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第4話 誘惑に満ちあふれた美しくも残酷な聖域……

 星輝は胡坐(あぐら)をかいたうえにクッションをかぶせた。いそいそと、しなだれかかってこられると甘酸っぱいものが胸を満たす。  それでも、身長も体重もほぼ同じ、しなやかな躰を抱きすくめたくなる衝動を飼い馴らすのにも、慣れた。  いつしか、とっぷりと暮れた。カーテンを閉め忘れていたせいで鏡と化した窓ガラスに、漆喰で塗り固められたように、しっぽりと寄り添う姿が映し出される。  れっきとした成人男性が、しかも見分けがつかないほどよく似たふたりがベタベタする図。ある種、淫靡な雰囲気が漂う光景だろう。  だが、聖沢兄弟にとっては通常のスタイルだ。  ただ、クッション越しとはいえ頭がもぞつくにつれて細かい振動が内奥に伝わる。秘道を暴かれた感触が甦り、星輝は顔をしかめた。 「足がしびれた。かまってちゃんタイムはおしまい」 「傷心の弟をいたわってよ。あと十分、せめて五分、甘やかして」  しがみついて離れないのを、あえて荒っぽく引きはがす。次いでドアを開けるのももどかしく自室に引っ込んだ。  そして早速スマートフォンをいじる。隠しカメラから転送した映像はツッコミどころ満載で嗤いが止まらない。  みすぼらしい胸毛を生やした男が、 『指をがっついて、大きいのが欲しいだろ』  などとベタな科白を吐きながら内壁をこね回すくだりは、グロおかしい。映像をクラウドにも保存した。田中が被害者ヅラして、ごちゃごちゃ言ってきた場合の切り札になる。  もっとも、ねんごろにいたぶって差しあげたムスコがひりひりするたび学習するはず。奈月に獣欲を抱いたら、ひどい目に遭う──と。 「まっ、当然の報いでしょ」  ゆったりとベッドに寝そべった。シーツに奈月の移り香、頭がくらくらした。  一件落着といって、その翌週。キャンパスを貫くイチョウ並木が錦を綾なすなか、星輝は正門寄りの1号館へ向かっていた。  専攻は違うが兄弟は同じ大学の二年生だ。昼休みは学食で落ち合うのが入学したときからの習慣だ。  大学の構内限定でかけている伊達(だて)眼鏡を押しあげた。ふたりが双子だと知らない学生が、AとBの地点に星輝と奈月が同時に存在しているのを超常現象だと早とちりして、ドッペルゲンガーに遭遇した云々、とSNSに投稿する。  その種のエピソードはザラで、眼鏡はいわば周囲への気づかいだ。  日替わり定食のトレイを手に、学食の中を見回す。すると中庭に面した席で、色違いのロンTに包まれた背中にさざ波が走った。

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