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 その後たどり着いた王子の執務室では、カシウス本人と側近のヴィドール・ミレーが待ち受けていた。  カシウスはジェレミーを認めるや、その凛々しく整った眉をきつく寄せて睨みつけてきた。 「よくもだましてくれたな。き、貴様のせいでわたしは……!」  いまにも立ち上がって激昂しそうになっているカシウスをヴィドールが宥める。  残念なことこの上ないが、どうやらジェレミーの期待はあっさりと打ち砕かれたようだった。  カシウスのほうでもあの夜のことが忘れられず、それで呼び寄せられたのではないか――そんな甘い考えは通用しなかったらしい。  カシウスは憤懣やるかたないといった様子で「さっさと出ていけ、顔も見たくない!」と声を荒げている。 「殿下、ひとまずここはお鎮まりを……過日の件、この者で間違いないのでございますね?」 「ああ、そうだ。こやつで間違いない。この、この不埒な者がわたしの寝所に押しかけてきて――!」 「えぇ殿下、わかっておりますとも――ジェレミー・クラヴェル」  ヴィドールに呼ばれて背筋を伸ばした。  これほどまでに世継ぎの君を怒らせてしまった結果どんな沙汰がくだされるのか――にわかに窮地に立たされたジェレミーは冷や汗をかきつつも、いつ懐の金貨を差し出そうかと機会を窺う。 「見てのとおり、殿下は大変にご立腹だ。その理由はわかるな? ――そう、先日訪れたメールにて貴様が殿下の寝所に忍び込み、おそれおおくも不埒な行いを働いたためだ。それにより殿下は現在少々――うむ、ほんの少しばかり情緒が不安定になってしまわれている」  不埒な行いを働いたのは否定しないが、その相手を見るなり怒鳴りつけてくる情緒が「ほんの少しばかり」不安定だと言われたことには驚いた。  なるほど甘やかされているとはこのことか。  内心で納得しつつもジェレミーは殊勝な態度を崩さない。

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