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第181話
*ご注意 昨日、投稿が重複してしまっていたので180話を昨夜10時ごろに更新しています。これは181話です。順番をご確認ください。
何度も間違えてしまってすみません…
*残虐な表現があります!
鳥を飛ばしたのに一向に返事が来ないことに、グンデは焦れていた。グンデは待つのが嫌いだ。気になったことにはすぐに片をつけないと気のすまない質だった。
これ以上、悠長に返事が来るのを待っていられない。グンデはせかせかと出かける準備をした。作りかけの精神操作洗脳性交剤 が入った硝子瓶と、様々な種類の力素抽出器を鞄に詰め込んだ。そして、机の上の物入れにしまってあった小袋を取り出し無造作に手を突っ込むと、じゃらりと硬貨を掴み取った。それをまた雑な手つきで隠しに押し込んで、森番小屋を出る。
いつも都市部の方まで金さえ出せば送ってくれる、馬貸しの村人に声をかけて馬車を出してもらった。
「グンドさん、買い出しかい?街の方まで出なさるなんて珍しいねえ。あんたを狙ってくるものがいるんじゃなかったっけ?気をつけていきなよ」
人の好い馬貸しは、以前グンデが名乗った偽名を呼びながらのんびりとそう言った。グンデが以前に告げた説明を疑うことも知らぬ純朴な村人だった。
「うん、研究に、必要な機材が、どうしてもあってな、グン‥ドは、買いに行かねばならない」
危うく本名を言ってしまいそうになった口を軽く押さえながら、グンデは返事をした。だが、馬貸しはあまり真剣に耳を貸してはいなかったようで「そうかいそうかい、気をつけるこったなあ」と適当な返事をした。
乗り合い機工車が走っているところまで来ると、馬貸しに金を多めに払ってやり馬車を降りた。そして機工車が来るのを待って乗車した。その後も何度か乗り換え、ハリスの現在の隠れ家までやってきた。決められていた合図通りに玄関の扉を叩いて、ヒトが出てくるのを待つ。
しばらくすると、玄関の扉についている覗き窓から見られている気配がして、ようやくきいと軋みながら扉が開いた。
扉を開けてくれたのは、グンデも何度か見たことのあるハリスの世話係だった。いつもびくびくと何かに怯えているような人物だが、その分ヒトの細かな気配に気づきやすいのか、好き嫌いの激しいハリスの要求にもよく応え長く仕えているヒトだった。
「ハリスはいるか?グンデは大事な用がある」
時間を無駄にしたくないグンデは、その世話係の顔を見るなりそう言った。世話係は眉を下げ、困ったような顔をした。
「あの、ハリス様は、今、出かけられておりまして‥」
「出かけた?いないのか?」
「はい」
「どこだ?どこに出かけた?」
世話係はグンデの畳みかけるような質問に、いちいち身体をびくつかせながら答える。
「あの、南アラマサ地区にある、屋敷に‥以前からハリス様が気にかけておられる、あの、そのヒトを連れてこられたい、とのことで‥」
ふむ、とグンデは玄関先で腕組みをして考えた。ハリスが手に入れたい人物の話については、以前に聞いている。なぜなら、今グンデが開発している精神操作洗脳性交剤 は、そのケイレンとかいうマリキシャに使うために欲しいのだ、ということをハリスから聞いていたからだった。
それなら、その場でハリスからシンリキをもらえばすぐにその相手に薬剤を使えていいのではないか?非常に効率のいい話だ!
グンデはそう思いついて、にや~っと笑った。我ながらいい考えだと思ったからだ。すぐに薬剤を完成させられるかもしれないし、その場で使ってみれば、薬剤がどう作用するかもグンデの目で確かめられる。
「世話係!グンデも行くぞ!機工車か馬車で案内をさせてくれ!今からすぐにグンデも行く。ハリスはきっと喜ぶ!間違いないぞ!」
興奮気味にそうまくしたてるグンデの勢いに押されながら、世話係が額の汗を拭って屋敷の中に戻っていった。
遠くで獲物を打ち合っているような音がかすかに聞こえる。屋敷内で残っているのはレイリキシャのカムレとヨーリキシャのサラクだ。特に大剣使いのカムレはかなり腕が立つ。しばらく任せても大丈夫だろうと判断したケイレンは、素早く表玄関以外で屋敷内に侵入できそうな箇所を点検して回った。
ジュセルのことも心配だが、傍についてくれているマリキシャのキャスルも相当な腕利きである。万が一隠し部屋が見つかっても、キャスルなら何とかしてジュセルを逃がしてくれるだろうと思えるヒトだった。
見て回ったところに異常がないことを確認し、玄関ホールの方へ取って返す。何人で襲撃してきたかもわからないが、いずれにせよカムレとサラク二人だけではそのうちきっと手が回らなくなる。点検が終わったらできるだけ早く加勢に行かねばならない。
そう思って二階の通路を玄関ホールの方まで駆け戻ったケイレンは、表階段の踊り場にヒトが二人倒れているのを見た。一人は黒装束に身を包んでいるから侵入者だろう。だがあと一人の髪色は赤だった。
「サラク!」
駆け寄ってサラクの身体の傷を一通り調べてみる。右の肩に投擲刺剣らしきものが刺さっているのが見えた。他にはこれといって目立った傷はない。致命傷とも思えぬ傷に、ケイレンはよくよく投擲刺剣を観察した。薄く、刃の部分に何か塗られた形跡がある。
「毒か‥!」
呼吸の荒いサラクを、通路の隅に引きずって背中を壁に持たせかけてやる。少しでも呼吸がしやすいようにとの配慮だった。
次に倒れている敵の様子もざっと見てみる。こちらは腹部に深々と短剣が刺さっており、出血も相当にある。今すぐに動ける傷ではないだろう、と思ったが、念のため武器になりそうなものは全て遠ざけておいた。
そこまでの処置をするのに二分ほどもかかっただろうか。その場ですっくと立ち上がり、階下に視線を移したケイレンは、目を剥いた。
「な‥何、を‥」
ハリスは今自分が受けた仕打ちが何なのかわからないというような顔をしてどさりと床に倒れ込んだ。床に転がったハリスを見下ろしているのは、警護者たちから奪ったゴーグルを装着しているイシュラとツレウェだった。
二階にいた警護者からゴーグルを回収したのはツレウェであり、二人目の諜報員を切り倒した後、毒が回って昏倒した警護者からゴーグルを奪ったのはイシュラだった。
二人はすぐさまそれを迷いなく装着すると、ハリスの方に向き直るや否やツレウェが片手剣を振り上げハリスの胸を斬り下げたのだ。
とは言えそれは致命傷になるような深いものではなく、筋層を浅く切っただけだった。それでも襲い来る痛みと流れ出る血に驚いた顔をしているハリスに、二人はゆっくりと近づいた。
「まさか、我らに斬られるなどと思ってもいなかったのだろうな」
ツレウェが氷のような声でそう言い放った。顔はいつものように覆面で覆われている上に、今はゴーグルも装着しているため、全く表情は見えない。ハリスは傷から溢れ出る血を必死に手で押さえながら苦し気に言った。
「な、なぜだ、何が不満だ‥!?こんなことをして‥」
「不満‥?」
ツレウェはまた一歩歩みを進めて片手剣を鋭く振るうと、転がっているハリスの太腿を浅く斬り裂いた。「うああ!」とまた悲鳴が上がり、血飛沫を上げながらハリスは無様に転げまわった。ホールの白い床のタイルに、あちこち血が滴ってそれを汚していく。
「不満、とな。笑わせてくれる。お前は自分以外のヒトをヒトとも思っていない。だから、ナーヴを平気で捨て駒にした」
静かにそう告げるツレウェに対し、痛みで混乱しているハリスはみっともなく叫び声を上げた。
「誰だ。知らんぞそんなやつ!私にこんな、ことをして、ただで済むと、思うな!お前らの代わりなぞ」
「幾らでもいる、そうですね」
呼吸も荒く、起き上がろうとしながら憎々しげにそう言葉を吐くハリスに、今度はイシュラが口を開いた。そしてゆらりとハリスの近くへ寄っていき、床に転がっているハリスの傍にしゃがみ込んで、その顔を覗いた。
「知っていますよ。私たちはいつでも捨て駒‥私たちはそういう種類のヒトで、そういった性質の仕事をしていますから‥仕事で死ぬことは、仕方のないことだ」
穏やかにも聞こえるような声でそう言うと、抜く手も見せずシュッ!と片手剣を閃かせた。
「ぎゃあああ!」
ハリスの汚い悲鳴が玄関ホールに響き渡る。その後に離れたところでぴちゃっと何かが落ちた音が二つほど聞こえた。イシュラの片手剣が、ハリスの手指を二本ばかり斬り飛ばしたのだ。あまりの痛みにハリスは喉から声とも言えぬような音を出しながら呻いている。ハリスの周囲のタイルは、もう血まみれになっていた。
「隊長は、きちんと与えられた任務を全うして死んだ。あなたを庇い守ってその命を落とした」
「ああ、がああ」
今度はいつの間にか近づいてきていたツレウェが再び片手剣を振るった。再び、ぴちゃっ!という音がして、斬り飛ばされたハリスの右の耳たぶが床に落ちた。
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