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『3日目』ー3

 皆は食べながら口々に言うが、カイトだけは蒼白い顔をして椅子の背凭れにぐったりと寄り掛かっていた。スイカからも視線を外している。 「どうした、海? 食べないのか?」 「え……だって……」  微かに声が震える。 「気の所為だよ、カイト。何かが引っ掛かっていたのを見間違えただけだよ」  あの時理由を聞いていた夏生が宥める。 「な、なにかってなんですかーっっ」  半泣きで叫ぶ。 「なんだ? 何かあった?」  詩雨が尋ねてもカイトは口にもしたくない様子だ。代わりに夏生が答えた。 「幽霊……見たらしいよ。スイカに手を掛けてる女の幽霊」 「そんなわけ、あるか」  カイトに対して一物ある遥人がせせら笑う。 「井戸に幽霊なんて、◯子かよ」 「なんだよ〜◯子って〜」  カイトは日本のホラーは見ないらしい。 「知らないのか――夏生は見たのか?」 「僕は見てないよ」 「じゃあ、あんたの気の所為だな」  素っ気なく言い捨ててスイカにかぶりついた。  普段なら反論するところを、今はどれだけ馬鹿にされても何か言うどころではなかった。 「桜色の着物を着た女の人だって」  夏生がつけ加えた。 「え?」  詩雨と、馬鹿にしていた遥人も少し驚いて顔を見合わせた。  詩雨が見たという桜色の着物とワンピースを着た女。それから、夢の中に出て来た女。何か符号が合致する。 (いやいやいや)  二人とも今のは聞かなかったことにした。 「私……行かなくて良かったわ……」  リナがぽつりと言いながら、それでも高級スイカに(かぶ)りついていた。 * *  夕暮れ時。  そろそろ腹が鳴りそうな時刻、詩雨と遥人は一階の食堂に向かっていた。  詩雨の後ろから歩いていた遥人が、通りすがった応接間の中に人影を見にとめた。扉が開け放たれたままだったのだ。  軍服を着た男の二枚の絵の前に、やはり軍服を着た男が立っていた。到着した日の晩餐で見掛けた男だ。  何がそんなに気になるのか自分でもわからないが、遥人は彼に近づいた。 「こんばんは」  気配を感じてか、男は絵のほうを見たままだが、遥人に挨拶をする。 「こんばんは――お知り合いですか? この男の人」  特に話すことを考えていなかった遥人は、社交辞令的にそう訊ねる。 「小田切少尉であります。自分は彼の直属の部下であります」  前日の同時刻くらいに、やはり彼が夏生と同じ会話をしていたことは勿論遥人は知らない。 (なんだ? 本当に軍人みたいだな)  軍服の男の隣に並ぶ。 「自分は……何か大切な用事があってここに来たはずなんですが、思い出せず……」  男の視線が遥人の顔の上で止まる。 「小田切少……」  驚いたような表情に、遥人はぴんときた。 (そういえば、詩雨さんも俺に似てるとか言ってたな)  こういうことは本人が一番わかりにくいのだろうが、もう一人そう感じる人間がいるのなら、やっぱりそうなのかも知れない。 「俺……似てますか? この人に」 「小田切少尉ではないのですね。そういえば髪の色が」  絵の男の髪は黒だった。 (すぐ気づけよ)  酷くがっかりとした様子だが、遥人ははっきり言い切った。 「すみません、違います」 「そうですか……とても良く似てらっしゃいます――貴方を見ていると……何か思い出せそうな気がします」  じっと見詰められ、酷く気不味い気分になった。 (なんで来たのか忘れるとか、可笑しすぎるだろ。ボケる年齢(とし)でもあるまいし)

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