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第3話 禁断の木の実がたわわに実り……
ところで奈月は、といえば。
床に寝転んで水を替えたばかりの水槽を、ぼんやりと眺めていた。数年前に夜店ですくった十数匹のうちの、生き残った二匹を。
星輝は並んで、しゃがんだ。斑 の入りぐあいがそっくりな二匹が尾びれをなびかせて泳ぐ様子を目で追う。
のんびり暮らせるのと引きかえに、窮屈な場所に閉じ込められっぱなし。それは果たして幸福なのか不幸なのか。
バカバカしい、でっぷり肥 え太って答えは前者に決まっている。
と、奈月がのろのろと上体を起こした。「おかえりなさい」は鼻声、星輝と同じ紅茶色の瞳は潤み、ゴミ箱は丸めたティッシュで一杯だ。
星輝はため息交じりにブルゾンを脱いだ。田中からすげなく切り捨てられる形になってショックを受けたにしても、据え膳はごちそうになるとばかりに、ほいほいホテルについてくるスケベおやじを想って泣くのは涙の無駄づかいだ。
奈月を悲しませる原因を作ったのは確かに星輝だ。それは否定しないが罪悪感とは無縁、むしろせいせいした。
奈月になりすまして標的──イコール害虫を誘惑し、ふたつの意味でハメ終わったあとに自分の正体を明かす。捨て身で攻撃を仕かける、このやり方の威力はなかなかのもので、駆除率は百パーセント。
田中の件は一例にすぎず、奈月の惚れっぽい性格が災いして、暗躍をつづける害虫バスターの出番は多い。
弟の恋路を邪魔するのは野暮、成就するようサポートするのが兄の務め?
冗談じゃない! たとえ想い人が完全無欠のヒーローだろうが、奈月の周りをうろついた時点で万死に値する。危険分子という種は、さっさとほじくり返すに限る。
ただしアフターケアは万全に。腫れぼったい瞼をやさしく撫でて、
「目が赤いな。結膜炎にかかったのか?」
と訊くのは、我ながら白々しい。
「へへ、またフラれちゃった」
泣き笑いにゆがむ顔を両手で挟み。ひょっとこのように唇がせり出すまでへこませる。慰めモードを発動するさいは匙加減が難しい。双子あるあるのシンクロニシティを発揮して、
──僕が失恋したのが、そんなに嬉しい?
本心を見抜かれてしまう可能性、大だ。
「うー、田中店長と一緒に働くの気まずいよ。いまのバイト辞めて、別のとこ探さなきゃ」
「おれがバイトを増やして、おまえの分も稼ぐから心配するな。けど、風呂掃除は任せる」
「留守番する時間が増えるってことじゃない。淋しいよ、やだよ」
膝枕をねだられたら拒めっこない。反面、下腹 と頭が密着する体勢はヤバい。万一、セックスの残り香を嗅ぎ取られたときは言い繕うのに苦労する。
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