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『初日』ー5

「あーあ」  アルコールを口にしながら三人の攻防を眺めていた夏生が、呆れたような声を漏らした。その夏生の目に執事・柿沼の姿が映った。客人たちの邪魔にならないように裏でパーティーを取り仕切っていた。  二、三気になることがある夏生は彼に近寄った。 「こんばんは」 「桜宮様」  柿沼はにっこりと笑みを返す。 「こちらではよくこんなパーティーを催されるんですか?」 「そうですね。新たなお客様が来られた時などには。あとは夜になると皆様自然とこの大広間に集まってらっしゃいますね」  夏生はふうんと頷いた後、気になったことの一つを然りげ無くぶつけてみた。 「ところで……五島家のご当主はどちらに? ご挨拶をしたいのですが」  執事の笑顔がやや翳った。 「旦那様は普段はこちらにはいらっしゃいません。ここは五島家の別邸ですが、身体の弱いお嬢様の療養の為の館なのです。お嬢様は一度ご結婚されたのですが、身体の弱さを理由に離縁されまして、それ以来こちらに籠もり切りなのです」 「そうなんですか……」  そこまで聞いちゃいないけど、と尋ねたことを後悔した。 「ですから、お客様が来られるのは大変喜ばしいことです。お嬢様の気も晴れると思います」 「そう言って頂けるなら」  夏生は会釈をして、その場を離れた。 (お嬢様ね……そのお嬢様は、いったい何処に……) 「痛っ」  考えごとをしている夏生の背に何かがぶつかってきた。背後で「いたたっ」と声がする。 「リナ」  振り向くとリナが蒼白い顔で立っていた。  よっぽど痛かったのか? と思ったが、どうやらそうではないらしい。顔中に変な汗を掻いている。 「リナ? どうした? 具合悪い?」 「うん……何だかさっきからぞくぞくしちゃって。実はここに来てからずっと」 「疲れでもでたかな?」 「う、うん……」  はっきりしない表情でちらっと賑やかな大広間を見渡す。 「きっと、そうね。先に部屋に戻って休みますね」 「ついてなくて大丈夫?」 「はい、平気です」  弱々しい笑みは到底平気そうに見えなかったが、あまり無理強いをするわけにはいかない。 「酷くなりそうだったら言って。薬でも貰うから」  そう言うしかなかった。 「ありがとうございます」  詩雨とカイトのダンスが拍手喝采を受けていた頃、遥人は両開きの大きな窓から通じるテラスで不貞腐れていた。 「あーなんかくらくらするー」  ダンスの輪から抜ける足取りが危うい。 「お酒飲んだ後だからかな」 「オレ、あっちで休んでるよ」  大きく(ひら)かれた窓のほうを指差す。 「じゃあ、僕も」 「海はいいよ、楽しんで」  ついてくる気満々のカイトにやんわり断りを入れた。 (今はついてこられちゃ困るんだよ――さっき、遥人があそこから出るのが見えたんだよな……)  大きく開かれた窓からテラスへと出ようとして、ふと、その脇にいる一人の女性の姿を捉える。  年の頃は二十前後。桜色の着物を着て、静かに佇んでいた。この喧騒の中、そこだけが違う世界のように見えた。

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