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第171話

ケイレンは裸のまま、ジュセルの身体を抱きしめた。薄い単衣(ひとえ)しか着ていないジュセルにじわりとケイレンの体温が伝わってくる。少しずつ水が滲みてくるのにも構わず、ジュセルもぎゅっとケイレンの身体に抱きついた。 この美しく、愛に溢れたヒトが自分のことを好きだなんて、今でも冗談みたいな気がする。ある朝目覚めて「お前誰だ?」とケイレンに不審そうに見られても、自分はああやっぱりなと受け入れてしまいそうだ。 だが、現実にはそうではない。ケイレンは、いつでも愛情深くジュセルのことを見つめ、傍にいてくれる。 「‥ちょっと自分に気合い入れてただけ」 「そんなの、ジュセルの身体を痛めてまでやることじゃない」 少し不機嫌そうなケイレンに、なんだかおかしくなってきたジュセルはふふっと笑ってしまった。するとケイレンはジュセルの顎をついと掬い上げ、その唇を吸った。 「んう、」 あまい唾液が、ケイレンの舌を伝って咥内に流し込まれる。まるで媚薬でも飲まされたかのように、頭がくらくらとしてきた。 そんなジュセルを愛おしそうに身体全体で抱きしめながら、ケイレンは舌先で恋人の上顎をくすぐった。ねろっと敏感なところを擦られて、ゾクゾクとした快楽がジュセルの股間から脊髄を走り抜けた。 「あ、んう」 全く水が拭き取られていない、びしょ濡れの身体のままケイレンはジュセルを抱きしめる手を離さない。そしてその唇を首筋に這わせ、ちろりと舌を出して柔い刺激を与えた。 「んあっ、ケイレン、ちょ」 「ジュセル」 ケイレンは何か言おうとしたジュセルの唇を塞ぐように、また深い口づけをしてきた。そうしながら、不埒な手がするりとジュセルの上衣から入り込んで、ジュセルの柔らかな胸を弄んでいく。 きゅっと掌全体で軽く揉まれた後、指の腹で小さな粒をすりすりと擦る。乳首が最近弱いジュセルは知らず「ああっ!」と艶っぽい声が出てしまった。 「‥しよう、ジュセル。いっぱい抱いてあげるよ」 「んん、む、だってまだ、昼前‥あっ」 今度はケイレンの手が下衣の中に潜り込む。そうして下着の中で少し顔を出していたジュセルの滑らかな亀頭を優しく撫で上げた。 「んああ!」 直接的な刺激でまたも口から飛び出した喘ぎ声に、ジュセルはぱっと口を自分の手でふさいだ。ケイレンは艶めかしい笑みを浮かべながら、そっとその手を取って口から離すとそのままじりじりと寝台の方へ移動させていく。 寝台の布団を膝裏に感じた途端、ジュセルはそのままころりとその上へ転がされた。上から覆いかぶさってくるケイレンに、必死になって両腕をその胸に突っ張って止めようとする。 「や、やだってば!昼前だしアミリいるし!」 「ここの物音は下にも廊下にも聞こえない。防音しっかりしてるし」 「あ、そうなんだ‥‥じゃなくて!俺の気分的に嫌なんだって!」 ジュセルの強い言葉に、ケイレンはしょんぼりとした表情になった。ジュセルを腕の中から少し解放して、その頬を名残惜しそうに撫でている。 「‥だって、昨日もその前も、だめだって言ったから、してない」 恨めしそうにこちらの顔を見つめてくるケイレンに、ジュセルはうっと言葉に詰まる。 確かに、アミリと一つ実(ふたご)達をこの屋敷に迎え入れてからは、なんとなく気が引けてケイレンとの夜の睦み合いを避けていた。こちらの世界(トワ)では、性交に対してそこまで忌避感も羞恥もないので、(シンシャ)の性交場面を見ることなど珍しくもない。また、きょうだい間で伴侶になることもあるため、きょうだいの中で性交が行われることもある。 ジュセルの下子(きょうだい)であるサンカとリーエンも、今のところではあるが、いつか伴侶になりたいという希望を持っているようだ。まだ幼いので、性交を伴うような行為はしていないようだが、仲良く二人で口づけあっているところなどは何度も見たことがある。初めて見たときには、きょうだいで何をしているんだ!?と混乱したものだ。慌ててアミリに相談したら、不思議そうな顔をされたのを覚えている。 きょうだいと言ってもこちらでは「血の繋がり」という概念がないので、お互いに恋情を抱くのはそこまでおかしくない、というのがこの世界(トワ)では当たり前の常識なのだ。禁忌とされるのは親子間での恋情くらいである。 まあ、そのくらいこの世界(トワ)では、性に関することに対しての忌避感がないのだ。そこにもジュセルは、なかなか慣れることができていなかった。だからこそ、アミリやサンカ、リーエンが同じ屋根の下にいると思えば、なかなかケイレンと睦み合う気にもなれなかったのである。 しかし、この世界(トワ)の人間であるケイレンにしてみれば、それは睦み合いを拒絶する理由にはならない。自分だけの感覚なのだということは、ジュセルにもわかっている。 そういったことから、今出てきたケイレンの不満に対して、咄嗟に何も言葉が出なかったのだ。 「‥え―と‥あの、とりあえずごめん」 口ごもりながらジュセルは謝った。自分がケイレンに我慢を強いているということは理解できているつもりでいた。 だが、そのケイレンがどのような気持ちで我慢をしていたのかまでは、思いやれていなかったのだ、と心の裡で反省していた。 ケイレンは、ジュセルの言葉を聞いて顔を上げ、じっと見つめてきた。 「ジュセルに、謝ってほしいわけじゃない」 「あ、うん‥」 「何に、落ち込んでたんだ?」 「‥へっ?」 ジュセルは驚いてケイレンの顔を改めて見た。てっきり、性交を断られて今はしょげているのかと思っていたのだが。 「‥最近、夜の睦み合いもあまりしてないし、なんかジュセルが考え込んでるのかなって思ってた。今も、すごく元気がなさそうだったから、‥抱き合えば少しは不安が解消されるかと考えたんだが‥」 ‥自分の欲望だけで言ってたんじゃなかったんだ。そう思えば急に、ジュセルは恥ずかしく、また情けなくなった。 自分は自分のことしか考えていないのに、ケイレンはいつも俺のことを考えていてくれる。 こんなに想ってくれるヒトに、俺は応えるべきなんだ、きっと。 『魂のカベワタリ』という、突拍子もないジュセルの出自を、何を言うでもなく全て受け止めてくれたケイレン。 その、‥まあちょっと行き過ぎのきらいはなくもないが、その大きな愛情に、自分も誠意をもって応えるべきだ、とジュセルは思った。 「‥うん、ごめんな。‥あの、薬草茶の販売方法、というか製品にするにあたって、材料を見に街に行きたかったんだけど‥今の俺の状況じゃ難しいってことを思い出して、少し落ち込んでただけ。‥ケイレンは何も悪くないし‥あの‥夜、も、‥我慢してくれててありがと‥」 「そんなの、全然構わ‥ない、ことも、ないけど‥でも俺はジュセルのためなら何でもできるよ」 寝台の上に寝転がったまま、ケイレンはまたジュセルをぎゅっと抱きしめた。ケイレンのたくましい腕の中に抱かれると、何も怖いものなどないような気さえしてくる。 (‥‥いつの間にか、‥俺、すっかりケイレンのことが好きになってるんだよなあ‥) 改めてそう思うと、また恥ずかしさが増してきてついケイレンの胸に額をぐりぐりと擦りつけた。 珍しいジュセルの行動に、ケイレンは目尻を下げてその頭に口づけを落とす。 「買い物は後で‥ンンッ、明日、行こうか?」 ジュセルはバッと顔をあげた。 「え、ケイレンが連れてってくれるの?!‥いいのか?!」 喜色満面のジュセルの顔を見て、満足そうにその頭を撫でながらケイレンは頷いた。 「ん、夜にはナジェルが帰ってくるし‥念のため、サイリとナジェルも誘って四人で行こう。ジュセルはこのところ、ほとんどこの屋敷から外に出てないし‥一応ゴーグルも持っていけば大丈夫だろ?」 ジュセルはぎゅっとケイレンの身体に自分から抱きついた。 「ありがとうケイレン!色々自分で見たかったから嬉しい‥!ナジェルたちの負担にならなきゃいいけど‥」 「ジュセルは色々他人の都合とか考え過ぎだ。ナジェルなんてジュセルの料理一番食ってると言っても過言じゃないんだから、せいぜいこき使ってやりゃいいんだ」 ジュセルの頭を撫でながら、不機嫌そうに眉を寄せてそう言うケイレンに、ジュセルは思わずくくっと笑った。 そのジュセルの唇をいきなりケイレンの唇が塞ぐ。 「ふ、う」 咥内を厚い舌でかき回されながら、素早く下衣を脱がされたのに気づく。 「んむ、ケイ」 ちゅ、ちゅっと唇や舌を吸うように愛撫しながら、ケイレンはぎらぎらとした目でジュセルを見つめた。 「だから‥今日は、仲よくしような‥?」 そう言うや否やきゅっと亀頭の先をつままれ撫でられて、ジュセルは「ひあ!」と嬌声をあげてしまい、また口を塞ごうとした。 しかしその手はがっちりとケイレンに押さえられ、口は違うもので満たされた。

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