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『初日』ー6

 つい凝視していたら、視線が合ってしまう。逸らすこともできず「こんばんは」と声を掛けた。近くで見たら、桜色の着物には桜の柄が(えが)かれていた。 「こんばんは」  にこりと控えめな笑みを浮かべたその女性(ひと)の顔は目に見えて蒼白い。 「あの……大丈夫ですか? 具合でも悪い?」  そんなふうに口から出てしまうくらいに。 「ああ……」  彼女は溜息にも似た声を漏らした。 「大丈夫です。いつものことなので――それに、わたくし、人を探しておりますの」 「そうなんですか?」 「では……ご機嫌よう」  会釈をすると、ふわふわとした足取りでテラスのほうに出て行った。  なんだか、夢を見ていたような気分になった。 「あ、いけね、オレもあっちに行くんだった」  数秒ぼんやりとしていた後、ハッとしてテラスのほうに足を向けた。  テラスの一番張り出した先端で、手摺に肘をついた男の姿が見えた。大きな背中を丸めてしゅんとしている。叱られてしょぼんとした大型犬みたいに。  詩雨はその背中にぎゅっと抱きついた。 「遥人」 「詩雨さん……」 「ごめんな遥人、断れなくて」  二人が見つめ合うと、自然と顔が近づいて唇が重なり合う――前に。 「あ、ちょっと待って」  遥人は頬を両手で挟まれ、ぐきっと音が鳴りそうな勢いで横に向かされた。 「いたっ。なんですかっ」  詩雨は遥人の不満げな顔も見ずに、きょろきょろと周りを見渡した。 「あれ……いない」 「何?」 「いや、オレより先にこっちに来た人がいたんだけど――でもいない」  不思議そうに首を傾げる。 「おまえ、見なかったか? 桜色の着物を着た女の人」 「さあ。詩雨さんが来る前に人の気配はしませんでしたよ」  夢でも見たような――さっき自分が感じたことを詩雨は思い出した。 「夢……? まさかな。それとも飲み過ぎたかな」  夜中の十二時を回ろうとしていた。  それでもパーティーは終わる気配はなく、今日到着した一行は全員退散した。  詩雨と遥人の部屋は勿論別々に当てがわれていた。しかし、遥人は当然のように詩雨の部屋に帰った。既にもう荷物も運んである。 「詩雨さん、一緒に風呂行きませんか? ここ二階に浴室あるみたいですよ」  詩雨はスマホを持ってベッドに寝そべった。 「あ、ちょっと待って。カマオに連絡するから」 「こんな時間に?」 「ラインだよ」  そう言ってスマホを操作する。そういえば、ここに来てから初めてスマホを見るなと思いながら。しかし、彼は一瞬でスマホをベッドの上に放り投げた。 「なんだ、ここ、圏外だ」 「そうなんですか? まあ山の中だし、そういうこともあるかもですね」 「確か……車の中では大丈夫だったはずだけど……」  と首を傾げる。 「ふーん。じゃあ、明日の朝外に出て、見てみれば?」 「そ、だな」

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