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第7話 ひざまずいて甘やかして……

 奈月は恋心を原動力に(星輝的には忌ま忌ましいことに)、サークルのOB経由で野々宮にコンタクトを取り、彼とIDを交換してのけたのだ。  愛しい弟が弄ばれるかも、の非常事態にプライバシーの侵害もへったくれもない。また一卵性双生児にかかれば、顔認証なんか無施錠のドアも同然だ。  奈月のスマートフォンのロックをあっさり突破すると、案の定だ。LINEのトーク画面には、フキダシがずらりと並ぶ。  星輝がバイトに行っている隙に奈月と野々宮は二回も! 内証で! ふたりでお茶したのを境に親密度を増していくやり取りが怒りを増幅してくれるに至っては、金槌をスマートフォンに振り下ろす寸前までいった。  木枯らしが吹きすさぶ、ある夜。パソコンとにらめっこしてレポートをやっつける星輝と並んでコタツに当たりながら、奈月がぽわんとこう言った。 「手ごたえを感じるんだ。今度こそカップル誕生まっしぐら……みたいな?」 「またフラれて泣くのがオチかもな」  告り、告られて野々宮と恋仲になる──なんて未来を思い描いても、お生憎さまだ。兄の権限で断固阻止する、と決めている。  なおも寄りかかってくるのを肘で押しやる。ケチんぼ、と口をとがらせるさまが、封印を解けと、そそのかすようで手許が狂った。  丸々一ページ分の文章を、うっかり消去してしまった。星輝は深呼吸ひとつ、教科書を広げなおした。  なぜだろう、厚みもカーブの描きぐあいも自分のそれと酷似しているにもかかわらず、奈月の唇は美味しそうに見える。 「野々宮さん」と、さえずるのをキスで遮ってみたい。きっと嚙みつかれる、案外、進んで舌をからませてくるかもしれない。  正直、試してみたい気もするが、スキンシップの範疇(はんちゅう)を超える行動に出たせいで奈月に嫌われたら、星輝は生ける(しかばね)と化す。  二匹の金魚が、泳ぎ戯れる水槽を見やる。胎児のころのおれたちは、子宮という(まゆ)にくるまれた中で濃密な時をすごした。  それだけに強い絆で結ばれたふたりの間には、アリの一匹ですら割り込めない。  と、ひよこ色のパーカおよびスモーキーブルーのニットが、ひらついた。 「日曜に着ていくの、どっちがいいと思う?」 「友だちと遊ぶ約束でもしてるのか」  野々宮さんと、はにかんで答えるのに全身の血が沸騰するようだ。 「イベントのチケットが当たった、都合がよければ、って誘ってくれたんだ」 「……何系のイベントだ」 「ニンニクも、がんがん焼きまくる肉フェス」    ふぅんと相槌を打って、 「タレをこぼしても汚れが目立たないやつ」  あえて着古したジップアップを取ってきた。〝デート〟を台無しにしてやるにはイモジャージー一択で、つまり妥協の産物だ。  もっとも肉とニンニクの祭典では、ロマンティックな雰囲気には程遠い。野々宮にしても「補欠で我慢するか」くらいのノリで声をかけたに違いない。

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