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 オメガの者たちにとっては厳しくつらいこの世界で、ジェレミーがいまのように何不自由なく生きていられるのは、ひとえに父親が世間に名の知られた大商人であるからだ。  ジェレミーの父ダニド・クラヴェルといったら泣く子も黙るクラヴェル商会のやり手頭目。その息子を蔑ろにしようなどという者は少なくともこのメールの地にはいなかった。  父も母も、大変な努力と苦労の末にいまの地位を手に入れた。やり方は息子の目から見ても少々がめついが、そのぶん街の繁栄にも大きく貢献している。商館に続く街の大通りに石畳を敷いたのもクラヴェルの仕事だ。  そんな両親をジェレミーは心から尊敬していたし、大切に思っていた。  子どもがオメガと判明するや手放す親も多いなか、ジェレミーの両親はそれまでとなんら変わらない愛情を注いでくれた。オメガ性のせいでこの先息子が苦労することがないようにと、父はよりいっそう商売に精を出し、金を稼ぎ――その思惑どおり、息子はだいぶ奔放に、そしてやや態度もデカく育ったというわけだった。  無論、父親の商売人気質も色濃く受け継いで。 「第一王子、世継ぎの君、か……総資産ってどれくらいになるんだろうな」  そんなことを呟きながら、ジェレミーは頭の中でそろばん勘定を弾く。  これはもうクセのようなものだった。いや、商売人の(さが)といったところか。  街一番の商人の家に生まれたジェレミーは、まがうことなき商売人であり、それがまた自らの誇りでもあるのだった。

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