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第177話 ティルガのいのちの始末

思ったよりも早く、色々なことに片がついた。普段、自分の都合は考えずに色々なところに便宜を図って仕事をしていたことが、今回はいい方向に向いた。 最後にカズリエに頼まれた件だけが少々厄介で手間がかかったが、それもどうにか終えられた。もう、他に残っている依頼はない。いや、本当は次のことも頼まれそうになったのだが、「他の件でしばらく忙しいから」と全ての依頼者に言って断った。大陸をまたにかけて仕事をしていることもあってこういった嘘が相手にバレずに済むというのも、今回都合がよかった。 ティルガはようやく、といった気持ちでケイレンの屋敷に戻ったのだった。 昨日からジュセルが気を遣って、ティルガの好きなものばかり作ってくれたのは嬉しかったが、それに対してケイレンが拗ねているのは面倒くさかった。が、面白かった。‥あの、いつも仏頂面でろくにヒトと話をすることもせず、黙々と荒事に突っ込んでいっていた『黒剣』が、こうも変わるものかと微笑ましくなった。他の面々には「うっとうしい」「気持ち悪い」とさんざんに罵られていたが。 薄い縁ではあったが、ティルガはこの屋敷にいる人々が皆好きだった。アニスは言うに及ばず我が子のようにかわいいが、他の面々もそれぞれ個性があって好ましく思えた。特に同じキリキシャということもあり、健気で何事にも一生懸命なジュセルには幸せになってもらいたい、と思った。自分ほどまではないが、きっとこの先、持っているちからによって苦労するだろう、と考えられたからだ。 しかし、これほどまでにジュセルに執着‥‥愛情を注いでいるケイレンがいるのならば、きっと心配するほどのこともあるまい、とティルガは自分を納得させた。 ジュセルから渡された、カラ葉でしっかりと包まれたパウンドケーキを足鞄にしまう。いつ、食べようか。せっかく作って渡してくれたんだから、死ぬ前に食べた方がいいよな、と思う。 しかし、今から龍人(タツト)に指定された座標に転移すれば、もうそこでティルガのいのちは尽きるのだから、食べる暇はない。 ここは、シンカンの森の奥深く。どこかに転移をするとき、痕跡を探られないようにいつもティルガが使っている中継地点だ。少しだけひらけていて、野獣の水飲み場になっているような場所だった。無論、転移するときにはここの様子を探ってからするので、野獣に遭遇したことはほとんどない。 何となく、水場の傍の草地に座り込んだ。綺麗な水も湧いているし、ここで食べてから行こうか。 そう思って、木筒(タプケ)に水場からたっぷりと水を汲む。ここの水は、煮沸せずとも飲めるほどの清涼さで、ティルガのお気に入りだった。 そして足鞄からパウンドケーキを取り出そうとして、ふとその手を止めた。 ハルタカと、一緒に食べたい。 最期だから、それくらいの願いを聞いてもらっても構わないのではないか。 ジュセルからは、新商品の「ティーバッグ」も少しもらっていた。これで、一緒にお茶を飲んでもらおう。 そして、美味しいものを食べた後に、殺してもらえばいい。 ティルガの心は凪いでいた。全てのことを諦め、何にも未練はなかった。アニスもロザイという伴侶を得てそのうち幸せになるだろうし、まだハリスは捕まっていないが、警邏隊も国軍も、|請負人《カッスル》たちも優秀だ。きっとそんなに日が経たないうちにけりがつくに違いない。 心置きなく、命を終えられると思っていた。 しかも、その最期の始末をつけてくれるのは、何十年とその面影を恋しく追っていたハルタカなのだ。 ちらりと番いであるマヒロの姿が心の隅をよぎったが、この一日、数時間くらいはあのヒトを譲ってくれ、と心の裡で謝った。 そして、指定された座標へ飛んだ。 飛んだ先は、随分と高い山の頂上に近いところらしかった。びゅうびゅうと強い風が吹きつけてくるし空気も薄い。ティルガは外套を固く自分に巻き付けて空気の層を自分の周りに張って温度を調節した。辺りを見回しても、雲に包まれていてよく全体が見えない。本当に人里から遠く離れた山の上なのだろう、と思った。 ちょっと、お茶をする雰囲気ではないかな。 ティルガは少し、後悔した。見える限りには植物も生えてはおらず、平地になっているところはごく狭い。広く見積もっても直径で二カート(=約18m)あるかどうか、というほどだった。ここでお茶を淹れて菓子を食べよう、という雰囲気に持っていくのは難しいだろう。 さて、どうしたものか、と足鞄から取り出したパウンドケーキの包みを手にしていると、ヒュオッと空気が揺らいだのがわかった。 そちらへ目を向けると、厚い毛皮の外套に身を包んだハルタカの姿があった。 「‥ハルタカ様」 「待たせたか。‥もう、いいのか」 それは、世間での役割はすべて終えたのか、という確認だと悟ったティルガは、軽く頷きながらも困ったように眉を下げた。 「‥ジュセルが菓子を持たせてくれたので‥ここで最期にハルタカ様とお茶でもしようかと思っていたのですが、無理そうですね」 ハルタカは、ティルガの手元に目をやってふむと頷いた。 「ここは強い風が吹きすさび、滅多にそれが止まぬ地だからな。少し待て」 ハルタカは辺りを見回した。岩肌ばかりが見える山の頂上あたり、平らな場所はほとんどなく、あってもやや傾いている。顎に手を当てて、ふむ、と一度頷いた後、ハルタカの手が降られた。 すると、すうっと風の音が遠くなり、ティルガとハルタカの周りだけふんわりと空気が温かくなるのを感じた。そして小さく粗末な机が一つ、これまた粗末な床几が三つ、その空間にどこからともなく現れて、置かれた。 「お前のキリキの大きさが計り知れぬのでな。確実に受け止めるために、もう一人|龍人《タツト》を呼んでいるのだが、まだ来ていないようだ。‥ここでなら、茶も淹れられよう」 確かに、と風も止んだ周囲の空間を見回しながらティルガは頷き、用意された床几に腰かけた。地面が少し傾いているので、座るのに少しコツがいる。 「では、もうお一人の龍人(タツト)様の分は、いらしてから淹れるとしましょう。ジュセルの考えたお茶なんです」 そう言いながら、ティルガは足鞄から革でできた折り畳み式のカップを三つ出した。大きさはそれぞれ違うが、この際我慢してもらうことにする。 ジュセルのティーバッグを取り出し、それぞれのカップに入れる。木筒(タプケ)から二つのカップに水を注ぎ、小さな沸騰石の欠片をその中に落とした。 ぶくぶく、という音がしてあっという間に水が湯に変じる。そして茶葉の香りが漂ってきた。茶の色を見て、ティーバッグを引き上げ、革布巾の上に置く。 ハルタカはじっとその様子を眺めていた。カップを目の前に置かれ、カラ葉を剥がし切り分けられたパウンドケーキをじかにティルガから渡される。 「わざわざあの子が焼いて持たせてくれたので‥最期に、あなたと食べたかった」 変わった方式で淹れられた茶を、ハルタカはゆっくりと飲んだ。僅かにその眉が上がったように見えたが、もうティルガが気にすることでもあるまい。パクリ、と口の中に入れたパウンドケーキからは、濃厚なラッカ蜜の甘さが広がった。合間に茶を飲めば、少し癖のあるその味が口の中をさっぱりとさせてくれる。 「‥うまいな」 「ええ。あの子の料理は何もかも美味しくて。‥‥色々、楽しませてもらいました」 そう答えながら、最後の欠片を口の中に放り込んだ。じゅわっと広がる濃厚なラッカ蜜の味を心ゆくまで堪能して、残っていたお茶を全て飲んだ。 ふと、ハルタカの方を見れば、とっくに飲み食いを終わっていたらしく、何も残されてはいなかった。 空になった革カップが二つに、まだ湯がさされていない革製のカップと、三分の一だけ残ったパウンドケーキだけが、粗末な机の上に残されている。 「‥お連れ様は、遅いようですね」 「そんなに早く、死にたいのか」 ハルタカに切り返すように言われ、ティルガは戸惑った。なぜかハルタカが苛々しているように思える。それがなぜなのか、さっぱりわからなかった。 「早く死にたい、というか‥まあ、お手を煩わせるのも申し訳ないので‥」 「マヒロに泣かれた」 番いの名を出して、ハルタカはむっすりとそう言った。 今、その名は聞きたくなかった。 しかし、このヒトは龍人(タツト)なのだ。普通の感情の揺らぎを理解できない生き物なのだ。番いが最優先で、番いにしか心を動かさない。そういう生き物なのだ。 それが重々わかっていても、ティルガは辛かった。 「‥なぜ、ですか」 「お前が死にたがっていることを、マヒロは知っている」 「‥‥ハルタカ様が、お話をされたのですか?」 ハルタカはむっすりとした顔のまま、ゆっくりと首を横に振った。 「番いは、相手の念話をも薄く感じることができる。‥あの時の会話を全てマヒロが聞いていたわけではないが、お前が死にたがっていることを理解していた。そして悲しんでいた」 「‥‥そう、ですか‥」 傲慢だ、とティルガは思った。 俺のいのちだ。俺の人生だ。どう終わろうと俺の勝手ではないか。 ハルタカを手に入れているあなたが、そんなことで俺を憐れんで泣くのか。 泣かれたくなどない、という強い苛立ちが凪いでいた筈のティルガの心を揺らした。 「‥だから、ハルタカ様は、俺を殺したくないんですか?」 ティルガが低い声で尋ねた問いに、ハルタカは答えなかった。ティルガは、それを腹立たしく思った。 「嫌でも一度は了承したんですから、しっかり俺を殺してください」 「やらないとは言っていない。もう一人の龍人(タツト)‥‥テンショウがきたらやる」 もう一人の龍人(タツト)はテンショウというらしい。五文字の名は非常に珍しいので、少し驚いた。ティルガはハルタカにあってから、色々な大陸で調べられる限りの龍人(タツト)に関する資料を読み漁っていたので、龍人(タツト)の名もヒトと同じく四字以下だというのは知っていた。 「テンショウ、様‥」 「テンショウは、『カベワタリ』から龍人(タツト)になったもの、らしい。だから名が長い。と言っても、テンショウの齢は既に千年を越しているらしいが」 「千、年‥‥」 たった二百年の齢の残り百年余りの生を、我慢できずに死のうとしている自分は、その龍人(タツト)の目にどう映るのだろうか。 ふと、眼前の小さな机を見た。長命なその龍人(タツト)は、このような茶は飲まないかもしれないな、とぼんやり考えた。 その時、また空気が揺らいだ。ハルタカが張っている結界の中に直接転移したからか、先ほどとは違う空間の揺れだった。 ぶわり、と歪んだ空間から姿を現したのは、ハルタカに勝るとも劣らない立派な体格の美しい龍人(タツト)だった。ただ、ハルタカが真っ直ぐな青銀色の髪をしているのに対し、この龍人(タツト)の髪は緑がかった銀髪で、全体にくるくると癖がついている巻き毛だった。 衣服も、身体に布を何枚も巻き付けたような変わったものを着用している。その龍人(タツト)は完全に姿を現すとゆっくりと目を開けた。 その瞳もハルタカと同じ金色かと思いきや、よくよく見つめればその奥に緑のひらめきが見えた。 その、瞳をよく見ていたティルガの目の前に、ぐぐっと美しいテンショウの顔が迫ってきた。は?と思った瞬間、ガッと肩を強く掴まれる。 「()っ‥」 「す、すまぬ」 思わず声を上げたティルガに気づいたテンショウはパッと手を離した。だがその顔は酷く紅潮し、興奮しているようだった。 それを不審に思ったハルタカが横から声をかけた。 「テンショウ、どうかしたか?その者が、この度いのちを終えたいと言っている者だ」 ハルタカにそう言われて、テンショウはハッとした顔をすると改めてティルガの顔をじっと見つめてきた。なぜ、ここまで顔を注視されるのかの理由がわからず、ティルガは戸惑って助けを求めるようにハルタカの方に視線をやろうとした。 が、その顔をテンショウの大きな両手で挟まれ、ぐいっとテンショウの方に向けられてしまった。その拍子にまた首が痛くなり、「痛っ」と再びティルガが声を上げる。 すると、テンショウはあわあわと焦った様子を見せながら、右手で優しくティルガの首をさすった。 「すまぬ、私としたことが‥二度も痛い目に遭わせるとは‥」 「あ、いえ、大丈夫です‥ので、離していただけますか?」 どうも和やかに茶を楽しもうなどと言い出せる雰囲気ではない。この龍人(タツト)が何に興奮しているのか、ティルガにはさっぱりわからなかった。 テンショウはじっとティルガの顔を見つめると、そのままぎゅうと自分の腕の中に抱き込めてしまった。21カル半(=約196㎝)もあるテンショウの身体の中に、19カルと三分の一(=約174㎝)ほどしかないティルガの身体はすっぽり埋まってしまっている。ハルタカがぎょっとしてその様子を眺めていたが、ハッと何かに気づいたように声をかけた。 「テンショウ、まさか‥」 「そうだ、この者は‥‥私の番いだ」 ティルガの頭の、思考が止まった。 番い? 自分が? ‥‥ハルタカでなく、‥別の龍人(タツト)の? テンショウは愛し気にティルガの身体をぎゅうぎゅうと抱きしめ、その頭に自分の頬を擦りつけている。それを感じながらも、ティルガはいまだに信じられなかった。 いや、信じたくなかった。 番い。龍人(タツト)の番い。あんなになりたいと渇望していたのに。 その相手は、ハルタカではない、別の龍人(タツト)だったなんて。 運命とはかくも残酷なものなのか。 ティルガは、ぐいとテンショウの身体を押して自分から引き離した。さすがに光級請負人(カッスル)なだけあって、ちからの強い龍人(タツト)にも負けてはいない。 しかし、身体を押しのけられたテンショウは非常に不満そうな顔をした。 「私の番い、何が不満だ?ああ、名を教えてくれ、お前の名を呼びたい。そしてこのまま私の住処へ連れて帰りたい」 「‥いえ、私はここで命を終えるつもりで来ましたので」 ティルガの冷たい声が、ハルタカの結界の中に響いた。それを聞いたテンショウの顔が一気に強張った。ハルタカはやりきれなさそうな顔をしてそこに立ったままだ。 テンショウが震える唇を開く。 「‥ハルタカ、この者が、今日、命を終えたいと言っていた、過剰なる力の貯蔵庫(リキオーラク)なのか‥?」 「そうだ」 苦し気な龍人(タツト)二人の会話を聞きながら、ティルガは顔色を変えた。 「‥まさか、俺がこの龍人(タツト)様の番いだからって‥俺のいのちを終えるのに、手を貸していただけないなんてことは、ないですよね?ハルタカ様?!」 二人の龍人(タツト)は、それぞれに苦しそうな顔をしたまま、何も答えない。「ハルタカ様!」ともう一度ティルガが叫ぶと、ようやく、ハルタカが口を開いた。 「‥‥すまぬ。龍人(タツト)にとって、番いがどのようなものなのかを理解している私には‥‥お前のいのちの始末はつけられぬ」 「!?」 土壇場に来ての手のひら返しに、ティルガは憤りのあまり言葉が出なかった。怒りに身体を震わせ、パチパチと雷を弾けさせているティルガのその手を、傷つくのも構わずテンショウはそっと握った。 「我が番いよ、‥悲しいことを言うてくれるな。齢千年を数え、ようやく私はあなたに巡り合えたのだ。この出会いを、ないものにしようとしてくれるな。‥あなたが命を終えたら‥私は狂ってしまうかもしれない」 ティルガは掴まれた手を力いっぱいに振り払った。怒りのあまり涙がこみあげてくる。ボロボロと涙を流しながら、ティルガは感情のままに叫んだ。 「ふざけるな!約束は守れ!俺はもう、命を終えるつもりですべての仕度を済ませてきたんだ!それを‥あなた方の都合で有耶無耶にされたくはない!」 溢れ出るティルガの不安定な感情につられて、身体の周りをバチバチと電流が奔る。無自覚に放たれた雷撃はティルガの身体をも傷つけ、出血を伴っていた。それを見たテンショウが顔を真っ青にして必死にティルガの身体を抱きとめる。小さな雷撃は容赦なくテンショウの身体をも抉る。ぱち、ぱちと音がして、テンショウの身体から緑銀色の鱗が飛び散った。 「番い、私の番い、自分を傷つけないでくれ、お願いだ。頼むから」 「うるさい!‥‥俺は、俺はもう死ぬんだ!そう決めたんだ!!」 「捨てるいのちなら私にその命をおくれ、我が番いよ」 ティルガはぼろぼろと涙を零し続ける。 なぜ。なぜ自分だけが、人並みの幸せをも得られないのか。 死ぬことさえも、易くはできないのか。 このいのちでさえも自分の思うようにできないのか。 いや、ここにはヒトはいない。 全てのちからを解き放ってしまえば。 全ての力素を出し切ってしまえば、死ねるはずだ。 ティルガは、持てる自分の力素を全て放出しようと、今までで一番大きな雷撃を出した。 「連れて行くのか」 「私の、番いだからな。‥この者の名を、お前は知っているか?ハルタカ」 そうテンショウに尋ねられ、ハルタカはしばし考える。 「‥確か、仲間にティルガ、と呼ばれていた気がする」 「ティルガ。‥ティルガか。いつか目覚めたなら、私の名を呼んでくれるだろうか」 残った片腕で愛おしそうにティルガの身体を抱きかかえるテンショウを見て、ハルタカは何とも言えぬ顔をした。 過剰なる力の貯蔵庫(リキオーラク)の暴走は、さすがの龍人(タツト)でさえも全てを抑えきることはできなかった。 間近でティルガを抱きかかえその暴走をもろにその身に受けたテンショウは、左の足と腕を失った。龍人(タツト)の身体は強い。時が経てばいつか再生もするだろうが、原因が原因なだけに元通りになるのがいつになるかはわからない。 さらにはハルタカが必死で結界を張り続け、守ったティルガの身体。 それ自体は奇跡的に無傷だったが、その精神は生きることに抗い意識は精神構造の深層へと深く深く潜っていった。 ティルガは今、安らかに深く眠っているような状態だ。 だが、いつ目覚めるかはわからない。目覚める日が来るかもわからない。 それでも、テンショウは嬉しそうに残った片腕でティルガの身体を抱きしめ、頬ずりしている。 「毎日、番いの世話をする。毎日、番いに話しかけよう。いつの日か私の番いが目覚めるまで」 「‥‥そうか」 テンショウはそう言うと、そのままふっと姿を消した。 ハルタカは、消し炭のようになってしまった机や床几の残骸を見た。そこには、黒焦げになった革製のカップの欠片も見えた。 「‥‥何が、お前のために一番、よかったのか‥‥」 ぽつりとつぶやき、それらの残骸を腕の一振りで消すと、ハルタカもそこからふっと姿を消した。 後にはまた、薄い空気を切り裂く風がびゅうびゅうと鳴り響いているだけだった。

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