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第5話 王子は弟、おれは臣下

 失恋の後遺症とやらで沈んでいたのが一転して、笑いこける様子に産毛が逆立つ。足早にテーブルの間をすり抜けて奈月のもとへ急ぎ、ところが結界が張られているようにピタリと立ち止まった。  ランチタイムに相席を求められるのは毎度のことだ。  に、しても奈月と向かい合ってみそ汁をすする男は異質だ。スーツをすっきりと着こなして勝ち組のオーラを放ち、しかし他学部の准教授だとしても若すぎる。  出入りの業者あたりか?  星輝は肩をそびやかして近づいていった。おれの許可を得ずに奈月に話しかけるとは、こそ泥並みに卑劣だ。 「あっ、セイちゃんだ」  奈月が手を振ってよこす。爛漫の笑顔にほっこりする一方で、胡散臭い男にまで愛嬌を振りまくのはサービス過剰だ、と苛つく。  椅子をくっつけたうえで奈月と並んで腰かけたとたん、朗らかな口調で、 「この男性(ひと)、サークルのOBの野々宮圭祐(ののみやけいすけ)さん。って言っても七つ上の先輩で初対面なんだけど。仕事がらみで教授に用があって母校に来たついでにお昼……なんだって。食券機の列に並んでいるときにしゃべった流れで一緒してた」 「弟が無理やり誘ったみたいで、すみません。こいつ誰にでも、なつく癖があって」  星輝はを強調して後を引き取った。間違っても野々宮、おまえは別格だなんて自惚れるなよ。街中のレストランより割安だからって学食を利用するセコい野郎が。 「ぼっちメシは味気ないからな。奈月くんがつき合ってくれて助かった。そうだ、これ」  あらためて名刺が差し出された。肩書きによると野々宮は世界有数のIT企業の、花形の部署の一員らしい。 「超エリートだよね、セイちゃん。すごいな、尊敬しちゃいます」  と、いった調子で奈月はテンションが高い。講義に出るため学部棟の前で別れたときは迷子のように心細げだった──の、が。  ピンときて、星輝の胸の中にどす黒いものが広がっていった。奈月ときたらちょっと油断した隙に、ひと目惚れという悪い病気が出た。 「サークルの後輩連中から聖沢兄弟の噂は聞いていたんだが、想像以上だ。実物は生命に神秘を感じるまでの激似レベルだ」  野々宮はトンカツを咀嚼するのも忘れて、ふたりをまじまじと見つめた。  田中を始末したのもつかの間、また害虫バスターに出動要請がかかるのか。人使いが荒い、星輝はぼやき交じりにお新香を嚙みくだいた。  もっともをこなすに、やぶさかではないが。

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