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『初日』ー3

 カイトと詩雨はこの映画の撮影――いや、撮影はまだなのに配役が本決まりになった途端ハリウッドからすっ飛んで来たのだ――が二十二年振りの再会だ。以前会ったのは彼がほんの子どもの時だと言うのに、詩雨のことを狙っているのだと、遥人には一目でわかった。そして、カイトのほうも、この二人がただならぬ関係だと言うことにすぐに感づいた。奪い取ってやろうという強い意志はないにしろ、隙があったら邪魔してやろうくらいには思っているのだ。  そんな二人の小競り合いの中、扉は静かに(ひら)かれた。  白髪交じりの髪をオールバックに撫でつけた男が立っていた。片眼鏡を掛け、執事服を着ている。  彼は扉の前に並んでいる一行を認めると、片手を胸に当て恭しく頭を下げた。 「ようこそいらっしゃいました」 「一週間お世話になります――桜宮です」 「はい。伺っております――当五島家の執事をしております、柿沼(かきぬま)でございます」  彼は目尻に皺を寄せて微笑んだ。 「これをじいちゃ……いえ、祖父から預かって参りました」  夏生はスイカの箱を柿沼に渡した。 「これはご丁寧に。主人に代わりお礼申し上げます」  彼は受け取りながら夏生の顔を見詰めた。何処か懐かしそうに目を細めている。 「お父上に良く似ていらっしゃる」 「……そうでしょうか」  柿沼の言葉に不思議な感覚を覚えたが、口には出さなかった。  一行はそれぞれ挨拶を済ますと、玄関ホールから応接間に通された。 「んー」  詩雨は応接間に飾られている絵を見ながら呻った。  絵は二枚。二枚とも水彩画で、同じ人物が(えが)かれている。軍服を着た男性だ。一枚目は胸から上の肖像画。二枚目は、桜吹雪の下で振り返る姿――振り返った先に『誰か』がいるのではないかと思わせる眼差し。 「どうしたんです? 詩雨さん」 「この絵の男……なんか、お前に似てないか?」 「え?」  遥人はまじまじと絵の人物の顔を見た。 「そうですか?」  その声にはやや不満げな色が滲んだ。 『誰かに似ている』という言葉は遥人にとっては禁句ワードだ。過去に、詩雨がずっと好きだった相手に似ている、と言われ続けたことがあるからだ。  さっさと絵の前からいなくなると、そんな彼の気持ちを知っている詩雨は首を竦めた。 (まだ気にしてるのか?)  遥人の後を追おうとして。 「あ……」  一瞬――絵の中から、はらりと桜の花びらが舞い落ちたように思えた。絨毯の敷かれた足許を見て、それから絵を振り返る。 (そんなはず、ないか……)  そこにはただ動く筈のない絵があるだけだった。

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