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第11話 〝招かれざる客〟はサメの餌が似合いだ。

 雪化粧をした富士山が照り映える、翌日。星輝は奈月に内証で講義をひとつサボった。大学のPCルームにこもって、突貫で作業を進める。  数多(あまた)の冤罪事件が物語る。ひとたび疑いをかけられたが最後、身の潔白を証明するのは至難の業だ。  尾行中に隠し撮りしたの有効活用だ。電車の中で女子高生の背後を占めた野々宮の右手が怪しく蠢く──ふうに見えなくもないよう編集した動画をSNSに投稿した。  もちろん、匂わせのハッシュタグをたくさんつけて。  ゆうべ思いついた策というのは、群集心理を利用するというものだ。いわば時限爆弾を仕かけ終えた。  首尾よくドッカーン! といったあかつきには私刑という名の、お祭り騒ぎを繰り広げるにあたって、特定屋の連中がこぞって野々宮圭祐を丸裸にしてくれる。  前祝いにステーキ定食を奮発しよう、と思いながら、昼休みは奈月と必ずそこで過ごす学食へ向かう。吉兆さながら陽光が燦々と降りそそぐキャンパスを、スキップで横切って。  これもまた毎夜の習慣だ。星輝は風呂あがりの奈月に「おいで、おいで」をした。こたつの傍ら、体育座りにスタンバって、くの字に立てた足に寄りかかるよう促す。  そして、ひと房ずつ手櫛で()きながらドライヤーを当てていった。束によじれた洗い髪が、さらさらと指の間をすべり落ちるまでに乾いてくると、無性に切ない。  栗色がかった髪が平安時代の姫君さながら、ぞろりと長ければ、夜通し触れていられるのに……。  ブローにつづいて耳そうじ、も夜ごとの儀式だ。くすぐったげに身をよじるのを膝頭で押さえつけておいて、綿棒をくりくりと動かす。  ふと3D映画並みの臨場感にあふれて、(みだ)りがわしい場面が像を結んだ。綿棒がペニスに、耳道が花筒に取って代わったところが。  星輝は頭をひと振りした。だが、しつこく腐肉にたかるハエのように、脳は淫らな情景を繰り返し描く。  無意識のうちに舌なめずりをした。禁断の木の実はきっと、喩えようもなく美味だろう。猛りで花芯をうがち、内壁を濃やかにこすってあげたら、奈月はインセストの罪深さに(おのの)くあまり狂い死にするかもしれない。  もしかすると、かわりばんこと称して星輝を組み敷いて返す……。  と、唐突に振り向かれて心臓が跳ねた。 「もしも僕がゾンビに襲われても、セイちゃんは離れていかないよね。ずっと、そばにいてくれるよね」 「ふた言目には『野々宮さあん』のくせして、おれに圧をかけるな。それにゾンビ? 日本人なら日本人らしくゴジラに襲われておけ」  だいたい離れるどころか、鎖でふたりの躰を雁字搦めにしてでも未来永劫、共に()りたいと願う。  あらためて、かつ丹念に反対の耳も綿棒でまさぐる。紅茶色の双眸が挑戦的な光を放つ。  独占欲、執着心、兄弟愛。  それらの要素が、いびつでありながら美しい模様を描き、その結果、ガラスの箱に閉じ込めるようなやり方で奈月を自分につなぎ止めている面は確かにある。  過保護という次元を通り越して愛おしむさまを分類して、ブラザーコンプレックスなんて俗っぽいレッテルを貼る権利は専門家にだってない。 「甘えついでに足の爪も切ってほしいな」  調子に乗るな、と後ろ頭をぺちんと叩いた。それでいて、そよ風がパンジーとなよやかに戯れるさまにも似た、唇がかすめるだけの口づけをツムジに落とす。

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