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『5日目 或いは最終日』ー1
* * 五日目 或いは最終日 * *
早朝。
詩雨たちはさっさと身支度を整え、応接間に集まっていた。「お食事を」と提案した柿沼に丁寧に断りを入れた。
「柿沼さん、お世話になりました」
夏生が代表で挨拶をする。
「そうですか……短い間でしたが、淋しくなります。また、ぜひ」
社交辞令かもしれない。しかし。
(ぜひ、とか、絶対ムリ!)
夏生を含め、笑顔の下で全員がそう叫んでいた。
「では」
と応接間を出ようとして、突然。
バンっと大きな音がした。開いていたはずの扉が勝手に閉まったのだ。
バンッバンッ。
開いていた窓も次々と閉まって行く。
ガチャンッガチャンッ。
室内の調度品が飛び交い、壁にぶつかって落ちる。早朝で外が薄暗かった為に灯してあった灯りも一斉に消える。
押し潰されるような空気の重さを皆が肌で感じていた。
「いやっ、何これっ」
リナが叫んでその場に蹲る。
「ポルターガイスト?!」
幾つかの声が重なった。
「……また、何処かへ行ってしまうおつもりなんですか……」
地の底から這うような女の声が室内に響いたかと思うと、長い髪を振り乱した女が宙 に現れた。
ざざっと柿沼以外の全員が後ろに下がる。
「やだっやだっやだーっ」
蹲っていたリナは立ち上がれずに、絨毯を這って移動した。
長い髪も桜色のワンピースもふわふわと揺れている。
「さ、桜乃様……」
柿沼も桜乃の姿を見て驚いてはいるようだが、表情は余り変わらない。執事の鑑のような男だ。
桜乃は、遥人の間近までやって来て見下ろしている。皆は無情にも遥人だけ残してまた一、二歩下がった。
「俺は圭吾じゃないって言ってるだろ」
「またそんな嘘を。とうとう縁談が決まったのですね。わたくしを捨てて、他の女と」
更に鬼気迫る表情に変わっていく。
「許さないっ」
「こわっ」
掴み掛かってこようとするのを遥人は避けた。柿沼の話を聞いた限りでは、元々大人しくて、弱々しい女性のようなのに、恨みがここまで人を変えるのかと恐ろしくはなった。しかし、昨夜も遭遇している遥人はもう既に彼女と話をすることに慣れてしまったようだ。
「何度も言うが、俺は藤名遥人。あんたの元旦那じゃねぇ」
こちらも負けじと、歯を剥く。
女が少したじろぐ。彼女の視線が遥人の後方にいる詩雨に移った。
「え……?」
詩雨のほうもそれを感じてびびる。
「私が丈夫だったら良いのですね。だったら――この、おん……じゃない、男の肉体 に入ればいいだけ」
「おん……?」
びびりながらも女が何を言おうとしたのか気になってしまう。が、完全にロックオンされているのに気づいて慌てて目の前で手を振った。
「いやいや、それはよくないだろう」
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