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第185話
*うまく予約ができておらず投稿できていませんでした。すみません‥。
そこでジュセルは、一生懸命に考えたことをぽつぽつと話し始めた。
「あの、俺の資産とか‥ひょっとしたらティーバッグの使用料とかでお金も入るかもしれないし、それで俺の家族を守ってもらうことって、できますか?」
カズリエは、幼くさえ見えるその可愛らしい顔でにっこりと笑った。華が開くような、と言いたくなるような笑顔だった。
「それに加えて、ショレルダ隊商会がゴーグルの発案料を払うと言ってきてるわ。ようやくその存在を大っぴらにできるようになって、色々と商談が進んでるみたいね。なかなかいい売り上げになりそうだから、発案料を払いたいって。これは多分、また何か思いついたら教えてほしいっていう下心もあるとは思うけど‥一応あんたの預取金庫 の口座は教えておいたから、先に支払いがあるかもね。そのうち、正式な契約書も送ってくると思うから、その時は私が責任もってあんたのところに転送するわよ」
また、自分の知らないところで不労所得が増えようとしていることに、ジュセルは驚いてぽかんと口を開けたままになった。カズリエの説明をひとくさり聞いたところで、ハッとなる。
「えっ、でも、素材を思いついたのはアニスとかスルジャだし、製品化したのはその隊商会の職人の方ですよね?俺はただ思いつきを言っただけなのに‥」
カズリエはゆっくりと首を振って笑う。
「その、思いつき、があるかないかで随分と変わってくるのよ。‥まあくれるってもんはもらっときなさい。あたしもあんたに回復薬のことでは相当に無理を言った自覚はあるから、その辺のことは引き受けるわ」
もう一杯お茶を頂戴、とジュセルに催促する。言われてジュセルはもう一度厨房に戻り、少し冷めかかっていた湯をもう一度沸かし直した。
そのまま厨房の丸椅子に座り込んで、ぼんやりと考える。
結局、他国に行くことになってしまう。
そのことが恐ろしいような、逆に楽しみなような複雑な気持ちが心の中で交じり合う。前世は色々と旅行も楽しんでいたジュセルとしては、滅多に遠出する習慣のないこの世界 で外国に行ける、ということだけでも相当にワクワクすることなのだ。
だが、その後ろに、家族の安否であるとか今後の自分やケイレンの行く末であるとか他人に色々な迷惑をかけてのことであるとかが、ちらちらと垣間見えることでどうしても心から喜べないし安心もできないのである。
だが、あれほどにカズリエが心を砕いてくれたことや、ティルガが忙しいさなか自分のために転移紙というものを用意してくれたことを無にするわけにもいかない。
結果的に、自分はカルカロア王国に行かねばならないのだろう。それはもう、動かせないことなのだろう。
あとは、周囲の人々に感謝をして、できうる限りこれ以上ヒトに迷惑をかけないように気をつける、それくらいしか自分にできることはないのだ。
しゅうしゅう、と湯が沸いた音がして、ジュセルは顔を上げた。のろのろとした手つきでお茶を淹れる。
そのまま急須を盆にのせ、カズリエが待っている応接室に運んでいく。軽く扉を叩くと、カズリエが内側から扉を開けてくれた。
「ああ、これはまた違うお茶ね?いい香りがするわ」
「試作品なんです。‥単純に香りだけを追求したお茶を作ってみたいなと思って‥味はちょっと、今のところ二の次にしちゃってるんですけど」
そう言いながら長椅子に座って、カズリエの茶器に新しい茶を注いだ。カズリエはゆっくりとそれをのんだ。
「‥うん、お茶の味は濃くないけど、香りが鼻に抜けてさっぱりするわね。これも売れると思うわよ。‥‥この、お茶のことでも話があるんだけど」
「‥なんか‥‥色々ありますね‥」
やや疲れた様子を見せるジュセルに、カズリエは苦笑した。
「そうね。‥‥よく考えたら、あんたまだ成人して一年も経ってない若者 なのよね。その割に色々なことが起こり過ぎてて、疲れるのも無理ないわ」
優しい口調で諭すようにそう言うと、またカズリエは茶を一口、啜った。茶器をかちゃり、と受け皿に戻して話を続ける。
「でも、悪いわね。さっきも言ったように時間がないの。あたしがここに来れるのは多分今日が最後よ。遅くても明後日までには転移を完了しておいてほしいから、今日、全部説明しておかなきゃならないの」
「いえ、あの、‥すみません、カズリエさんがすごく忙しい方で、大変なのに俺のことまで気にかけてくださってることは、わかってます‥」
しおしおと項垂れてしまったジュセルに、カズリエはふふっと小さく声を上げて笑った。
「いいのよ、あたしはこれが仕事なんだから。‥お茶なんだけど、あれで少し力素が回復することに気づき始めてるヒトが出てきてるらしいのよ。だから、目くらましをしたいの。あんたのお茶の製法 を、請負人協会 に買わせてくれない?量目換算の契約‥つまり、売上高に対してその使用料を払う、ティーバッグと同じ形式ね」
カズリエはそう言うと、また腰袋から小さく折りたたまれた紙を取り出して、机の上に広げた。同じ文言が記されているものが二枚ある。
「急がせて悪いけど、とりあえず今売ってる三種のお茶の製法 を、‥ここ、ここに書いてくれるかしら。なにか書付でも持ってきたいなら待ってるわ」
言われるがままに、お茶の作り方をメモしておいたノートを自室から持ってきて、指示されたところにせっせと書き写す。しかし、ジュセル自身が作らなければこれはただの薬草茶にしかならない。それでいいのだろうか、と内心首をひねりながらジュセルは製法 を書き記していった。
しばらくして全て書き入れ終わると、署名するように言われる。署名をして自分のキリキを流せば、ふわっと紙が一瞬光った。
「じゃあ、これがあんたの分の控えね。無くすんじゃないわよ」
「あ、はい‥でも、あの、これだと力素回復の効果は出ないんですけど‥」
カズリエは、腹黒そうな顔をしてにやりと笑った。
「それでいいのよ。早速今日から作らせてこれを売るわ。その中に、今まで納品してもらってるジュセルのお茶を、たまぁ~~~に混ぜて売るようにするつもり」
悪だくみをしていそうなニヤニヤ顔をしているカズリエの、意図するところがわからない。またもや首をかしげているジュセルに、カズリエは説明した。
「力素の回復は、まぐれ、ってことにしたいわけよ。ごくたまに、あれ、回復するな?くらいに思わせられれば、変に製作者を探られないで済むわ。‥だから半年にいっぺんくらいでいいから、作ったお茶をこっちに卸してくれる?請負人 に取りに行かせるから」
ジュセルは呆気に取られてまじまじとカズリエの顔を見た。
何ということを考えつくのだろうか。
売っていたことをないことにするには無理があるから、どうするのかと思っていたのに、それを逆手に取って売り続けることにするとは。
しかも、製作者から目を逸らすという目的も果たせる。
満足そうにお茶を飲んでいるカズリエを、ジュセルは心から尊敬し、‥‥感謝した。ぐっと身体に力を入れないと、涙が出てきそうだ。
「カズリエさん、あり、ありがとう、ございます」
今にもしゃくりあげそうな様子のジュセルから、カズリエはふいと顔を逸らして横を向いた。
「‥だから、その売り上げもあんたには入るわ。そこからあんたの家族を守る警護料はもらう。心配しなくていいわよ。腕利きを配備しておくから」
そっぽを向いたまま早口にそう言ってお茶をすするカズリエに、ジュセルはもう言葉が出てこなかった。
その日の夜にケイレンとスルジャにも、カルカロアへの亡命の話をした。ケイレンは先にヤーレ伝いに聞いて知っていたようで特に驚いてはいなかったが、スルジャの驚きと嘆きは相当に大きかった。
「なんだよぉぉぉ!あたしだけ置いていっちゃうんだああ!あ~~~っ黒剣の顔、腹立つ!めっちゃ腹立つぅぅぅ!邪魔者がいなくなって嬉しいって書いてあるぅぅ!!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐスルジャを何とかなだめすかそうとするが、スルジャの言う通りケイレンのニヤニヤが止まらないので、なかなか治まらない。
ひとしきり騒いだ後にどうにか落ち着いたスルジャは、ジュセルの作ったハンバーググラタン(この状態を予想したジュセルがスルジャの好物を作っておいた)の三皿目をもりもり口に運びながら文句を言っていた。
「‥ねえ、カルカロアのどの辺に行くの?はああ、ジュセルのご飯とお菓子が食べられないなんて‥ジュセルの顔が見られないなんて悲しすぎるぅぅ」
「‥スルジャお前、本当はジュセルに惚れてるんじゃないだろうな‥?」
スルジャの言葉を聞いたケイレンがまた何やら物騒な気配を放ち始める。ジュセルはそれに気づいて、またはああ、と深いため息をついた。
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