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妖怪アルファの番に指名されたオメガ

 扉がけたたましい音を立てて開かれる。 「律!」  背中には大きな白い尻尾、頭にはふわふわした白い耳が生えた美形に名前を呼ばれ、僕の心臓は壊れそうなくらい高鳴り、頬は火がついたかのように熱くなった。  十九年間、好きな人や(あこが)れの人もいなかったのに、目の前の人が気になってしょうがない。  名前も、性格も知らないけど顔立ちも、体つきも、声もすごく魅力的で、かっこいい。  身体の奥が熱を持ち、頭がぼうっとする。 「(てん)坊っちゃん、お早いご登場ですね」  幽霊さんが口元を(ほころ)ばせる。 「うるせえ、なんか文句あっか!?」と彼はゆでダコのような顔色をして、荒い口調で返事をする。 「いえ、警視総監殿と最高裁判所の判事様のご子息で、公安警察として名を()せている白狐(びゃっこ)の天なら引手数多(あまた)でしょうに。この人がおさがしの方で?」 「そうだ。なあ、律?」 「――(だれ)ですか?」  男の人は()(はく)色の(ひとみ)を見開き、形のいい薄い唇を戦慄(わなな)かせた。 「何も覚えてねえのか……?」 「天さん、律さんは、精神的ショックを受けて混乱しているのよ」 「何? 署長、説明しろ」 「律くんは家族に捨てられ、借金をかたにヤクザへ売り飛ばされた、違法風俗店で働くよう脅されたんだ」 「なっ!?」 「幸い最後まで行為は行われなかったみたいだけど、店を抜け出し、ヤクザに追いかけ回されたんだよ」  犬のおまわりさんの説明を耳にすると、男の人は、今にも泣きそうな顔をして僕を見つめた。  僕より年上なのに、なんだか子どもみたいで、あべこべだと笑ってしまう。気がついたら見知らぬ彼を抱きしめていた。  最初は身体を硬直させていた――天さんの(たくま)しい腕が、ぎこちなく背中へ回る。  ペパーミントの清々しく(さわ)やかな香りは、どこか懐かしくて気持ちが安らぐ。  いつの間にか部屋には僕と天さんのふたりきりになっていた。 「天、さん」 「……なんだ」  熱い眼差しを向けられる。  それだけで心臓が大きく脈打った。

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