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第186話
*185話を昨日の六時過ぎに投稿しておりますので、順番を確認してください。昨日予約がうまく行っておらずすみません。
「ケイレン、いい加減そうやって色々なヒトに絡むのやめてくれよ恥ずかしいから‥そもそも俺みたいな平凡なやつがモテるわけねえんだからさ‥」
ため息とともにそういうジュセルに向かって、スルジャがぱっと顔を上げた。
「‥ジュセルって、それ本気で言ってんの?」
「本気だから俺も困ってんだよ」
なぜかケイレンがジュセルの代わりにやりきれないような顔をしてそう答える。ジュセルはむっとしながら抗弁した。
「当たり前だろ!俺だって鏡くらい見たことあるんだぞ?どこからどう見ても平凡顔じゃねえか。背も特別高くもねえし筋肉も大してついてねえし‥」
ジュセルは言いながらだんだん暗い気持ちになってきた。何が悲しくて、自分のダメさ具合を必死に説明せねばならないのか。
しかし、そんなジュセルの落ち込み具合とは対照的なのが、ケイレンとスルジャの反応だった。スルジャは今となってはやや同情するような目でケイレンの方を見ている。ケイレンは仕方ないなあ、というような顔でジュセルの頭を優しく撫で続けていた。
「‥あのさあ、黒剣に味方するつもりはないんだけどさ‥ジュセルはもうちょっと、自分をちゃんと評価した方がいいよ、マジで」
スルジャの言葉を聞いて、どうにもわからない、というような不審げな顔をしたジュセルに、肉叉 を置いてスルジャがまた言葉を継いだ。
「まずその髪と目の色!そんな鮮やかで明るい蒼い髪なんてめったにいないよ?それだけでも魅力的なのに、ジュセルはね、かわいいの!かわいいって言われるの、あんまり好きじゃないみたいだけど、かわいいんだよ!顔立ちもかわいいけど、ちょっとした時の仕草とか表情とか、とにかくヒトの心を蕩かすように、全部がかわいいんだよ!!」
ひと息にまくし立てるようにそう言い切ると、スルジャはまた肉叉 を手に取ってハンバーグをつつき始めた。もりもりとスルジャの口の中へ消えていくハンバーグを眺めながら、ジュセルは開いた口が塞がらなかった。
「か‥‥かわ‥」
「うん、ジュセルはかわいい。絶対的にかわいい。モテただろ?共通学校の時とか」
「‥いや、告白されたのは女の子みたいなかわいい子だけだったし‥突っ込みたいとか言われたからびっくりして断っちゃったけど‥」
「オンナノコ?」
「‥突っ込みたい‥?」
聞き慣れない言葉に首を傾げたスルジャを横目に、ケイレンがぐっと身体を乗り出してきた。
「‥‥断った、んだよな?そいつとはもう会ってないんだよな?」
「会ってないよ‥何だよケイレン、狭いって!ぐいぐい押してくるな!」
『んんにかく、ヒュセルは、かあいいにょ!」
もぐもぐと口の中の肉を咀嚼しながらスルジャが追い打ちをかけてきた。
ケイレンがそれに何度も頷きながら、ジュセルの肩をぎゅっと抱き寄せる。
「俺がこれだけ大っぴらに、ジュセルのことを愛してる好きだって言い続けてるのに、ジュセルのこと色々聞いてくるやつが絶えないんだぞ?請負人協会 本部の、受付台の事務員が辟易してるの、知らないだろ?」
「何それ‥」
ジュセルは呆然としてそう答えた。‥‥自分はやはりこの世界 の美醜感覚とは、微妙に捉え方が違うのだろうか?
ケイレンはジュセルの頬にちゅっと音を立てて口づけた。それではっとしたジュセルが、前に座っているスルジャの視線を感じて、ケイレンをぐいと押しのけた。
「だから人前でそういうことするなって言ってるだろ!!」
「‥だってジュセルは俺のもんだって何回でも確認したい」
しおたれながらそう呟くケイレンを、ちょっとだけ心の隅でかわいいなと思いながらふんと顔を逸らした。
その後、ケイレンの屋敷の始末などは後でスルジャがしてくれること、退異師会の方にはしばらくしてからケイレンが手紙を送ること、など色々と話を進めていった。
肝心の行き先は、カルカロア王国でも最北端に近いアツレンという街だった。
「アツレンの近くには、龍人 様の住処もあるらしい。かなりイェライシェンから距離もあるし、サイリの親 がその領の領主をしてるから、色々と便宜を図ってもらえることもあるだろう、とヤーレは言ってたな」
グンデの殺害から、もうサイリはこの屋敷には戻ってこなかった。もともとグンデ殺害が一番の目的でサッカン十二部族国に入国していたから、それが遂行されたらすぐに国元から帰国するようお呼びがかかった、ということらしかった。
その辺りの事情は、二人分の荷物を取りに来たナジェルから聞いた。ナジェルはそう多くもない自分とサイリの荷物をまとめると、「じゃあ、また気が向いたら来るよ」と言ってするりと出ていってしまった。何と言ってもナジェルだとて数少ない一級|請負人《カッスル》なのだ。今までここに滞在してくれていたことの方が、例外だったのだと言える。
「遠い~~~遠いよ‥そうそう会いに行けないじゃん‥」
スルジャはそう言って、グラタンの皿にこびりついたソースの欠片を肉叉 でガシガシと意味もなくこそいでいた。どんどん声が沈んでいくスルジャに、思わずジュセルも優しい声をかける。
「‥俺は、もう戻れないけど‥手紙書くよ。カズリエさんに荷物渡すときに、スルジャ宛のお菓子とかも入れとくからさ」
「‥‥だって‥ジュセルいないんじゃん‥」
「スルジャ‥」
ちからの使い方や回復薬などの生成など手取り足取り教えてくれた。落ち込んだときにはなぐさめてもくれた、陽気な解析師スルジャ。
時には獲物を取ってジュセルの身を守ってもくれた。
毎日笑い合って、いろんな話をした。
そういった日々を思い浮かべれば、ジュセルの目にもまた涙が溢れそうになる。
「‥‥スルジャ、ありがとう。色々教えてもらえて本当に助かったし、楽しかった。スルジャがいたから、落ち込まずに済んだときもあったし‥スルジャのことは、一番の友達だと思ってるから‥」
「ジュセル‥!」
スルジャがすっくと立ち上がり、ジュセルの傍まで来てギュッとそのからだを抱きしめた。珍しくケイレンは何も言わず、横に佇んだままだ。スルジャの腕に抱きしめられたジュセルの耳の横で、しゃくりあげる音が聞こえてくる。
「あ、あたしも、ジュセルのこと‥一番大事な友達だって思ってる‥!絶対、いつか会いに行くから‥!鳥も飛ばす!」
「鳥は高いから、手紙でいいよ‥」
ジュセルとスルジャは、しばらくお互いに鼻をずびずびさせながら抱き合ってすすり泣いていた。
その後、夜遅くケイレンに馬を出してもらってジュセルの実家まで行った。一つ実 たちが寝ている時間に話をした方がいいのではないか、とケイレンが言ったからだ。
アミリは、事情を聞いて目を真っ赤にしていた。それでも、ジュセルの前では涙を零さなかった。
「‥‥いつか‥子どもは親 のもとから巣立っていくものだから‥あたしは大丈夫よ。あんたが無事で、幸せに暮らしているってことさえわかれば‥あたしたちはいいのよ」
「アミリ‥」
ジュセルはまた涙が出そうになるのを必死に堪えた。その横で、ケイレンがごく真面目な顔をしてアミリに言った。
「絶対に、ジュセルを守って幸せにします。誓います」
「‥ありがとう。あなたを信じるわ。ジュセルを‥頼むわね」
「はい。何かあったら請負人協会 の、ヤーレかカズリエを頼ってください。ジュセルに関することでも、暮らしに関することでも何でも構いません。すぐに対応してくれると思います」
そう言い切るケイレンを、ジュセルは驚いて見つめた。いつの間にそんな話をつけていたのだろうか。しかし、警護に関してのことを言わないあたりに、アミリたちに余計な心労をかけさせまいとする気遣いを感じて嬉しくなった。
アミリは「そんな‥」と口ごもってはいたが、とりあえずこくりと頷いてくれた。
「落ち着いたら、手紙を書くから。えっと、請負人協会 伝いの手紙になっちゃうけどね」
|一つ実《ふたご》たち宛てに書いてきた手紙をアミリに託して、長居はせずすぐに実家を出た。
帰路の馬上で静かに涙を流しているジュセルの身体の震えを、ケイレンはずっと感じながら馬を駆った。
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