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 今夜の宴に呼ばれていないジェレミーは堂々と庭を横切るわけにもいかず、物陰で声をひそめる。ブロア邸には幼いころから出入りしているため、潜り込むのもお手のものであった。 「どうもこうもない。カシウス殿下のそばに侍っているのはフランティーヌじゃないか。まさか彼女に殿下の一夜のお相手をさせる気か? おまえも知ってるだろうが彼女は――」 「わかってる、わかってるよ。彼女は靴屋のビルに惚れている、そんなことは街じゅうの人間が知ってる……それもどうかと思うが」 「しょうがないだろう、フランティーヌの好意はダダ洩れだ。そこが彼女が周囲から愛される所以でもある。あんなに一途にひとりの男を想う少女――そう、まだ少女といっていい歳だ、十六歳なんだぞ。そんな彼女をいけにえに差し出すなんて、親父さんどうかしているとしか思えないだろうが」 「いけにえなんて言うなよ。しかしそれこそしょうがないだろう、ウチの親父は権力に弱い」  視察に訪れた王族らをその地の領主がもてなすのは当然の務めである。  その際、一夜のお相手に地元の若い娘が選ばれるのもむかしからあることだった。

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