6 / 8
妖怪アルファの番に指名されたオメガ
扉がけたたましい音を立てて開かれる。
「律!」
背中には大きな白い尻尾、頭にはふわふわした白い耳が生えた美形に名前を呼ばれ、僕の心臓は壊れそうなくらい高鳴り、頬は火がついたかのように熱くなった。
十九年間、好きな人や憧 れの人もいなかったのに、目の前の人が気になってしょうがない。
名前も、性格も知らないけど顔立ちも、体つきも、声もすごく魅力的で、かっこいい。
身体の奥が熱を持ち、頭がぼうっとする。
「天 坊っちゃん、お早いご登場ですね」
幽霊さんが口元を綻 ばせる。
「うるせえ、なんか文句あっか!?」と彼はゆでダコのような顔色をして、荒い口調で返事をする。
「いえ、警視総監殿と最高裁判所の判事様のご子息で、公安警察として名を馳 せている白狐 の天なら引手数多 でしょうに。この人がおさがしの方で?」
「そうだ。なあ、律?」
「――誰 ですか?」
男の人は琥 珀 色の瞳 を見開き、形のいい薄い唇を戦慄 かせた。
「何も覚えてねえのか……?」
「天さん、律さんは、精神的ショックを受けて混乱しているのよ」
「何? 署長、説明しろ」
「律くんは家族に捨てられ、借金をかたにヤクザへ売り飛ばされた、違法風俗店で働くよう脅されたんだ」
「なっ!?」
「幸い最後まで行為は行われなかったみたいだけど、店を抜け出し、ヤクザに追いかけ回されたんだよ」
犬のおまわりさんの説明を耳にすると、男の人は、今にも泣きそうな顔をして僕を見つめた。
僕より年上なのに、なんだか子どもみたいで、あべこべだと笑ってしまう。気がついたら見知らぬ彼を抱きしめていた。
最初は身体を硬直させていた――天さんの逞 しい腕が、ぎこちなく背中へ回る。
ペパーミントの清々しく爽 やかな香りは、どこか懐かしくて気持ちが安らぐ。
いつの間にか部屋には僕と天さんのふたりきりになっていた。
「天、さん」
「……なんだ」
熱い眼差しを向けられる。
それだけで心臓が大きく脈打った。
ともだちにシェアしよう!

