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『3日目』ー2

 リナは最後まではっきりとは言わない。そこがまたなんとも言えず、もやもやする感じだ。  その場に気不味い空気が流れ、しんと静まり返った。 「――えっと」  この中で一番精神的に大人で、かつ理性的な夏生が雰囲気を変えようと思考を巡らす。その結果出た言葉が、 「そういえば、僕が持ってきたスイカってどうなったのかなぁ」  本当に全くどうでも良いことだった。我ながら駄作だなぁとぽりぽり頭を掻きながら。 「それなら、中庭の井戸で冷やしておりますよ」  答えたのは柿沼だった。 「おはようございます、皆様」 「おはようございます」 (……なんか、毎度、突然出てくるような)  一斉に挨拶をしながら、リナ以外の全員がそう思った。 「持ってまいりましょう。よく冷えて食べ頃かと」  彼がそう言うので、 「あ、じゃあ僕が持ってきますよ――僕らで切ってしまってもいいですか?」 「はい。では、お願い致します」  コの字型になっている二棟の間に中庭はある。しかし、前庭とは違って殆ど手入れがされていないのか周りの森同様下草が生え放題の上、妙に薄暗い。 「あ、あそこにあるよ、井戸――井戸なんて、今時まだ使われているんだねぇ」  何故か一緒についてきたカイトが感心したように言う。 「それにしても、ここだいぶ『雰囲気』あるよね」  カイトが言うところの『雰囲気』の意味を感じ取った夏生が頷く。 「そうだね……早く引き上げて戻ろうか」 「了解!」  早々に立ち去りたかったカイトがいち早く駆け寄った。井戸の柱に縄が括り付けてあるのが目に入った。 「これかな」  片手で引いてみる。 「あれ?」  あとからゆっくり近づく夏生の耳に、カイトの少し驚いたような声が入って来た。 「どうした?」 「これ、スイカだよね?」 「だと思うけど?」 「なんか、やけに重いような」  今度は両手で縄を持ってみる。 「まぁでかいスイカだったから、それなりの重さがあるかとは思うけど」  両手で引っ張ってみても少しずつしか上ってこない。カイトは首を傾げた。 「何か引っ掛かってるのかなぁ?」 「手伝おうか」  内心大袈裟だなぁと思いながらも、カイトの後ろに伸びた縄を一緒に引いてみる。 「確かに、なんか。……スイカ大きくなったかな?」 「そんなわけないでしょ」  二人で引っ張っているとだんだんとスイカの姿が現れて、 「あ、スイカ!」  カイトのテンションが少し上がる。  が。 「え……」  カイトが絶句する。  ――スイカの上にあるはずのないものが。  ――細く蒼白い指。 (え……ええ〜〜)  もう引っ張りたくないと思いながらも手はいうことをきかず、スイカは更に上ってくる。  ――スイカの(ふち)に、『目』が……。  ――髪の長い女の顔が……。  ――恨みがましい表情が……。 「オーマインゴッー!!」  そう叫んで縄を離した。 「おわっ」  途端に全重量が夏生に掛かったが、その時重さはスイカ本来の重さに戻っていた。すかっと軽くなり、夏生は尻もちをついた。  縄の先にはネットに入ったスイカがあり、ごろんと草の上に転がった。 「びっくりした。どうした? カイト」 「今……今……」  彼の身体はぶるぶると震え、唇は戦慄(わなな)いていた。 「冷た〜い。おいし〜」 「生き返る〜」 「さすが、お高いスイカですねー、しゃちょー」  夏生がキッチンを借りてスイカをカットし、皆の前に出した。半分はここにいない客人や『お嬢様』が食べられるように冷蔵庫に残した。

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