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『5日目 或いは最終日』ー3

「旦那様……」  桜乃は栞に縋りつくようにして泣き崩れた。 「他の女のところへ行ったのではないのですね。わたくしの許に帰って来てくれようとしていた」 「はい。それは戦地への道すがら少尉が書かれていたものでした。きっと貴女の許に帰れるようにと願って」 「さくらの……」    天から声が降ってきた。  それから、桜乃の前の空間がパァーっと光輝く。 「えーっっ。またなんか来たよぉ」  カイトが半泣きで言う。  光は徐々に薄れ、その中に軍服を着た『遥人』が立っていた。但し、髪の色は黒だ。 「旦那様……」  遥人と同じくらい背の高い男だ。桜乃が男の顔を見上げる。 「桜乃……やっと会うことができたね」 「旦那様!」  男が差し出した両の手の上に桜乃が手を乗せる。 「お前が私を信じてくれたから」  見つめ合い両手をぎゅっと握り合った。 (えー? 俺似てるかなー? 言うほど似てないよなー) 「ねぇ、詩雨さ……って、おいっ」  詩雨に尋ねてみようとそちらを見てみれば――カメラを構えていた。 (この状況でカメラかーいっ)  そう心の中で突っ込みを入れる。  光がまた徐々に拡がり二人の姿を隠し、その光が消えた時には二人の姿はもうなかった。  いつの間にか『部下』とかいう男の姿もなかった。  カメラを構えたまま、二人がいたはずの空間を見つめている詩雨。それを見ている遥人。怖がっていいのか、感動していいのかわからなくなっているリナ、カイト、夏生。完全に感動して涙を滝のように流している柿沼。  彼らだけが、散らかった室内に残っていた。  柿沼に再度挨拶をして館を出た。  薄暗い早朝の出発の予定が、もう既に陽は昇っていた。門を出て外側にある駐車場へと向かう。皆どっと疲れを感じ、無言だった。  全員が車に乗り込むと、詩雨はエンジンをかけた。 「あれ? 電波立ってる」  スマホを確認した詩雨が軽く驚きの声を上げる。皆それぞれ自分のスマホを確認した。 「やっぱここは使えるのか……って。どひゃ~めっちゃカマオから連絡入ってるじゃん」 「あ、僕にも鎌田氏からきてるよ」  と夏生。 「あ、じいちゃんからもだ」  詩雨が鎌田に連絡をすると、向こうから甲高い声が響いてきた。 「詩雨ちゃーん。どうして来ないのよぉ。みんなどこいっちゃってんのよっ」 「え? オレたち今まで指定された『五島』邸にいたよ。カマオ、じゃない、鎌田さんこそ全然現れないじゃん」

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