182 / 191
第180話
*すみません!!またやらかしていました‥何でこんなに何度も重複投稿してしまうんだろう~~本当にすみません!!179話を二回投稿してました!2026年7月16日22時過ぎにこの180話を投稿して、明日7月17日正午に181話を投稿します!!本当~~にすみません!!
ジュセルが警護者の一人に守られて隠し部屋で息をひそめていた頃、戦いは既に始まっていた。
玄関の分厚い扉を破壊して、中に入り込んできた諜報員たちの動きは素早かった。その時には中の警護の者がもう一人、玄関ホールにやってきていた。駆けつけたもう一人の警護者は、表階段の上まで来て投擲刺剣を構えた。
サイリとケイレンは屋敷の裏手からの侵入を、さらには隠し部屋に繋がる厨房までの廊下を警戒して、そこにとどまることが予め取り決めてあったのでここにその姿はない。
無論、全員がゴーグルを装着済みだった。
ここにいる警護者たちは、請負人 の中でも護衛や傭兵など、荒事に特化している腕利きの者達だったのだ。だからこその反応速度だった。
呼び子を吹いた警護者は吹きながらすぐに扉付近から距離を取ったので、爆破による損傷は受けなかった。その代わり、背に負った大剣を抜くのが常より少し遅れた。
白煙立ちのぼる中で素早く屋敷内に侵入してきた諜報員は、イシュラを筆頭に皆片手剣を構えていた。諜報員たちの獲物は片手剣がほとんどだ。片手をあけて、投擲刺剣などを使えるようにしておくからである。
その内の一人が、背から大剣を抜こうと利き腕を上げていた警護者に素早く投擲刺剣を投げた。
咄嗟に警護者は床に転がってそれを避けたが、その際、肩口を投擲刺剣がかすめ僅かに傷を負ってしまった。警護者は舌打ちをしながら大剣を抜きはらい、自分に迫ってきた諜報員に向かって鋭く突き出した。諜報員はひらりと跳躍してそれを避け、真上から片手剣で斬りつけてくる。がきん!と大きな音を立てて大剣がそれを受け止めた。
ぎりぎりと刃同士で押し合いながらも、警護者は立ち上がり体勢を立て直した。
階段上で待ち構えていた警護者は、金髪の人物に向かって投擲刺剣を投げた。襲撃者の中には金髪は一人しかいない。あれがハリスだと目星をつけてのことだったが、横にいたイシュラが素早く片手剣を繰り出しそれを打ち払った。
ハリスは自分に投擲刺剣を向けてきた警護者を、射殺すかのように睨みつけた。だが、警護者の目は灰輝石でできたゴーグルに覆われ、ハリスのシンリキが届かない。
ぎりぎりと奥歯を噛みしめ、ハリスは言った。
「まずはあの目のやつをどうにかしろ!矢で射て壊せ!」
ハリスの指示を聞いて、一番後ろに控えていた諜報員が前に出る。その諜報員は室内でも扱いやすい短弓を携えていた。矢を番え、動き回っている警護者たちに向けてひょうと放つ。しかし、素早い動きをしている警護者にはなかなか当たらない。
苛々した様子でハリスは重ねて指示を出した。
「面倒くさい、とりあえず全員殺してしまえ!ケイレンとキリキシャさえ生きていればいい!」
そこから諜報員六人と警護者二人との死闘が始まった。三倍の人数であり、しかもこういった襲撃に慣れている諜報員たちに、警護者二人は必死に立ち向かった。だが、それでも一人を取り逃がし、屋敷の奥へと侵入を許してしまった。
「くそっ!」
呼び子を吹いた警護者は思わず悪態をついたが、侵入者を追いかけていくだけの余裕もそちらに割ける人数もない。中で待ち構えている筈のケイレンとサイリに任せるしかなかった。
重い大剣を小枝のように軽々と振り回し、諜報員たちの攻撃を躱していた警護者は隙を見てひとりの諜報員の足の腱を狙って斬った。うまく当たってぶちりと腱を断ち切った感触がした。「ぐあああ!」と叫び声を上げながら諜報員が床に転がる。ハリスはそれを見て眉を顰め、舌打ちをした。
「役立たずな」
「‥申し訳ございません。‥下がれキュイザ」
足の腱を断ち切られた諜報員は、床を這いずりながら爆破された入り口の方へと退いていった。やけにあっさりと退かせるのだな、と警護者は訝しんだが、まだ残っている諜報員の武器を躱すのに精いっぱいでそれ以上のことを考えることができなかった。
階段上にいた警護者は、駆け上ってきた手練れの諜報員を相手に苦戦していた。この警護者が一番得意なのは投擲刺剣と鎖分銅なのだ。接近戦にはそこまで強くはない。とはいえ、諜報員を相手によく善戦していた。
それでも、分銅を思い切りふるった時にそれを諜報員の片手剣で巻き取られ、ぐんと引っ張られる。諜報員の方へ体勢が崩れそうになるのを何とか踏ん張って耐えた。だが、その瞬間ぐるりと半身を斜め後ろに返した諜報員が、投擲刺剣を逆手に持ち斬りつけてきた。
「くっ、」
絡め取られていた分銅鎖を捨て、足帯に差していた短剣を二本両手にとると自分も身体をひねる。諜報員の投擲刺剣を、短剣を交差させてガツンと受けた。
しかしその時、諜報員は持っていた片手剣を既に捨てていた。その手にもう一本投擲刺剣を握ると、警護者の身体に力いっぱい突き刺した。
「うぐっ」
右の肩辺りに重く鈍い痛みを感じる。しくじった、と頭の中で歯噛みしながら足を大きく開いてその場に踏ん張り、自分の肩を刺している諜報員の方に向き直って思い切り蹴りを入れた。至近距離にいた諜報員は低く呻いて後ろにふらついた。
その諜報員めがけて左に持っていた短剣を投げる。近距離で投げられた短剣は諜報員の腹に深く刺さった。
そのままどさりと倒れた音を聞きながら階下にまだ控えているだろう諜報員の攻撃を避けるべく床を転がって移動する。そして立ち上がろうとしたとき、くらりと眩暈がした。
「!?」
視界が歪み、頭が重くなる。
(毒‥か‥?)
受けたとするならいつだ、と考えていくうちにも意識が朦朧としてくる。がくり、と足をついた警護者の顔に、また別の諜報員の手がかかった。
気がつけば階段上からの剣戟の音が止んでいる。相討ちにでもなったのか、と考えながら呼び子を吹いた警護者は、幾重にも重なってやってくるような諜報員の片手剣の刃を避けていた。
足の腱を断ち切ったやつの姿は玄関ホール内には見えない。外に避難でもしたのだろうか。今、警護者が相手をしているのは短弓を持っていた諜報員だった。今は短弓を身体に引っ掛け、刀身の薄い片手剣で警護者を攻撃してきている。
ハリスは横にイシュラとツレウェを控えさせ、苛々した様子を隠そうともせずに冷酷な表情で警護者と諜報員たちの戦いを眺めていた。何の感情もみられない、冷たい目つきである。そこで命のやり取りが行われているというのに、ハリスの顔にはそれに関するいかなる感情も浮かんではいなかった。
これはハリスにとってはただただ面倒なこと、でしかなかったのだ。あの忌々しいゴーグルさえなければ、または雇っていた用心棒たちが勝手に隠れ家を空けていなければ、ことはもっと簡単に運んだものを、と考えると、ただただ思う通りに行かなかったことが腹立たしくて堪らないだけだった。
警護者は、ハリスの傍に控えている二人はまだこちらに手を出す様子はない、とみて目の前の相手に集中した。一度身体を真正面に向けてしまったからには、そちらに注意を払うことはできなかった。斬りかかってくる片手剣を躱しながら、警護者は一度下段にひいた大剣を下から鋭く斬りあげた。
「う、ごっ」
胸から鎖骨にかけて斬り裂かれた諜報員は、濁った声を出しながらぐらりと倒れた。肩で荒い呼吸をしながらハリス達の方を向こうとした警護者は、自分の視界が霞んでいるのに気づいた。
(‥!?何か‥毒?いつの間に‥)
そう考えた時に、最初に肩をかすめた投擲刺剣のことを思い出す。‥あれに何らかの毒でも塗られていたのか。掠めただけだったから、身体に回るのが遅くなったのだろう。
そこまで思考した時にはもはや身体にも力が入らなくなり、ザシュ、と床に大剣の刃をついて膝をついた。呼吸がどんどん苦しくなってくる。麻痺系の毒だろうか。
そこまで考えた時にぐらりと視界が天井に回った。あ、と思った時にはすぐ傍に人の足音がして、顔付近に手をかけられた感触がする。
ゴーグルを奪われたのだ、とわかったときには、警護者の意識はもう遠くなっていた。
ともだちにシェアしよう!

