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『2日目』ー5

 いかにも気にしてますっという感じで言い放ち、誰にも取られまいとするようにぎゅっと抱き締めた。  遥人の顔が詩雨の顔に近づいて行き――。 「はいっ、ストップ。僕がいることをお忘れなく」  二人の顔の間に掌を翳した。 「なんだ、いたのか」 「ハルくん、酷いなぁ」 「あ、ごめん、海いたんだ」 「詩雨ちゃんまで!」  あははと笑って誤魔化し、 「そろそろ戻ろうか」  と沼に背を向けようとした。 「あれ?」  目の端に何か――きらりと光るものを捉えた。沼の水際の草に隠れて。詩雨はそこに近寄った。 「あ……指輪」  彼が拾ったのは、シンプルなプラチナの台に小さなダイヤが光る指輪だった。 「結婚指輪かな」  カイトが詩雨の掌に載った指輪を見ながら言う。 「結婚指輪……あの女性(ひと)のかな。今度会ったら返すか」  独り言のように呟いて、パンツのポケットに仕舞った。 * *  日も暮れかかった頃になると、館内にちらほら人影が増えて来た。  食堂、大広間、遊戯室。テラスから見れば、庭にも。  それから――応接間。  一人の男が二枚の人物画の前に立っている。 「こんばんは」  (ひら)かれた扉の前を通りすがろうとした夏生がその男に声を掛けた。 「こんばんは」  男は絵から目を離して夏生を見た。二十代半ばくらいだろうか。 (また軍服?)  恐らく昨夜軍服を着た男と同一人物だろうと思った。 (……近くで見たら、これ、自衛官の制服じゃないよな……これってもしかして……)  映画やドラマで見たことのあるものを思い浮かべた。 (マニアかなー)  その辺のことを訊くのは止めておく。 「この絵の男性、お知り合いですか? なんだか随分と懐かしそうに見ておいででしたので」  すると彼は軍人宜しく、 「小田切(おだぎり)少尉であります。自分は直属の部下であります」  そう、はきはきと答えた。 「え? あ、そうなんですか?」 (うわぁ~何? サバゲーか何か? 関わるんじゃなかったかな)  内心もう去りたい気持ちになる。 「自分は……何かを伝えようと、ここに来たんです……たぶん、そうなんだろうと思います。でも、誰に、何を、か思い出せなくて……この絵を見ていたら思い出せそうな気がして……時々こうして眺めているんです」  更におかしなことを言い始めた。 (よし、もうここを去ろう!) 「そうでしたか……早く思い出せるといいですね」  そう当たり障りのない慰めを言って、そそくさと立ち去った。 * *  夜になりまた騒がしくなって来た大広間を後にして、詩雨と遥人は部屋に戻った。カイトと夏生もそれぞれそんな感じだろう。遥人は勿論自分にあてがわれた部屋ではなく詩雨の部屋へ、風呂を済ませてから戻った。  

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