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『2日目』ー4

「――ぅさーん」 「詩雨ちゃーん」  遠くで二人の男が自分の名を呼んでいるのが聞こえた。 「あ、あいつら」  声のする方向に身体の向きを変え、数歩足を運んだ。 「詩雨さん、やっと見つけた。どこ行ってたんだ」  はぁはぁと息を荒げている遥人に、ぎゅっと頭を抱き寄せられた。 「どこって? ずっとおまえらの前を歩いていたけど?」 「何言ってるんだよ、詩雨ちゃん。僕らずっと詩雨ちゃんの後ろを歩いてたんだよ。それなのに急に姿が見えなくなって」 「えー?」 「心配させないでくださいよ。迷子になったかと思いましたよ」 「迷子って……」  遥人の言ったことに笑おうとして失敗する。  ざわざわ。  ざわざわ。  また胸の奥が擽られる。  何か掴めないまま、それを置き去りにして。 「あ、遥人。昨日言ってた……」  沼のほうを振り返る。  しかし、そこには誰もいなかった。勿論、スケッチブックが載ったイーゼルも。  自分を抱き締めている遥人の胸をどんっと押し返し、沼に向かって走っていく。なんだかさっきと距離感も違うようなと感じながら。 「えーーーーーーーーーっっ」  森林に囲まれた静かな沼の畔に、詩雨の叫びが響き渡った。 「し、詩雨さん、いったいどうしたんですっっ?」  遥人とカイトも詩雨のあとを追った。 「今、ここにっ人がっ」  人の形のジェスチャーをしながら一生懸命伝えようとする。 「え? 誰もいなかったよ、ね、ハルくん」  何事もこいつに同意したくないと思うが、こればかりは頷くしかなかった。 「…………」 (きっと彼女は恥ずかしがり屋で、一瞬のうちに片付けて去って行ったんだ)  虚ろな目に沼を映しながら、そう思うことにした。 「ここなんだか……」  沼を見ている――実際には見ているわけでもないのだが――詩雨の顔にちらりと視線をやってから、彼と同じ方向に顔を向ける。 「……『あの写真』の風景に似てますね」 『あの写真』――それは詩雨が過去に撮った、そして初めての個展にひっそりと飾られた写真。かつての『想い人』と『その恋人』が沼の畔で仲睦まじくしている、美しくも辛い光景だった。  詩雨の切なく哀しい心が詰まったその写真を遥人は高校生の時に見た。それは二人の心がしっかりと繋がれるその時まで、ずっと遥人の心にも陰を落としていた。 「ああ、そうだな」  詩雨は余り深く考えずに相槌を打った。 「やっぱり詩雨さんもそう思って……」  遥人は黙り込んだ。 (ん?)  ちらっと遥人の顔を見ると、非常に気難しい顔をしていた。 (また、こいつ何か気にしてるのか?) 「遥人。オレもう何とも思ってないからな!」 「わかってますよっ。俺も全然気にしてませんからっ」  

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