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『4日目』ー6

『詩雨の肉体(からだ)』を乱暴に扱ったことを心の中で詫びる。  二人の間に隔たりができた。 「どうしてですか……?」 『詩雨の顔』が哀しみに沈み、涙がほろりと零れる。 「旦那様は……たった一度で身籠ったわたくしにそれ以来触れてはくださらなかった。わたくしの身を案じてだということはよくわかっておりました。子が流れてしまったあとも……。わたくしは大事にされていたのでしょうが、それでも寂しかった。女として愛されてないのではないかと……」  詩雨の口が語る、他の女の想い。 (俺にいったいどうしろってんだ)  恐らく『女』は遥人を圭吾だと思い込んでいて、『圭吾』に触れて欲しいのだろう。 (だが。俺はあんたの旦那じゃねぇんだ) 「どうして、そんなふうに他人のような目で見るのですか? 今なら平気です。この丈夫そうな『女』の肉体を借りれば」  そこで、えっ? と遥人は軽い衝撃を受けた。  ホラーがギャグになった瞬間だ。 「お嬢さん、この人女じゃないぜ」 「え?」 『女』は酷く驚いたようだが、詩雨自身が吃驚しているようで、遥人のほうはだんだん可おかしくなってくる。 「男だよ。さっきの裸見なかったのか?」  笑いを噛み殺しながら言う。 「え……っと。そうですね……そう言えば、わたくしにあるものがなかったし……ないものが……」  いったい何を想像したのか、顔が真っ赤になっている。 「あまりにも、美しい(かた)だったので、女性の方かと。それに、とっても健康そうだし。少し年齢は上のようですが……」 「幽霊(あんた)に言われたくないわっ」  余計な一言には、詩雨の為に言ってやる。 「構いません! 男であろうと女であろうと。旦那様に触れてもらえるなら」 (おいおい。開き直りやがったよ。それに――) 「俺、あんたの旦那じゃないぜ。藤木遙人って言うんだ。あんたの旦那は『けいご』って言うんだろ」  もう少しも怖いとも思わなくなった。人間にそうするように話し掛ける。 『詩雨』の瞳が哀しそうに揺れる。 「旦那様、そのような嘘を……わたくしのこと、お嫌いになったのですね」  詩雨の中の『意識』は遥人の言うことをまるで信じない。 「違うって。だから、そこから出て行けっ」  低く呻る。 「嫌です! 貴方に触れてもらえるまで出て行きません!」  弱々しい『お嬢様』かと思ったら、意外に頑固なところがあるらしい。恨みが積もって変化した可能性もあるが。 (やれやれ……だ)  心の中で溜息を吐き、ある決意をした。 「わかった。そこまで言うなら」 (これは、詩雨さんを取り戻す為だ――しかし、本当にこれで幽霊(あれ)は出て行くのか?)  一抹の後ろめたさと不安が過った。

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