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『4日目』ー5

 振り返って名前を呼んだが、室内には遥人しかいなかった。 「あ、そうだった、風呂に」  詩雨は一人で浴室に行っていた。部屋を出てからだいぶ経っているので戻って来ているような気になっていた。彼は自分のことにはあまり頓着がなく、普段から一人で入浴させるとカラスの行水のようなものだった。 「え……ちょっと遅くないか……? なんか、嫌な予感しかしない」  遥人は慌てて部屋を飛び出した。   脱衣場の扉の鍵は閉まっていなかった。 「また不用心な」  不平を口にしたが、今回はそのお陰で中に入ることができたので良しとする。  脱衣場の奥に浴室がある。磨りガラスの引き戸で隔てられていた。 「詩雨さん! 詩雨さん!」  ガラス戸にぴったりと顔をつけて声を掛けるが、返事がない。 「開けますよ」  たぶん返事もできない状態なのだろうと予測していた。それでも律儀に声を掛ける。こちらにも鍵はついているが、どうせ、と思い力一杯引いた。思った通り引き戸はなんなく:(ひら)いた。  詩雨は浴槽に()かり、縁のところに頭を乗せたままぐったりとしていた。遥人は駆け寄って、間近で声を掛ける。 「詩雨さん? どうしました? 大丈夫ですか?」  全く反応を示さないので軽く頬を叩いてみたが、どうやら気を失っているようだ。自分が濡れるのも顧みず詩雨を抱き上げた。いったん、脱衣場の床にそっと寝かせてバスタオルで(くる)んでから、そのまま姫抱きにして部屋まで連れ帰った。  バスタオルごとベッドの上にゆっくりと置いた。部屋にも常備されているタオルで身体を拭く。そんなふうにされても詩雨は目覚めない。それでも、鼻に手を翳し、胸を見ればちゃんと通常通り呼吸をしていることがわかる。 「取り敢えず……服、着せるか」  詩雨の荷物の中から洗濯されたトランクスとタンクトップ、それからベッドに放り投げてあるハーフパンツを掴む。  まずは、 「うーん、目の毒ー」  と言いながらトランクスを穿かせる。それから首にタンクトップを突っ込み、背中側の布を引っ張る為に身体を詩雨の上に傾けた。  その途端、何かが遥人の首の後ろに回り、がっちりホールドされてしまった。それは詩雨の両腕でいつもと逆だなぁと驚く。 「詩雨さん、目が」  ――覚めて――そう言おうとした。  しかし、微笑むその顔は、普段の詩雨のものとは違って見えた。 「――旦那様……触れてくださいまし」  声は詩雨。だが言葉遣いは勿論、醸し出す空気感がまるで違う。  遥人は固く絡みついた腕を無理矢理引き剥がした。 (詩雨さんっごめんっ) 

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