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 王城で大事にされすぎたカシウス王子は領地の見回りにもほとんど出向かないと聞き及んでいる。公務はおもに城内の執務室での書類仕事のみ、城下にも滅多に顔を見せないそうだ。  それどころか、御年二十六歳にもなられるのにいまだ奥方も迎えられていない。このあたりでは王族や貴族の者たちは早ければ十代半ばで結婚するのも珍しくはないというのに、だ。  城にこもり、浮いた話のひとつもないとなれば、箱入りだの世間知らずだの言われても仕方ないだろう。 「でも身内って言ったって、その、甘やかしているっていう人たちばかりなんじゃ――」 「おいそこ、殿下の御前で不敬だぞ」  とそこで警備の騎士に諫められ、ウワサ話に花を咲かせていた街の者たちはあわてて前へと向き直った。  話の内容までは聞かれていないだろうが、思ったよりも目立っていたらしい。本来接待側のノーランは王子付きの騎士ににらまれ、気まずそうに居住まいを正していた。  商館のまえではカシウス王子が馬車に乗り込むところだった。  集まった民たちに声くらい聴かせてくれてもいいのに。ジェレミーはそう思いつつも王子から目が離せなかった。 「たしかに見てくれはいいな……それに、金持ちだ」  ジェレミーは王子を見ながらぼそりと呟いた。  うん? と訊き返したノーランに「いや、なんでもない」と返す。

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