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妖の世界

 目を覚ますと見知らぬ天井があった。  神社にいたはずなのに、ここは、どこだろう?   戸惑いつつベッドから身を起こす。  まるで高級ホテルや病院のVIPルームみたいだ。  ヤクザに捕まったら、こんないい待遇は受けないはずだけど――研修をすっ飛ばして、初出勤でラブホのベッドに寝かされていた可能性もある。  僕は出入り口のドアへ駆け寄り、ドアノブを回した。  外から(かぎ)がかかっているのか、びくともしない。後ろへ下がり、助走をつけて体当たりをしても肩を痛めるだけだった。  こうなったら一か八かだ。窓から逃げよう。  大怪我をしたり、命を落としても構うもんか。  運がよければ有能な刑事が、性的搾取のために監禁されたオメガが逃亡をはかって死んだと気づく。  メディアで取り上げられれば、ヤクザや家族に一矢報いられるんだ。  机の上にあるメモ張の真ん中らへんでペンを走らせ、名前や住所を書いたメモを破り、筆跡が残った下の紙を机と壁の間に落とす。  個人情報の書かれたメモを強く握りしめ、意を決してカーテンを開けた。  外には――ほうきに(またが)った人たちが(せわ)しなく空を飛び、黒い羽根を生やした(てん)()たちが「逃げるな、待て!」と追いかけている。  昼間から炎や人魂がふわふわ浮かび、アニメや漫画で見た一反木綿が魚のように泳ぐ。普通のカラスとともに三本足のある一回り大きなカラスや三つ目の鳥が羽ばたいていた。  急いでカーテンを引き直し、口から飛び出しそうな心臓と混乱する頭を落ち着かせる。 「お目覚めですか」  声のするほうへ顔を上げた僕は大声で叫んだ。  身体が半透明に透けた足のない初老の男が立っていたからだ。 「ゆ、幽霊!?」 「おい、ガキンチョ。人に向かって指を差すとは、どういう了見だ?」  足元に目線を落とせば、パグのような顔をしたヒゲヅラの男がいた。顔は人間だが首から下は完全に(パグ)だ。 「そうよ。オメガであるあなたを保護したのに、お礼もなしなんて部長に失礼じゃない」  顔を上げると、蛇のように首の長い女の人の顔が眼前にあった。  僕は石のように固まり、そのまま口をきけなくなってしまったのだ。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」  女性から渡された毛布を羽織り、ベッドに座りながら、紙コップに入れてもらったホットレモンティーをちびちび飲む。  彼らの話を要約すると――たまたま異世界へ渡る入り口(ゲート)の側にいたせいで、僕は並行世界(パラレルワールド)の地球へ来てしまったのだ。  僕のいた世界が科学技術の発達した地球だとしたら、ここは空想世界の存在を具現化した地球だ。  神仏や(よう)(かい)|に幽霊、魔物や天使、悪魔といった(あやかし)が人間と共生している。  犬のおまわりさんが腕組みをして「きみのいた世界と同じく、ここにはバース性もあるよ」と、しゃべった。 「はあ」と返事をしながら人面犬に、ろくろ首、幽霊を順番に見ていく。  ――神社にいた僕はヤクザにリンチされたり、階段から落ちて死んだから、この世界へ来たのかもしれないと考える。 「安心して。九割方は異世界へ行っても、元の世界に戻るし、別世界で過ごしたときの記憶は忘れちゃうみたいだから。ところで、ここへ来るまでのこと、何か覚えてないかな?」 「えっと……向こうの世界の稲荷神社にいました。ヤクザに追いかけ回されて逃げていたんですけど、捕まりかけたら境内の扉が開いて、中へ吸い込まれた気がします」

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