頼む。 それから、作業場になっている建屋に行くのは、力素神鐘(りきそしんしょう)を鳴らしてもらうミジェをはじめ、シンリキシャで固める。エンダ、トルカ、ハス、タカエ、の五人だ。村人たちが無事支配下から抜けたことを確認出来たら、さっきルフカが行っていた林の中の広場に向かえ」 「支配下から完全に抜けた、ってどうやって判断する?」 ミジェが尋ねると、ナルグが言った。 「大竜(ワターシュ)の牙の下には何がある?って訊けばいい。「草鷲(ラスサーラ)の巣」と答えれば大丈夫だ」 ザイダはナルグに頷いてみせてから言葉を続けた。 「それから敵の本陣らしき村長の家。ここには俺と、レイリキシャのヤーレ、シンリキシャのピオ、ヨーリキシャのノース。ここは、もう武力勝負だ。最初からゴーグル装着で行く」 呼ばれた三人が頷いてみせる。 「まずは子どもたちの解放ができたら煙色弾をあげてくれ。それを見たら建屋に突入だ。建屋の解放ができれば、また煙色弾をあげてくれ。いずれも成功の場合は赤、失敗の場合は黒をあげろ。子どもたちの解放が失敗したら、一度全員引き上げて子どもたちの方に回る」 「そうならねえように、全力を尽くすよ」 ヨーリキシャのトスカが、そう言って太い腕をドンと叩いてみせた。隣でレイリキシャのアズも頷いている。 「建屋にいる者の解放がならなかったときは、俺達が応援に行く。村人の解放ができれば、俺達四人でハリスのところに乗り込む」 「‥村人の解放ができたら、一人くらいはハリスの方に応援に行った方がいいんじゃねえか?」 そう言ったのは、建屋部隊に指名されたタカエだ。ザイダはそれを聞き、少し考えたあとで頷いた。 「‥じゃあタカエ、お前が来てくれ。ただし、私怨のあまり勝手な行動はするな。指示には従え」 「わかってる」 ザイダはまた少し考えて、ヤーレの方を見た。ヤーレは力強く頷く。それを見てザイダの心は決まった。 「では、この作戦で行く。基本、ハリスの手の者は生け捕りにしようとは思わなくていい。殺す気で行ってくれ。何よりも村人の安全、そしてお前たちの命の安全が優先だ。‥出撃は、明日にしよう」 「待ってくれ」 そう声をかけたのはカジャだった。 「今、漁にも出てねえし、大人は全員なんかの作業させられてるから食品が賄えてない。だからあいつらのうち、二人くらいが三日おきに食料品を大量に買い出しに来るんだ。それが明後日だから、明後日の方がいい。‥そうすれば‥」 今度はナルグがカジャの言葉を引き取った。 「買い出しに来たやつらは、俺と仲間たちでふんじばっておく」 ザイダは少し笑顔を見せてから言った。 「それはいい情報だな‥では、明後日の未明にここを発ってオクロトに向かう。それまでに馬の手配もしておこう」

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